第75話ゾンビーアポカリプスと、七穂の新パーティー加入

 オスロー領で行われていた戦闘は、一時中断となった。

戦死者達が蘇り、敵味方無差別に襲い掛かり、両軍総崩れになってしまったのだ。

遊牧民族は逃げ帰り、エスタリア軍も撤退を余儀なくされる。無論、その行軍は動く死体――ゾンビ共に阻まれるのだが。

ゾンビを撃退しつつチェリオ方面への道を急ぐ行列の中二、チェルシー達の姿もあった。


「手足を潰しなさい!頭だの心臓やったって、こいつら動けるわ!!」

「どさくさに南に行こうって気はねぇのか?チェルシー」

「無い!人間型の魔物は今まで見てきたけど、死体が蘇るのは初めて見た!あんたは?」


 マーカスには無い。


「俺もないな。どう見る?姐さん」

「知らないわよ!」


 叫ぶチェルシー目がけて、2本の矢が蛇行しながら近づいてきた。

風切り音で接近に気づき、躱した彼女は、向きを変えて前方から迫る矢を、愛用のメイスで砕く。


「今のはカンタ軍の矢か」

「生前の技量を保ったまま、しかし再生はしない…と見ても良いんじゃないか」


 剣士のゾンビは優れた白兵戦力を持ち、魔術師のゾンビは魔術を放って来た。

後者は頭が無くなった場合、攻撃力が激減するが、殴り合いで生者に襲い掛かる。


「何かの毒かな?南方に墓から掘り出した死体を蘇らせる薬があるらしいって聞いたぜ」

「だとしたら俺達もヤバいか?」

「術って線もあるわ。一条の光(レイ)!」


 チェルシーの鎚矛から放たれた光芒が、蠢く屍の群れを薙ぎ払っていく。


「漁獲(ハウル)!」


 近くに魔術師がいるらしい。

条件付けのフレーズを聞き取ったチェルシーが視線を向けると、黒髪の小柄な女が、屍の群れを魔術で集めて、稲妻で焼いている所だった。

その容姿、特に顔を見て、鎚矛の魔術師はある事に思い至った。


「ねぇ、あの女…スギムラに似てない?」

「あぁ?どこが…確かに似てるが」


 黒い髪、やや黄色がかった肌。

女は出身地が同じではないか、と感じさせる容姿をしていた。


「姐さん、あんまり荒っぽい事は…」

「ハァ?取って喰ったりしないわよ、人聞き悪い」

「どうしたんだよ皆、…ウリュウナナホがどうかしたか?」


 ミルドが話に割り込んできた。


「アポロン=カナメ神の使徒で、今はクインスのコジモ家の食客。パーティー解散してからは、ボルジア大学で教鞭取ってるそうだけど…」

「へぇ、他には?」


 それだけ、とミルドが口にすると、チェルシーは鼻を鳴らした。


「どうするんだ?」

「パーティーに誘うだけよ。この状況、戦力は必要でしょう」

「まぁな…」


 ゾンビの襲撃の切れ間を突いて、チェルシー一行は七穂に近づき、声を掛ける。


「なにか?」

「単刀直入に言うけど、パーティーに入ってくれない?戦力が欲しいの。もしいるなら、お仲間も含めて」

「願ってもない申し出、喜んで受けましょう。ただし仲間はいませんので、悪しからず」

「あぁ、そんなこと気にしないで。これからよろしく」


 チェルシー一行は七穂の意見を汲み、首都チェリオまで軍を誘導する事になった。

戦死者が蘇るこの状況、犠牲は減らした方がいい。彼女らも安全な拠点で今後について考えたかったので、ひとまずそれに従う。


「あなた、軍を撤退させたらどうするの?」

「何事もなければ、クインスに帰ります。よければ、一緒にコジモ家に来ますか?」

「本当!ぜひ!」


 声を弾ませるミルドを、マーカスが窘める。


「カナメ神の使徒って聞いたが、スギムラヨシヒロって奴、知ってるか?」

「…えぇ。こうこ――学生時代の友人です」

「本当?こっちで会った?」


 七穂が否定すると、チェルシーは興味を無くした。

学校…高校時代の人となりについて知ることが出来たが、戦力については、自分達の方が情報量は多い。

ただ、尖兵だけあって、様々な呪文を知っている。チェルシーは2つの呪文を教えてもらい、彼女も2つ、七穂に呪文を教えた。

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