許容と寛容 -3
酷い死に方だ。
突っ込んできたヘリのプロペラで上半身と下半身は分裂して、破片でズタズタ、火災で炎上。まさに悲惨だね。
それはともかくとして、状況は理解した。俺に求められているのは生き抜くことではなく、事件そのものを止めろということだな。ひいては、死人を出すなということだ。まったく、神様ってやつは難度の高い問題をぶつけてきやがる。
整理しよう。
その一、どの場合でも俺は死ぬ。これはデフォルトだ。
その二、同じ時間を繰り返していることを他人に説明することは出来ない。
その三、説明さえしなければ助力は頼める(要検討)。
その四、助力を求めたところで、事件が解決するわけではない。しかも、俺は死ぬ。
その五、犯人の目的は自爆テロだが、その理由は依然として不明。
その六、多分、事件を解決して家に帰ってきても、俺の家は無い。
と、こんなところか。
重要なのは三から五なのだが、相も変わらずどうすれば他人の協力を得られるのかがわからない。絵に描いた餅を食べようとする者がいないのと同じで、絵空事に対して――例えば、対策マニュアルなどがあるのなら、そのマニュアルに従って常に準備を怠らない者はいない。というか、大抵は『大地震が来る(かもしれない)』というような心持ちなのだ。気持ちはわからなくもないが、改めて思い知らされるよ、準備は大切! ってね。
さて、ここからが本題だ。
前項を踏まえた上でどうするかということだが、最も簡単なのは、事件が起こる前に警察に通報して、事件そのものを無かったことにする。しかし、それは無理だとすでに証明済み。やはり、俺自身がどうにかすべきなのだろうが、今のところ最善の手は思い浮かばない。だからといって二番手、三番手の案があるのかと言えばの無いのだが……。
いや、実は策がないことも無い。しかし、事件を防げる可能性は低いし、おそらくはほぼの確率で振り出しに戻される。
とはいえ――
「試さないよりは、か」
どうせ振り出しに戻るなら、と好き勝手することは出来るが、それでも極力死ぬことは避けたい。自分でもよくわからないのだが……死ぬ度に、何かが欠けていく感じがする。少しずつ――少しずつ器から零れ落ちて失われていくような、そんな感覚だ。
背後から迫ってくる気配に、タイミングを見計らって体を折ると、バッグが頭上を通り過ぎた。
「あっ、避けられた! も~、おはよう、タグリ」
「ああ、おはよう」
これから何が起きるのか大筋はわかっているのだから、つまりは、回避することも可能だということ。だが、事前の準備をするほど時間の余裕はない。学校に付いてから三限が始まるまで凡そ三時間――しかし、授業の時間などを除けば実質一時間も無い。怪しまれずに行動できるのは三十分くらいだと見ていいだろう。
「なになに、どうしたどうした~、悩み事なら聞くよ? この華様に任せなさい!」
「ん……いや、悩みはないな」
少なくとも、華は巻き込みたくない。仮に手を借りることになったとしても足手纏いになる可能性が高い。だから、助力を求めるなら出来る限り有能で、俺の言うことを半信半疑でも信じてくれて、基本的な体力がある奴が良い。
……一人、居るな。
しかも、相当にスペシャルなハイスペックの持ち主が。犯人たちが、俺の不意打ちでも倒せるレベルなら、そいつに掛かれば瞬殺という可能性すらある。問題は、ハイスペックの持ち主が基本的にやる気がないということ。元より正義感が強いのなら、すでに行動している姿を見ていてもおかしくはない。
それと、もう一つだけ問題があった。
俺は、そいつとそれほど話したことがない。友達とも言えず、あくまでもクラスメイトという関係性だ。
少し様子を窺うべきだろう。
学校に付き、席に着いて教室内を見回せば、まだ当人は登校してきていなかった。
「ういーす」
来た。並外れた体格を持っているが、引っ込み思案のせいで目立つことがない男――
「どう、するかな……」
目立つことがないと言っても、弥彦が有名人であることに違いはない。
記憶によれば一週間ほど前まで海外でテコンドーの世界大会に出ていたはずだ。結果は……どうだったかな。ともかく、強いことは間違いないし、その強さのせいか一日中ジャージを着ていても注意すらされない。まあ、学校側からすればアピールする材料になる生徒を縛り付けるってのは、世間のイメージ的にマズいのだろう。
しかし、どれだけ強いと言っても相手は銃を持っている。何度も死地を体験して漸く慣れ始めた俺と違って、普段は虫すらも殺しそうにない弥彦には厳しいだろうな。
話半分に聞いたとしても事件が起きてから、実際に行動するのには時間が掛かるはずだ。とりあえず、今回はクリアを目指しつつも弥彦が使えるどうかを判断し、それ如何によって、その後の行動を考えよう。
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