選ばれた現実は -3

 今か今かと待ち構えていると、これまでよりも十五分遅れて犯人たちはやってきた。車から降りて、警戒しながら校内に侵入してくる姿を確認して、急いで放送室へと向かった。


「――五十八、五十九――」


 さぁ、始めようか。


『あ、あ~〝日本の夜明け戦線〟の皆さん、ようこそいらっしゃいました。そして残念なお知らせです。すでに校内には教員・生徒、誰一人として残っていません。よって何事も無く引き返してもらえれば助かるのですが……まぁ、そうもいかないのでしょう。だから――お前ら全員、俺が相手してやるよ。その気があるなら職員室まで来い』


 ブツリッ、とマイクを切って急いで職員室へと戻った。


 ああ、全く。これだけ何度もやっていれば挑発の仕方にも拍車が掛かってきたな。神風たち限定ではあるが、もうほぼ百パーセント思った通りに動かせるだけの経験は積んだ。


 教頭の机の陰に隠れながら、正面に置いた反射率の高いホワイトボードを眺めていると、静かな足音が聞こえてきた。こちらが職員室を指定したわけだから警戒するのは当然。おずおずと入ってくるのを躊躇っているのが見て取れるが、罠が張られていないことがわかるとドアを開いて銃を構えた四人が這入ってきて、あとから女と神風が這入って来た。


「……来てやったぞ? どこにいる?」


 何度も繰り返していることだが、相手は初見なのに俺だけが顔馴染みってのはおかしな気分だ。


「ここにいる! それで全員か!?」


「ああ、そうだ」


 知ってはいるが、警戒している立場ならそういう質問をするだろう? そして――まず一つ目だ。携帯の通話ボタンを押した直後、外に停められた車の中にある爆弾が起爆して、校舎を揺らす爆風と地鳴りが起こって犯人たちの気が逸れた。


 まさかノートに記入しておいた番号がここで役に立つとは思わなかった。


 その瞬間を見逃さずに机の横から体を出して、片手の拳銃で犯人の足を狙い、もう片手でスプリンクラーを狙った。


 すると、スプリンクラーが反応したのか壊れたのか水が降り注いできた。


「クソッ、一人やられた!」


 一人やれたのか、当たった手応えはなかったのだが。二丁の拳銃を撃ちながら職員室を出ていくと、その直前に今度は確実に一人の胸に当たった手応えがあった。


 これで二人。


 後ろ向きに廊下を走りながら撃っていると、やはり濡れたくらいでは普通に使えるのか相手も撃ち返してきた。当然と言えば当然――


「っ――!」


 銃弾が二の腕を掠めたが、大丈夫だ。


 角を曲がったところで一息吐いたが銃弾は止まない。こちらも二、三発撃ち返して火薬玉を廊下に転がして、二つ離れた教室に入って銃を構えた。


「ふぅ……」


 六人対一人は洒落にならないな。残りは四人だが、そのうち二人が体に爆弾を巻き付けているなんて笑えもしないし……まあ、やるしかないよな。


 待っていると、犯人の構えた銃口が見えた。


 そして、火薬玉を踏んだ瞬間に三回引鉄を引くと、先頭に居た男の胸に当たって倒れ込んだ。残りは三人。


 次の男は火薬玉を踏んでも反応しないのはわかっていた。だから、すぐ横の消火器を撃って煙幕を張った。そして、足元に向かってひたすらに銃を撃つと、一人の倒れ込む影が見えた。やっと残り二人だ。あと、こっちは弾切れで残り二丁。


 とはいえ、あまりむやみに発砲は出来ないからな。ここまでがあまりに順調すぎて怖いくらいなのだが、気を抜くことは出来ない。むしろ、残りの二人にこそ慎重になるべきなのだ。


 理解しろ。一つのミスで、これまでの苦労が全て無駄になるんだ。頼むから、もう一度振り出しに戻るなんてこと、しないでくれよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る