2日目 バグのおっさんに色々教えた話

 ㅤベッドの上で目を開けると、閉め忘れたカーテンのせいで差し込む朝の光。それと壁を背に立つおっさん。


「何してる」

「どうも立っていないと落ち着かなくてな」

「じゃあ、寝てないのかよ」

「ん?ㅤああ、どうやらそうらしい」


 ㅤ大丈夫かよって思うが、とりあえず放っておこう。今日もバイトへ行く。

「勝手に家から出るなよ」

「ああ、分かった。よろしく頼む」

 ㅤ何がよろしくなんだ。



「いらっしゃい……何だ、タロウくんか」

 ㅤなつちゃんは年下の自称女子大生バイト。顔は可愛いけど、ちょっと生意気。


「自分でレジ打ってよ」

 ㅤなつちゃんがカウンターの向こうでダルそうにつぶやく。


「やだよ。またこれからやんなきゃいけないのに」


 ㅤ朝昼兼用の飯を買って、食べてから働く。そういや、バグのおっさんは未だ飲まず食わず寝ずみたいだけど大丈夫か? ㅤまぁゲームのキャラクターみたいだし問題ないか。


「ところでタロウくん知ってる?」

「何」

「わたしモテるんだよ」

「だろうね」

「この前も客に告られた」

「ああ、そう」

「何そのリアクション」


 ㅤ何って言われても難しいよな。腹減ってるし。それは関係ないか。


 ㅤバイトも終わって家に帰ると、バグのおっさんは床に伏せていた。死んだかと思ったらどうやら寝ているらしい。それにしてもちょっと邪魔なので、起こす。


「おい、おっさん。起きろ」

「む、すまない。うっ」

「どうしたおっさん」

「ライフが足りないようだ。何もしていないのに」


 ㅤそりゃたぶん、何もしていないからだ。何もしていなかったら眠くなるし腹は減る。スタミナゲージほど単純じゃない。ゲームのキャラもこっちじゃオレたちと一緒か。


「一応、おっさんの分もあるぞ」

「これは……何だ」

「梅のおにぎり。リミット切れの」

「よく分からないが、感謝する」


 ㅤおっさんは袋の開け方に悪戦苦闘したが、やがてゴツゴツした手に白い米をくっつけながら食べていく。


「まるで生き返るようだ……うっ」

「何、次は」

「ライフが、満たされたはずなのに」

「トイレか。そこ開けてズボン下ろして後は何とかしろ」

「説明不足なチュートリアルだな……」

「詳細に語りたくない」


 ㅤガチャ。

「生き返るようだ」

「水の流し方くらい教えるから来い」

 ㅤガチャ。ジャー。ガチャ。

「ついでに風呂教える」

「よろしく頼む」

 ㅤザブーン。

「生き返るようだった」

「そればっかだな」

 ㅤ窓の外はすっかり星明かり。



「この世界は大変だな」

「まぁ。ゲームのがよっぽど楽しい」

「ゲーム? ㅤゲームって何だ」

「バグは知らなくていい」

「バグ? ㅤバグって何だ」

「オレが付けた、お前の名前」

「そうか。ありがとう」

「バーカ」

「バグじゃないのか」


 ㅤこうして二日目が終わった。

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