第18話地下迷宮攻略(3)

「1人足りなくない?」

「あんたらは…」

「冒険者ギルドで依頼を受けた者です。既に2人帰しました」


 囚人の間にざわめきが広がった。

助けが来た、生きて帰れる事を素直に喜んでいる。

血統もはっきりしない冒険者を差別するような色は浮かんでいない、相当憔悴している事は見ればわかる。

嵌められた首輪は鎖で繋がっており、一塊の集団にされている。自由に動ける反面、鎖を切らない限り、部屋からは出られない。


 部屋の中に調度品は無い。

出入口を抜けてすぐ、目の前に格子が現れる。

囚人を入れて置くスペースの、隅の方に楕円形の穴が空いている――恐らくトイレのつもりだろう。


「マシュー…若い新兵が1人、連れて行かれたんだ!救出を頼んでもいいか?」

「勿論。仕事なので」


 佳大は離れるように言うと、鉄格子を切って入口を作る。

拾い物の剣は何度か使う内に姿を変え、刀身には炎を思わせる曲線模様が浮かび、鍔は鹿の角のように変化した。

格子は佳大が握っても、指が触れないほど太い。それがクッキーのように軽々と折れた。マジックアイテムの腕で4名を城に送ると、クリスが口を開いた。


「ねぇ、ジャック。さっきから黙ってるけど、どうしたの?」

「目立たないようにしてたんだ。俺は魔物だからな。連中、気付いていないようだったが」

「あぁ…、そっか。街に入れるかな?」


 街には魔物が出ない、大多数のRPGではそのように設定されている。

此方の世界――現実に落とし込む場合、どうなのだろう。街そのものに魔物を避ける仕掛けがされているのだろうか?


「考えた事も無いからわからん。いなくなった一人を見つけてからだな」


 第5層に降りると、クリスが面白そうな顔で3時の方向を眺めた。

佳大にもわかる、辺りを包む空気が変わった――石塔を背負わされたような重圧、迷宮の主がいる階層か。

通路を進んでいると、巨大な蟹が姿を現す。通路いっぱいに広がる巨体から、泡が吐き出されるが、クリスの放った冷気により凍り付く。

佳大が稲妻を落とすが、身体を傾がせただけで、3人の侵入者に向かって歩き出す。


「蟹が前に歩くな!」

「カニ……っていうの、こいつ?」

「名前なんぞ、どうでもいい。撃て撃て!火炎の檻(ファイア・ケイジ)!」


 ジャックが魔術の炎を纏わりつかせ、巨大カニを火だるまにする。

呪文を続ける間もなく、火に巻かれたカニの右腕が爆ぜた。クリスが砂を掴むように、右腕を千切り飛ばしたのだ。

佳大はカニの眼が妖しく輝いたのを見ると、剣を投擲。円を描いて飛んだ剣は、左目の中に沈む。

右目から細い光線が走り、床に亀裂を描いた。


 カニを倒し、見つかる道具は経年劣化がひどい日用品ばかり。ジャックの機嫌が悪くなる。


「もっといいものはないのか!折角帰還魔術があるのに…」

「持って帰っても仕方がないぞ、倉庫とか無いし」

「ずーっと地面見てるけど、何か欲しいものでもあるの?」

「あぁ?俺が欲しいのは希少な代物だ。金になるもの、強力な装備品とかな」


「道具を変化させられるって言ってたけど、使わないの?」

「これから戦闘があるんだろう。温存しておきたい」

「何発くらい使える?」

「…さっきのカニに撃ったのを含めて、体感7回だな。10回は超えられない」


 体感7回、の言を佳大は咀嚼する。

多いのか、少ないのか、佳大には計りかねた。大規模な魔術なら更に回数は減るだろう、ジャックが成長すれば逆に増えるのだろうか?

現代日本人だからか、ついゲーム的に考えてしまう。


「もし超えたらどうなるの?」

「知らん、迷宮内で空になるまで撃つ気はない。人間なら気絶するらしい」

「ジャックって、色々知ってるよな」

「あぁ?…そういえばそうだな。お前らと組む以前の記憶はないんだが」


 元は人間だったのかもな、とジャックは呟いた。

3人は重厚な金属扉の前で止まる。中からこちらを絡め取らんとする気配が漂ってくる。

示し合わせたように同じタイミングで足を踏み出すと、佳大は勢いよく扉をあけ放った。

金属製の留め具が外れ、佳大の背中に寄ったクリスとジャックの隣を、鈍色のドアが飛んでいった。

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