第4話
死んだ、はずだった。
伝説の竜は眠っていた。彼女は知らない。人間たちの生きる世界では自分が“水神”と崇められるような存在であることを。
苔や藻に覆われた鱗や、湖の底から生えた蔦はその巨体に絡まり、長い年月の間起きていないことを示していた。石のように動かず、じっと眠っていた。
ゆっくりと、その重い瞼が開かれた。隙間から覗く宝石のように透き通った目が捉えたのは人間の少女だった。精霊に愛された少女。
何故、人間がここにいるのだろう。
竜はぼうっとした頭で考えた。何故だろう、と。
少女の服は水を吸い、重く、そして確実に少女の体温を奪い、命の終わりがトコトコ近づいてきていた。体のあちこちが傷だらけで、少女は『瀕死の重傷』だった。呼吸も浅く、生きているのか死んでいるのかという状態。
竜がいるのは水中だ。そして人間の少女がいるのも水中――湖の中、だ。竜の住処であるこの場所の水は特殊で、肺を持つ生き物でもこの中では息をできるのだ。
――私には関係ないけど。
二度寝を始めようとした竜を叩き起こしたのは様々な精霊たちだった。ひどく怒った様子で、とにかくこの人間の少女を助けろと周りでぎゃあぎゃあ喚くのだ。
とてつもなく煩い。それはもう、とてつもなく煩かった。
竜は少女を見下ろした。そのとき、目が合ったような気がした。
しかし少女の目は死に対する絶望も、悲しみも見えなかった。死を受け入れていないわけではないが、生きることを諦めてもいなかった。
死に損ないの人間にまっすぐ見つめられた竜は、面白いものを見つけたと笑った。
そうして竜は人間の少女の命を救ったのだった。
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