第47話パーシバル坑道で巨人と出会う
「俺はウィル。こっちの女はチェルシーだ」
「マーカスだ…、話がついたなら、さっさと奥に行くぞ」
2人はひとまず場が収まった事に、内心安堵した。
二つのパーティーはどちらから切り出した訳でもないが、横並びに近い形で奥に進む。
佳大としては、前……背中を晒す形になるかもしれないと思ったが、そのような要望は出なかった。
迷宮化している事もあり、彼らは坑道内で窮屈な思いをすることは探索を続行。
「チェルシー」
「…なぁに?私の機嫌でも取りたいのかしら?」
佳大は発見した水晶玉を投げ渡す。
チェルシーは外套から伸ばした右手で優しくキャッチし、水晶玉の妖しい輝きを眺めてから、凄みのある微笑を向けた。
スリットのある左側の手で、彼女はメイスを握っている。動く度にくびれた腰や肉付きの良い腿が露になるが、それを気にする人物でもない。
それよりも素足で坑道内を歩かされることを、不満に思っている。
また、装備がほぼ全て消えた事も非常に不愉快だ。
現在、彼女が装備しているのは両足首のリング、手にしたメイス、首から提げたアミュレットのみ。
いずれも迷宮で入手したものだ。メイスは襲ってきたベテラン冒険者を返り討ちにして、奪い取った。
「慰謝料だ。あんなことがあったし、どうしても遠慮しちゃうんだよ」
「そう…、なら、有り難くもらっておくわ」
水晶を渡されたウィルは、平静を装いつつ懐に収める。
「いいのかい、ジャック?ヨシヒロってば、見つけた道具は全部、あっちの女に渡しそうだよ?」
「…クリス、ちょっと静かにできないか」
「おや、冷たい。いいよ。それなら此処を出るまで、僕は口を利かないでおこう」
やがて7名は、装飾の施された大きな扉に出くわした。
あちこち調べてみるが、開く気配は無く、取っ手なども見つからない。マーカスが蹴りを入れるが、鈍い音が響くだけだ。
「えぇと…ヨシヒロだっけ?これ、開けられないか。俺達じゃどうにもならないみたいなんでな」
「あー、いいよ」
3名が離れた扉の前に、佳大が立つ。
右脚を蹴り出す勢いで小さく跳び、回転。滞空したまま左足で蹴りを繰り出すが、こちらには体重があまり乗らなかった。
しゃがんで着地した佳大が見た時、扉は奥に向かってひしゃげていた。
「頑丈だねー。ターニャでも入れそうにないかな?まだ…」
「まぁ、この調子なら」
佳大は立ち上がり、左右一枚ずつに掌打を放った。
扉は音を立てて吹き飛び、隠されていた景色が露になる。先程の石切り場の倍は優にある大ホールに、黄銅の重機らしいオブジェが多数持ち込まれている。
ちょっとしたビルのようなそれらは鼓動し、また部屋全体に光を投げていた。
部屋の半ばほどに、男が寝ている。
革の鎧を身につけ、逞しい両腕を晒す偉丈夫――その身長はさきほどのアブノーマル・ミノタウロスに匹敵する。
しかし、夏草のように生い茂った顎髭、耳たぶを一周する金属のリング、顔の造作。どう見ても人間だ……巨人。
ロムードが警戒する、イースの神々の敵が、佳大の前に姿を現した。
「なんだなんだ、うるせぇな。今日の作業は終わりだ――おいおい、またか」
男は大儀そうに起き上がり、胡坐をかく。
「お前がこの迷宮の主か?」
「迷宮?あぁ、そりゃ勝手に出来たもんだ。お前ら、前に来た奴らとは違うみたいだが、何の用だい?えぇ?」
「前の連中と、用件は同じだ。木偶の坊」
ウィルが顎をしゃくり、挑発する。
「ふひゃひゃ…木偶の坊とは面白れえ。それじゃ、相手してやるよ、虫けらども!」
男――ヘルルダムは笑いながら、枕元に置いてあった斧を取り出す。
刃の背がピックになっている片手斧だが、持ち主の体格もあり、小屋を真っ二つに出来そうなほど大きい。
「小さな剣(レッサー・ソード)」
「小さな盾(レッサー・シールド)」
チェルシーは巨人が立ち上がるのを待つ事無く、魔術を唱える。
ジャックもそれに反応して、魔術を唱えた。3名の筋力が、4名の頑健さが向上する。
体格に似合わず、ヘルルダムの動きは敏捷だった。
常に一定の距離を保ち、斧を振り上げる。自分より小さな相手との戦いに慣れているのか、中腰も苦ではないらしい。
斧を振り切った所に、ウィルが飛び込む。躊躇なく左脛の前に立った彼は、長槍を三度奔らせる。
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