第48話パーシバル脱出、巨人と交渉できません
「うあぉ!」
声を漏らしたヘルルダムは左脛を動かし、蹴り飛ばそうとするがウィルは既に姿を消している。
彼は巨人の脚を駆けあがり、左脇腹を斬りつけて、その後方に離脱。クリスが間髪入れずに冷気を胴体に叩き込む。
空いた左手で少年を掴もうとするも躱され、手首を強かに打たれてしまう。十数発が一度に襲い掛かり、出血。
その間にマーカスが右脛を薙ぎ払うも、筋肉に阻まれて骨まで届かない。
「あぁ、邪魔だ!」
ヘルルダムは思い切って真上に跳び、咆哮する。
その体格に見合った声筋と肺活量から繰り出される雄叫びは、兵器の域に達しており、彼はウィル、マーカス、チェルシーの動きを止める事に成功。
しかし――落下する途中、佳大の拳が右鎖骨に突き刺さり、皮鎧が破ける。
巨人は背中から床に倒れた。土煙が十数mも高く舞い上がり、ヘルルダムの周囲は何も見えなくなる。
「おごぉ!?なんでぇ!?」
「はっはひはぁ、ほひふ」
黄金狼に変化したクリスが、巨人の右脛に齧りつく。
マーカスがつけた傷に牙を沈めるが、骨をかみ砕く事が出来ない。
佳大はヘルルダムの胸に立つ。そこに巨大な右掌が飛来。彼を強かに打つ。小石のように飛んだ佳大は黄銅のオブジェにぶつかり、背骨に衝撃が走るも、すぐに立ち上がった。
彼もさることながら、凹みすらつかない重機も頑丈だ。巨人が扱うとなると、この程度の衝撃にビクともしてはいられないというのか。
やがて土煙が晴れる。その瞬間にチェルシーの号令と共に、一条の光(レイ)が撃ち込まれた。
ヘルルダムはうつ伏せになり、クリスに噛みつかれた右足を振り回す。
地面を蹴りつけるように動かし、黄金狼を床と足で何度も挟み込む。しかし、クリスは右足に噛みついて離れない。緩むどころか、右足から感覚が無くなってきた。
冷気を体内に直接流し込まれているのだ。血管が凍り付き、全身を痛みに食い荒らされる。
その間にウィルが背中に飛び乗り、長槍を突き立てる。
貫通せず、穂先は頸骨で止められてしまう。ヘルルダムは彼を払うべく、身体を一回転させる。
その寸前で、彼は身体を蹴り、距離を取った。
「うぐぉおお…」
「はがががが――」
クリスはおもむろに、右足を離した。
巨人の右足に噛みついている状態に飽きたのだ。面白くない。
叩き潰された痛みは、狼の身体の底に沈殿しているが、傷はついていなかった。
彼は背中に飛び乗り、喉に食らいつく――それと同時に、佳大の拳がヘルルダムの頭蓋に突き下ろされる。
勝負はまもなく決した。
ヘルルダムの息が止まるのに呼応して、部屋に持ち込まれたオブジェが投げかける光が、赤色に変わる。
「終わったらしいな」
「だな…あぁ!どんな筋肉してんだコイツ」
マーカスは大儀そうに、背丈ほどある右前腕に食い込んだ剣を抜いた。
大広間の奥に入口があり、その先にも空間があると見ていいだろう。一行は坑道の奥に、足を踏み入れた。
起伏のある通路を抜け、まもなく楕円形に刳り貫かれた部屋に出る。出入口は見当たらず、壁を調べてみるが、隠し扉も発見できない。
部屋には金鉱石が、手つかずのまま残されている。
「お、これって金じゃない?」
「あら、拾うの?」
「僕はいらないよ。お姉さんにあげる」
「いらないわ」
クリスがおもむろに鉱石を拾い、チェルシーに投げ渡す。
冷ややかに拒んだ彼女が投げ返すと、クリスは囁くような声で笑い、放り捨てた。
ジャックは惜しそうに金鉱石の山を眺めていたが、人目を気にして、手をつけることはしない。
佳大一行は報酬の2ゴルドを受け取ると、パーシバルをそそくさと後にした。
マーカスら3名と、なるべく顔を合わせたくない。彼らは帰還の符を持っており、それを使って早々と脱出。
符を入手できなかった4名は来た道を逆走する羽目になった。待ち伏せをしていると佳大は考えたが、予想は外れ。彼らは無事に、街に辿り着く事が出来た。
「結構頑丈だったね。僕らだけだったら、もうちょっと楽しめたのにな」
4名はパーシバルを出発、ターニャはジャックの馬に乗る。佳大の操る軍馬の上で、クリスは微笑んだ。
「7人がかりだったからな。あいつら、どうやって西大陸からこっちに来たんだろう?」
「さぁな。穴を掘ってきたようでも無さそうだし…、奴らの魔術かも知れん」
「そういえば、転送魔術とかないのか、ジャック?そういうものがあれば、向こうに一跳びなのに。」
「あるにはある。だが、現在地から距離が遠くなるほど、成功しなくなる。熟達した魔術師でも、山一つ越えるのがせいぜいだ。もし精度の良い転送魔術があれば、人の行き来はもっと活発になっているさ」
その日の晩、野営地で佳大は物思いに耽る。
あの巨人は倒して良かったのだろうか、ロムード…神の思い通りに動いているようで癪だ。佳大はジャックに意見を求めてみる事にした。
「巨人と手を組む事は出来ないのかな?」
「無理だ。俺達が向こうに就くという選択肢はとれるがな……そんなこと考えてたのか?」
「あぁ。巨人をイースの神々にけしかけれたら、文句なしじゃない」
「連中を動かせる材料があるのか?」
「ないよ」
ジャックはわざとらしく溜息を吐く。
「巨人…巨人族だったか、という事は1、2人ではないよな。何十何百といるだろう」
「神の方もな。12人いるんだろ」
「それだけじゃない。イース十二神に属していない神々…それから神殿騎士とかも含めるなら、一個の軍勢と見ていい。俺達はどうだ?」
「4人」
「交渉のテーブルにつく事も出来んだろうな」
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