白光小僧

木子あきら

白光小僧

 向こうの家の屋根が、いやにまぶしい。と思ったらびゃっこうぞうがいた。もちでつくられた達磨だるまのような、水ぶくれた生きもの。全体に白いので、真昼の日射しをもろに跳ね返してきて目に痛い。

 子どものころ一度見たきりで、そのときは隣にいた祖母が名前を教えてくれたのだった。せっかくだけれど構ってやれない。こちらは連日の寝不足で、やっとこの時間に午睡ひるねでもしようかと思っていたところだ。

 なのに向こうさんは張りきって屋根でやっている。眩しいの、うるさいの、背を向けようが眠れたものじゃない。


 しかたなく起きて、台所から黒角糖くろかくとうびんをひっつかんで縁側に出る。きのうおいが忘れていった石飛ばしパチンコがあったので手に取り、つがえた角糖を向こうさんめがけてってやった。

 狙いは違わず当たったはずが、なにが嬉しいのか小僧はますますびたびた跳ねる。うるさくてたまらない。あの家の住人は気が付かないのだろうか。こちらもむきになって、白光に半分目を閉ざしつつ、角糖をあるだけぶち込んでいく。

 壜が空になると台所へ戻って、ほかの甘くてちいさなものを探す。昔、祖母がそうして追い払ったのだ。


 ところが、目についたのを残らず試しても効く気配がない。金平糖、かりんとう、みかん、ふかし芋、握り飯……。このままでは塩をくことになってしまう。

 すがる思いで仏間を見ると、そこに供えられた饅頭まんじゅうが出番を待っていた。これだ。畳に足を滑らせながら一念頼み、やや硬くなったそれを小僧めがけてはなった。

 ぎゃっ。短い鳴きごえをあげて、白いからだが伸び縮みする。屋根から転がり落ちそうなのをこらえた格好のまま、小僧は煮過ぎた餅のように、あとかたもなく溶けて消えてしまった。

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白光小僧 木子あきら @hypast

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