第3話 無敵なオレ

背後に回った左の男が、オレの肩に手をおいた。

「よう、兄ちゃん。俺たちにケンカ売るのかい?」

もうすぐ死ぬからといって、恐いもの知らずになったりしない。恐いものは怖い。勝手に身体が震える。

ため息。

フィリスだ。

「聞こえなかったのかい?」

元々お前のせいだろ。

「エイバ、彼らを排除したまえ」

肩にある男の手を掴む。剥がす。ゆっくり握る。

男が悲鳴を上げた。

オレの手に何かが砕けた感触が伝わる。

振り返る。

男が骨の砕けた手をおさえながらオレを睨んでいた。

胸ぐらを掴む。

ちょっと押したら、エントランスまで飛んでいった。

男、気絶。

「何だお前。何者だぁ?」

スーツの内に手を入れるもうひとりの男。そこに何があるか、オレは知っている。

次にどう動くか分かっている。


最上階のボタンを押す。

エレベーターはゆっくり登り始めた。

「なんなんだ?」

動揺で声が震える。

「何がだ?」

階数のランプを見つめたまま。フィリスは何も変わっていない。

「オレの身体、どうなってる?」

またため息をつくフィリス。

「初めに言ったと思うが、私の力の一部をお前に渡した。そして、私の目的が達成されるまで、お前の身体は不死だ」

寿命を奪った。

力の一部与える。

そんな言葉を聞いた気がする。

「な、なんなんだ?」

他の 言葉が出てこない。

フィリスがオレを見た。

「私の指示に従っていれば、何も問題ない。安心したまえ」

すでに問題あるだろ?!

エレベーターが最上階に着いた。

扉が開く。

そこは別世界だった。

ガラス張りの床と壁。天井もキラキラしている。本物か映像か分からないが、床の下を鯉が泳いでいた。

品の良い男がスーツ姿で現れた。

「いらっしゃいませ」

軽く会釈。声まで品が良い。

「お客様、大変申し訳ございません。本日は貸し切りとなっておりまして、ご予約のお客様以外の方はお断りしております」

営業スマイル。

オレはフィリスを見て、フィリスはオレに合図した。

男の顔あたりに手をかざした。

「この店を貸し切っている男に会いたい。案内してくれたまえ」

笑顔のまま。

「かしこまりました。どうぞこちらへ」

手招きする男。

ついていく。途中でふと気づく。

「こんな事出来るなら、さっきの奴らを殴らなくてもよかったんじゃないか?」

見下ろしたフィリスの顔は笑っていた。

「私の力が上手く与えられたか、確かめたかったのでな」

こいつ・・・


広い空間に出た。

豪華なソファー、豪華なテーブル。きれいなお姉さんがたくさんいる。その回りに五人。黒っぽいスーツ姿の男たち。オレたちを見て、一斉に動いた。

囲まれるオレとフィリス。

絶体絶命とはこの事だな。

「何だお前ら」

男たちはすでに戦闘モードだ。大人だろうと子供だろうと容赦ない。ひとりの男がフィリスの黒髪を掴もうと手を伸ばした。

「エイバ」

フィリスの命令より先に、身体が勝手に動いた。

男が宙を舞う。

派手にガラスが割れた。

お姉さんたちの悲鳴。

場数を踏んだ男たちは、こんな事で怯まない。さらに殺気を加えて襲ってきた。

あわわわゎ・・・!

動揺するオレと機敏に動くオレの身体。

綺麗なお姉さんたちは消え、男たちはあちこちで気絶した。

ソファーに座る男ひとりと、綺麗なお姉さんひとり。何事もなかったかのように酒を飲んでいる。

「やあモーガン。久しぶりだね。君の奪ったモノを取りにきたよ」

男は顔を上げた。

「お前、リカルドか?」

問う男、モーガン。

「こらこら。私をファーストネームで呼ばないでくれたまえ」

「なんで子供の姿なんだ?」

「この世界のこの国では、この姿が最も人気があると聞いてな。なかなか良いであろう?」

それ、どこ情報だよ。

ツッコミたいがやめる。

「もう十分楽しんだのだろ?」

そう言って手を差し出すフィリス。

男は笑った。

「ああ。十分楽しんだ。お前の大切なモノのおかげで、この女に再会できた。感謝してる」

女。となりに座っている女性のことか。

再会て何だ?

モーガンと目が合った。

「俺たちの世界で死んだやつは、この世界に転生する。俺の力では異界に来れない。それで、リカルドの力を借りた」

首にぶら下がったネックレスを触る。

指輪?

指輪が二つ鎖に通してあった。

「お前もこの男に会えたんだろ? 良かったじゃないか」

笑うモーガン。

「私は会いたくなかったのだが、君を連れ戻さなくてはならないのでね」

話の流れからすると、オレもフィリスたちの世界で死んだ者の生まれ変わり、ということか。

しかも、フィリスと関係のある男。

恋人、とか?

「見逃してくれ」

モーガンが言った。

「俺はコイツとこの世界で生きたい。力はこれ以上使わない。頼む」

「駄目だ」

即答だ。

「ま、そうだろうな」

横を向くモーガン。ひとり残った綺麗なお姉さんがいる。

「カナコ」

彼女の名前だろうか。

立ち上がる。 オレを見た。彼女はもしや、オレと同じ状態なのか?

片手をオレにかざした。

どっちが天井か、分からないくらいクルクル回った。ガラスの壁に激突。

死んでもおかしくない状況。

オレは、ガラスの破片を撒き散らしながら、ゆっくり立ち上がった。

「油断した」

すぐ近くにフィリスが立っていた。

豪華なソファーにモーガンとカナコの姿はない。

「追うぞ」

そう言って、フィリスが片手を差し出した。








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