愛する=幸せ

拓魚-たくうお-

愛する=幸せ…?

 今年 二十五になる僕には、付き合って五年になる大好きな女性がいる。

 僕は彼女の全てを愛している。長く艶やかな黒髪。鋭くも暖かい眼。僕の全てを包み込んでくれるかのような包容力。暖かい肌。匂い。声。綺麗な胸。そして何より、僕への確かな愛を持っているところが大好きだ。

 昨日の夜だって、ベッドの上いつもの場所で彼女は僕に何度も何度も愛を叫んでくれた。その姿が愛おしくて、美しい黒髪の一本一本すら愛おしく思えてきて、僕もそれに呼応するかのようにたくさんの愛を注いだ。

 紛れもない事実、僕は彼女を愛していて、彼女は僕を愛している。

 こんな幸せな日々、他の誰が送っているであろう。僕だけこんなにも幸せでいて良いのだろうか。そう考えてしまうほどに、僕は今、本当に幸せである。


 しかし何故だろう、二日前の午後七時三十五分から、彼女と連絡がつかない。LINEをしても既読がつかない。電話をかけても声は届かない。

 今までこんなことは無かった。一時間に一回以上は必ずLINEをするようにしていたし、眠れない時は電話をかけ、寝落ち通話をした。

 彼女と連絡がつかない。彼女と愛が共有できない。そんなこと、あってはならない。そんなこと、許されるはずがない。


 行き場のない怒りが僕を襲った。その怒りに一時間程振り回された。


 しばらくしてイライラが治まった僕は、疲れたので寝ることにした。











 翌日、目が覚めてすぐ開いたスマホの画面には、十時ちょうどを示す時計のウィジェットと、彼女からのLINEの通知が映っていた。気付いた時には通知をタップし、彼女の誕生日である四桁のパスワードロックを解いていた。開かれたトーク画面の一番左下。彼女からの最新のメッセージにはこう書いてあった。


 「ごめんなさい。私、あなたが怖くなっちゃったの。本当にごめんなさい。別れましょう。」


 


 …またか。僕の感想はそれだけだった。


 LINEには返事を打たず、僕はスマホを置いて部屋を片付けはじめた。僕と僕の彼女は半同棲状態にあったため、僕の部屋には元彼女の私物や、二人が共同で使っていたものがたくさんあった。

 大学生時代、何故か一昔前の恋愛に憧れて意味もなく回していた二人の交換日記。旅行に行くたびに撮って封筒の中にまとめていたたくさんの写真。元彼女からもらったが、入れ物すら愛おしく思えて開けずにとっておいた小さなプレゼント。それらが入っているタンスの上に立てていたたくさんの写真とともに、日記も、封筒も、プレゼントも、開かないまま次々にゴミ袋に入れた。


 しばらく部屋を片付けた後、僕はまた少し眠った。

 目が覚めたのは午後一時。カーテンの隙間から差し込む西日が眩しすぎて目を覚ました。もうこんな時間か。僕はスマホの壁紙、パスワード、カバーケースも全て変えた後、恐らく人生で初めて独り言を零した。


 「ああ、幸せだったな。」












_________________________________



 あれから五年後。

 三十になった僕には、付き合って五年になる大好きな女性がいる。

 僕は彼女の全てを愛している。スマホの壁紙は彼女との写真。パスワードは彼女の誕生日。カバーケースは彼女とのお揃い。そんなスマホで、本日七度目の「愛してる」のLINEを彼女に送信しながら、僕はまた独り言を零した。













「ああ、幸せだ。」



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愛する=幸せ 拓魚-たくうお- @takuuo4869

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