5日目 倒れたバグとなつちゃんの話

 ㅤバグが突然倒れた。ご飯は食べさせていたし、熱があるようでもない。どうしようもなく、救急車を呼んで病院に行った。そこで分かった、唯一のこと。


「レントゲンを撮ってみたのですが、体がまるで3Dキャラクターですね」


 ㅤその医者はなぜか落ち着いていた。実際、写真を見せてもらうと、いくつもの線で出来た編み編みの肉体だった。


「これでは診察出来ませんし、何が何だか分かりません」


 ㅤその医者はメガネをクイっと上げた。オレは医者になるべく丁寧な説明をした。


「彼は実際、ゲームの世界から出て来ました。何らかの不具合だと思ったので、バグと名付けました。彼は新たなオープンワールドを目指して来たようで、しかし倒れました」


「なるほど。では全力を尽くします」


 ㅤオレは家に帰ることにした。バグはとりあえず入院することになった。


 ㅤそして玄関の前に人影があった。それは、なつちゃんだった。


「こんばんは」

 ㅤ何だか気まずいオレに対し、なつちゃんの方から声をかけてきた。


「な、なに」

「昨日はごめんね」

「えっ、ああ、うん」

「今日はおっさんいないんだ」

「うん、まぁ」


 ㅤ正直なつちゃんのことはよく分からない。というか、女の子のことなんてよく分からない。


「わたしね」

「うん」

「実はタロウくんのこと」

「うん」

「好きなわけじゃないんだ」

「うん」

「うん!?」


 ㅤそんな大声出されると周りの住民に迷惑だ。もう夜だし。


「だけどわたしね」

「うん」

「全人類から愛されたいんだ」

「ああ、はあ」

「だから自分にかまわないタロウくんの態度が気に入らなくて」


 ㅤなつちゃん。なんて分かりやすい人なんだ。


「でもタロウくんは、本当におっさんといた。ウソはついてなかった」

「うん」

「ただ、わたしを選ばなかったのが悔しくて。これは、正直な気持ちだよ」


 ㅤそうですか。


「だから、タロウくんとお付き合いすることは出来ません。でもこれからも、よきバイト仲間でいてください」


 ㅤそう言ってニッコリ微笑む彼女のことを、好きになりそうだった。だって、もう何かめちゃくちゃなんだもん。



 ㅤ一方その頃バグは、病室で目を覚ましていたらしい。そしてついに、己が何者なのか思い出す。

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