第10話 雛乃

「ふーん、そうだったっけ。僕が君に初めて出会った時は、確か君のほかに人が居たんだよ」


「いつ私達が出会ったのか、教えて。……それとそれは悠冬の記憶違いよ」


 どうして、そんな適当なことが言えるのかと、口調が強くなる。


「いいよ。……悪いけど、それだけは絶対にない!!」



「何よ、……急に大声出して」


 雛乃は驚いた様子を見せるが、心の中ではちっとも驚いてなどいないだろうと、悠冬は推測した。


「とりあえず、僕の話を聞いて?」


「ええ、わかったわ」




 そして、悠冬は語り始める。





 ***





 あの場所を見つけたのは本当に偶然だったという。雪が降っていて、かなり寒い時期だった。悠冬は空腹でフラフラと、彷徨っていた時に古びた家を見つけた。ボロボロの扉を開けると顔のよく似た、二人の女の子がいた。


 よく見ると違いがわかるかな? というくらいに似ていた。多分、双子だろう。


「アンタ誰?」


「お腹空いた……」


 体がグラグラと大きく揺れ動く。

 バタッ。そして、目の前が真っ暗になった。







「あっ、起きた。いきなり倒れたからびっくりしたわよ!!」


 さっきの黒髪の女の子が助けてくれたらしい。ホッとした表情を見せる。悠冬は、赤い髪飾りがよく似合う子だと思った。


「僕を助けてくれたの?」


「目の前で倒れられたなら、助けるしかないでしょ! 今、妹がご飯作ってくれてるから」


「ありがとう。君は、あの子を手伝わないの?」


 助けたのに、何言ってんの? みたいな顔された。友人からはよく一言多いと言われてしまう悠冬だ。人として、ヤバイ分類に入っているのに、悠冬はそのことにまだ気づいていない。


 ――今、一言多かったのかな?


「そ、その人を見ててって妹に言われたから。それに私、料理はできないの」


「そうなんだ」


「……なんなのよ、食べたら出て行きなさいよね」


「うん、わかった」


「変わった色の瞳してるのね。貴方」


「よく言われるよ」


 ジーッと悠冬のことを見つめると、悲しそうな顔をして言った。


「ねぇ、貴方もしかして――? ……ならお願いがあるんだけど」










「ご飯ができました」


 緑色の髪飾りをした黒髪の少女が、お盆でご飯を持ってきてくれた。色違いの髪飾りをつけていた。髪の長さは同じぐらい。少女はオドオドと、悠冬を見つめていた。


「あの……な、何か?」


 お盆を床に置き、手をモジモジと上目遣いで悠冬を見つめてくる。どこか褒めてくれと尻尾を振る子犬みたいだと、悠冬は思った。


「……運命かな? って思うんだけど、どう思う?」


「死ね!! 変態っ! 何、妹を口説いてんのよ」


 赤い髪飾りの子が、ポコポコと悠冬の胸を叩き始める。小石を当てられたようなかわいい痛みに、悠冬はニコニコと表情を緩ませた。


「叩かれて、嬉しそうな顔するな! この変態ーー!!」


 変態とは心外だと、さらに叩こうとする赤い髪飾りの子の手を掴む。


「――っ。離しなさい! この無礼者が!!」


 赤い髪飾りの子は、涙目で悠冬を見上げ、少し抵抗する。すると、背後からものすごい殺気を感じた。



「ね、姉様に手を出そうというのか!?」


 彼女の妹だ。怒りを滲ませた形相で、悠冬を睨みつけていた。


 ――あんなにオドオドとしていたのに。


「え、ちょっと……ひい――」


「このお嬢さんが叩いてくるから、からかってただけだよ? 妹さん」


 油を注がないように、優しい口調で話した。


「……柊良ひいら。これは、ただのじゃれあいよ?」


 妹の様子にまずいと思ったのか、妹に言い聞かせるように、話を合わせてくれた。実際、ただ手を掴んだだけなのだけれども。


 ――なんか理不尽な気がする。それに柊良というのか。



「せっかく作ったのだから、食べてもらいなさい?」


「はい」


 突き刺さる視線を感じる。学習したのか、殺気は放っていないが。


「うん、いただくね? ……それじゃあ、いただきます」


 手を合わせ、箸をの持つ。料理は鮭のムニエルと、お豆腐のお味噌汁、炊きたてのご飯。空腹で倒れてしまった身では、充分過ぎるほど豪華な食事であった。



「おいしい! 凄いよ。柊良ちゃん! こんな美味しい食事をありがとうね」


「いえ……ね、姉様の方が、おいしいですよ?」


 単純に謙虚な子だなーだと思った。だから少し、意地悪をしたくなる。


「その姉様は、できないと言っていたよ?」


「姉様は、人より少しだけ不器用なだけで……」


 柊良は目を伏せ、フォローをした。柊良の姉が分かりやすく、睨みつけてくる。



「あー、その姉様は? お名前聞かせてくれないかなって思うんだけど」





 少し間があり、そして


「……雛乃」


 名前が紡がれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る