現実との狭間で -4
「…………はあ」
まあ、そりゃあそうなるよな。
――っ。
さすがにあれだけ至近距離で爆風を受ければ、痛みもこれまでの比ではない。体の外側よりも、内側を――皮膚の下を焼かれている感じがする。しかし、とりあえずは目的を達成したらしい。バッグの上に並んだ防犯三点セットに粉洗剤、石。そして、メモが掛かれたノート。おそらく死んだときに燃えたと思うのだが、煤の一つもない。俺の体が元に戻るのと同じように、持っていたモノも復元させるわけか。それなりに賭けだったのだが、上手くいって何よりだ。
あとは車の番号を通報して――
「……いや」
携帯に『110』と打ち込んだところで手が止まった。
仮に通報したことで犯人たちが捕まったとしても、俺には『どうして犯行を知っていたのか』を説明する手がない。おそらくは非通知で掛けたとしても、こちらの番号は知られてしまうだろう。それなら道すがらの公衆電話でかけたほうが良さそうだな。……公衆電話、あったっけか?
とにもかくにも行動開始だ。
華とのやり取りをテンプレ気味に熟しながらも周囲に気を配るが、やはり公衆電話は見当たらない。
「なになに、どうしたどうした~、悩み事なら聞くよ? この華様に任せなさい!」
「悩みというか……この付近に公衆電話ってあったか?」
「ん~、携帯じゃダメなんだよね? たしか……ほら、近くの文化センターにあったんじゃないかな。ここ数年行ってないから、まだあるのかわからないけど」
「文化センターか。なるほど……じゃあ、ちょっと先に行っててくれ。用事を済ませてくる」
「ん、うん。わかった~」
普段の登校ルートを外れて、記憶を頼りに駆け出した。
それほど遠くはないと思うのだが――ああ、見つけた。
外に置かれた電話ボックス。本来なら監視カメラなどにも気を付けたほうがいいのだろうが、通報は早いに越したことはない。一応、顔は伏せておくか。
たしか、緊急通報に金は掛からなかったはずだ。
「……あ、もしもし? えっと……事件、だと思います。匿名でお願いしたいのですが……はい。実は先程、不審な車を見まして……ええ、銃のようなものを積んでいたのですが。多分、爆弾のようなものも……はい、ナンバーをメモしておきました。はい、ナンバーは――の――です。はい、よろしくお願いします」
思いの外に匿名でも話を聞いてくれることに驚いたが、これで実際に動いてくれるかどうかは五分五分だな。もしも、あのバンが盗難車やレンタカーだったとしても、最近の車には全部GPSが搭載されているから発見することはできるはずだ。あとは警察が仕事をしてくれるだけ、だね。
念のため角を曲がるまで顔を伏せながら駆け足で戻ると、そこに華が待っていた。
「あ、終わった? じゃあ、行こ~」
ああ、そうか。同じやり取りを繰り返していたせいで、どうやら忘れてしまっていたらしい。華は、華なんだ。今ここに居る華は、今だけの華で、ちゃんと人なんだ。
救いたい――助けたいよな、やっぱり。
決意を新たに学校へ着くと、まずは携帯を取り出した。
あとのことを警察主導にしてしまったわけだから進捗状況がわからない。しかし、最近は便利なもので携帯でもラジオを聞けたりするわけだ。バッグから取り出したイヤホンを片耳に嵌めて、周波数をニュースチャンネルに合わせた。これで、あとは犯人逮捕の報道が流れればミッションコンプリートだ。
恙無く終わってくれれば、それに越したことはないのだが、今までの経緯を考えるとそう上手くもいかないのだろうな、と思ってしまうのも仕方がないことだ。
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