第六章 選ばれた現実は -1

「なんで……なんでだよ! 俺にどうしろってんだ!? 俺だけが助かればいいのか? 違うだろ! 俺だけ助かることもできねぇ、俺が死んで他を助けることもできねぇ――だったら、誰を助ければいい? 犯人を止めりゃあいいのか? いったいどうやって!? なぁ? 教えてくれよ――いったい……いったい、誰を救えば……何をすりゃあ終わるんだよ……」


 こんなのは今更だってわかっている。だが、さっきのは完璧に近かったはずだろう。あそこで華と弥彦が戻ってくるなんて誰が予想できる? いや、予想できたとしたも、それをどう止めればいいのか俺にはわからない。


 ……わかっている。


 こうやって悩んでいても解決はしない。


「それなら――はぁ」


 もう一度、整理しないとな。


 不意に出た嘆息を呑み込みながら、頭を抱えた。


 仮にこの状況をゲームだと考えれば、幾重にも重なったルートの中から、一つだけある正しい道を選択しなければ、他の全てはバッドエンドへ続くということだ。


 バッドエンド――つまりは、死。


 いや、途中でセーブができて直前に戻るみたいなことができず、強制的に振り出しに戻されている分、より性質が悪い。


 そう考えると先程までは完璧に近かったというだけで、道は間違っていたということ。分岐点が多過ぎてどこで間違えたのかは判断付かないが、予想は付く。


 まずは正門で三人の教員が殺されたところだろう。極端なことを言えば、誰かが死ねば俺も死ぬ、と考えればいい。とはいえ、どうすればそれを防げるのかはわからない。


 事前に警察を呼んでおくとかはどうだ?


 いや、呼んだとしても数人の制服警官が来るだけで意味も無く殺されるのがオチだろう。


 ……そもそも、助ける方法とか、殺させない方法とか――そういうことではないんじゃないか? もっと根本的な部分の解決を図るほうが得策な気がしてきた。


 時間も無いことだし、思い付いたことから試して――


「ああ……たしかに、持ってはいたけどな……」


 すでに収まり切らなくなっていたバッグの上に新たにもう一つ、爆弾が付け足された。


 銃に爆弾、これで俺も立派なテロリストだな。


「……テロ? そうか……犯人たちの先を行くんじゃなくて、先んじればいいわけか」


 一丁の銃を二重のビニール袋に入れて、固く口を縛った。


 出たとこ勝負をやるつもりだが、今までの経験則から勘は働くようになっている。


 道具に知識、そして経験があれば、あとは行動に移るだけだ。


 制服に着替えて、華を巻き込まないために別のルートで早めに学校へ。いくつかの荷物を持ち、ネクタイを外しブレザーを脱いだら、学校を後にした。


 バンが来る方向に進んでいき、一番大きな交差点に差し掛かったところで帽子を被った。人通りが少なくなるタイミングを見計らって、信号機の下にビニール袋を置くと足早にその場を去り、事前に持ち越しで手に入れていた自分以外の携帯を手に取った。


「……もしもし、警察ですか? いや、事件かどうかはわからないのですが、不審物を発見しまして……はい。いえ、わかりませんが……はい、信号機の下です。場所は――」


 住所を伝えて携帯の電源を落としてから、急いで学校へと戻った。


 これで警察が銃を発見すれば、すぐにでも非常線が張られるはずだ。長く持つとは思わないが、少なからず通行止めになるか検問が敷かれるだろうから、犯人たちは遠回りせざるを得ない。


 次に、階段の踊り場掲示板に貼られている校内地図を確かめた。


「最も見つかる可能性が低く……かつ、大ダメージを与えられる場所は……」


 候補は三か所。一階か、最上階か、間の三階。爆弾自体は化学の先生が確認すれば威力の大きさはわかる。だから、間の階で爆発させるのが一番被害が大きくなりそうだな。その中でも生徒棟の火災報知機の下に設置された消火栓の中に爆弾を置いた。当然、誤作動などで起爆しないようにしたつもりだが、実際のところはどうかわからないし、何よりも本物の爆弾だと思わせる必要もある。


 あとは携帯でラジオニュースでも聞きつつ経過を観察しておくか。


「あ、タグリ! どうして今日、先に行っちゃったの? いつもの場所で会わないから捜しちゃったよ」


「ああ、華。いや、悪いな。少しやることがあって早めに登校したんだ。連絡すれば良かったな」


「ん~、まあ、別に病気とかじゃないならいんだけどさ」


 それだけ言うと華は自分の席へと戻っていった。


「……はあ」


 この時間を何度も行き来しているが、繰り返す度に華との会話に緊張するようになった。俺は馬鹿だな。もっと普通に接しないと、余計に不安がられて一つ前みたいなことになりかねない。


 一先ずは気にしていないようだからよかったが、この先は少し気を付けないとな。


 鐘が鳴り響き、いつもなら担任が教室にやってくる時間だが、まだ着ていないことに教室内はざわついていた。もしかして、と意識をラジオのほうに向けると予想通りだった。


『――ただ今入ってきたニュースによりますと――の交差点で、拳銃のような物が入った袋が発見された模様です。警察は、直ちに持ち主の特定と、誰がどのような意図でそこに置いたのかを検証するとのことです。尚、現在――の交差点は通行止めになっているため、付近を通る予定がある方は迂回することをお勧めします』


 よし。予想通りだ。学校からそれほど離れていない交差点だから、危険物が発見された時点で、警察から学校へ連絡が来ているはずだ。おそらくは、そのいざこざで先生が遅れているのだろう。


 これで布石は打てた。次だ。

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