3日目 なつちゃんとシフトがかぶった話

 ㅤもはや当たり前のようにバグを家に置き去りにしてバイトへ来た。すると、なつちゃんとシフトがかぶっていた。


「ね、タロウくん」

「何」

「このあと時間ある?」

「時間?」

「タロウくんの家行っていい?」

「何で」

「なんでぇ!?」


 ㅤその時間、お客さんは少なかったが、それでもカウンターの中のなつちゃんの声は大きく響いた。


「タロウくんって、ちょっとおかしい」

「そんなことないよ」

「じゃあ、行ってもいい?」

「どこに」

「どこにぃ!?」


 ㅤもちろんオレも男だ。分かっている。何となく大変光栄な話だ。しかし、いきなり家なんて。よりにもよって家なんて。


「家はちょっとまずい」

「でも今、一人暮らしでしょ」

「ちょっと無理なんだ」

「誰か来てるの?」

「そう」

「少し出てってもらったら?」

「そういうわけにもいかない」


 ㅤだんだん、なつちゃんの声に怒りが混じってくる。


「もしかして、バカにしてるの」

「違う」

「彼女でもいるの」

「いない」

「じゃあ、本当のこと話してよ」


 ㅤ本当のことなんて、話せるわけないじゃん。なんて思わなかった。


「ゲームから出てきたおっさんが泊まってる。だから家は無理だけど」


——このとき踏まれた足の痛み。たぶんオレ、一生忘れない。



「バグのせいで酷い目にあったじゃんか」

「よく分からないが、すまない」


 ㅤ家に帰ったら、とりあえず八つ当たりしてみた。


「おっさんはいったい何がしたいんだ」

「私は、冒険したいんだと思う」

「冒険?」

「この窓の向こうに続く、広大そうな世界を」

「そしたら帰ってくれるかなぁ」

「では、連れて行ってくれるのか」


 ㅤおっさんに見つめられても困る。


「明日休みだから連れて行ってやるよ。そうだなぁ、動物園モンスターワールドとか」

「ほお。それは興味深い。ぜひとも一狩ひとかり」

「それはまずい」

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