ゲームを買ったら、ゲームの中のおっさんが一週間現実(こっち)でオープンワールド体験した話。
浅倉 茉白
1日目 バグのおっさんが家に来た話
ㅤその日は雨だった。コンビニのバイト帰り、雨がよりひどくなる前に走った。透明なビニール傘を畳んで、家に入る。二階建てアパートの一階。ワンルームで風呂付き。
ㅤベッドとモニターとゲーム機。あと冷蔵庫、洗濯機。これだけあれば充分。
ㅤゲームのダウンロードが始まる。タイトルは「ザ・オープンワールド」。新しいのか懐かしいのか、よく分からない響き。あからさま過ぎてクソゲーかもしれないが、このシンプルなタイトルに興味が湧いた。
ㅤそして落ちる雷。もしかして停電?ㅤ暗くなった画面。部屋。
「マジかよ……」
ㅤ少し驚いたのは、謎のおっさんが近くに立っているのが分かったからだ。ボンヤリと。
ㅤそして下りたブレイカーを上げるともう部屋は明るくなった。おっさんの仁王立ちを見るのはいつ振りになるだろう。
ㅤ顔立ちから察するに外国人のよう。ワイシャツをまくった袖から出る腕毛は濃い。だけど日本語を話す。
「ここはどこだ」
「オレの家」
「そうか、すまない」
ㅤどうやらローカライズされているらしい。このおっさんはおそらくさっき買ったゲームから出て来たんだろう。そう考えるのがあり得ないが自然だ。ダウンロード中の不具合かソフト側の不具合かは分からないが、これは抗議してパッチ待ちになりそう。
「クソッ、思い出せない」
「何が」
「分からないんだ。私の名前すらも」
「じゃあ『バグ』で」
「ただ、一つだけ思い出せる。私は、新たな『
ㅤそう言っておっさんは辺りを歩き始める。
「おい、おっさん。あまりウロウロするな」
「すまない。ただ、ちょっと良いか?」
ㅤおっさんはそう言って、風呂の扉を開けて勝手に入っていった。
「ほう。ここもシームレスに繋がっているのか。作り込みも凄いようだな」
ㅤたまにゲームの世界に入り込み過ぎると、そういう変な感覚にもなる。だけどこの家は狭い。世界はもっと広く繋がっているんだ。普段あまり感じないけど。
「私はまだ、この世界をよく知らない。これから色々チュートリアルしてくれないか」
「パッチが当たるまでの間だぞ」
「パッチ?ㅤそれはよく分からないが、よろしく頼む」
ㅤこうしてオレとおっさんの一週間共同生活が始まった。
「とりあえず床で寝てくれ」
「よく分からないが、よろしく頼む」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。