第49話佳大殺害計画、嘗ての仲間を加えて
一方、ウィル達は一泊してから街を発った。
チェルシーが佳大達に襲撃を掛けないか気がかりだったが、彼女は大人しくしていた。
「見送ってよかったのか、チェルシー?」
「…狩るにしても準備がいるでしょ。こっちは装備が殆ど消し炭にされたんだから」
「あぁ…」
ウィル達は、佳大一行より早く帰還した。
チェルシーも既に、替えの衣服を購入している。彼らは依頼達成の夜、宿で会議の時間を設けていた。
議題は勿論、佳大一行について。
「もしやるなら――」
「やるの。何日和ってんの?」
チェルシーに殺気を向けられ、マーカスは口元を歪ませる。
「炎と冷気への備えがいるよな」
「あと、あの魔術師が毒の魔本を持ってたわ。それと打撃への備えもいる」
「あぁ、放り投げてたもんなぁ…」
「それに獣人だろ、あの顔の綺麗なガキ」
石切り場の巨人を放り投げた姿は、チェルシーですら息を呑んだ。
巨人に何度蹴りつけられても怯まない、黄金狼の耐久力。決死の覚悟が必要になるだろう。
「鎧で防げるかねぇ」
「無理だろ。魔術で障壁でも張ってもらわねぇと。一発貰う前に押し切るのが妥当だと思うぜ」
攻撃を完全に遮断する障壁の魔本は、彼らが聞いた限りでは存在していないはず。
使い手が東大陸の南方にいるらしいとは聞いているが、名前すら知らない。
「アンタのペンダント、どこで手に入れたっけ?」
「エスタム。ン・カイの神殿の奥だ」
エスタムは東大陸の南端に広がる熱帯雨林である。オーガ族の領地だ。
「それ市場に出回ってないって話だろ。売らなくてよかったな」
「じゃあ、一旦、エスタムに戻りましょう。最悪、他で代用するわ」
「拳や爪は?」
「相手に攻撃させる隙を与えないで…としか言えないわ。あの2人を同時に殺るのは避けたいんだけど…どこかで別れないかしら」
1対1ずつでは、こちらの分が悪いだろう。2対1に持ち込み、1人ずつ潰す――策は無い。
「ミルドがいれば、一服盛ってもらうのに」
チェルシーはパーティーを離れた男の事を思った。
大した戦力にはならない軟派野郎だが、いないよりはマシ。ミルドは薬師の家で17まで修行していただけあって、簡単な調合・薬草の鑑定ができる。
「毒で殺そうってかい?それなら俺は降りるぜ」
「冗談よ。痺れ薬くらいなら飲ませてもいいと思うけど、それで命まで取ったら物足りないじゃない。あいつらの顔は私がべこべこに凹ませてやるの♪」
チェルシーは目を剥き、口の端を吊り上げる。
彼らは一旦、エルフィに引き返し、船で南方に渡ることにした。東大陸の東側は峻険な山脈が聳え建っており、中央の平原には遊牧民族がうろついている。
血の気の多いチェルシーにしても、今は余計な消耗をしたくない。
1足遅れてパーシバルを発ったウィル一行の前に、エルフィの城壁が姿を現す。
酒場で一杯やっていると、耳に馴染んだ声が掛けられた。振り返ると、背はあまり高くない、長い髪を後ろで括った鷲鼻の優男がいる。
彼はきまりが悪そうに、3人のテーブルに加わった。
「ミルド!」
「お前、こんな所で何やってんだ?縫製屋は?」
「追い出されたんじゃない、違う?」
ミルドは曖昧に返事をするだけに留めた。
彼は薬屋に生まれながら、復職で身を立てる夢を持ち、ある店に就職口を得て働いていたが、同僚の女性を妊娠させてしまったのだ。
店を追い出され、相手方の親族にあわや殺されかけ……これからどうするか悩んでいた頃、嘗ての仲間が付近に滞在している事を知ると、荷物をまとめて追いかけた。
「まぁ、そういうこと。こっちにいるって聞いてさ、結構探したぜ。それで早速なんだけど、薬師は入用じゃない?」
「いて困ることは無いが、悪い時に来たかもなぁ」
「?」
ミルドはパーシバルでの経緯を、ウィルの口聞く。
「神通力持ちか?」
「使徒なんだろ。神通力どころじゃねぇ、神様から妙な力でも貰ったんじゃねぇか」
マーカスがぶっきらぼうに言った。
彼らの世界には、魔術師とは別に、超能力者が存在する。
魔物憑き、神通力持ち……共同体から遠ざけられる点において、両者は同じものだ。
集落に福をもたらすものは崇められ、禍を成すものは石礫をもって追い出される。マーカスはそうやって、故郷を捨てた口だ。
「そういう事なら、俺も力貸すぜ。みんな」
「ありがてぇ!またよろしくな!」
ウィルとミルドは固い握手を交わす。その光景にチェルシーは微笑み、マーカスは口元を緩ませる。
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