106話 冷静にこれまでのことを整理してみたらまったく意味がわからなかった回
「まずは、この神殿にたどり着くことのできたみなさん、おめでとうございます。普段より厳しい
記憶喪失になったレイラの記憶を取り戻すために開かれた
脱落者たちは
それもこれも普段の祈りが足りないからだ。そう、神は礼拝により培われた筋肉に宿るのだから……
(すごいな……全然、意味がわからない……)
樹海を抜け急斜面のハゲ山を駆け抜けここまで来た参加者たちを見ながら、リッチはこれまでのあらすじをまとめた。
まとめたが、ちょっと意味がわからなかった。
そもそも『記憶を取り戻すために開かれた
本当はレイラが記憶喪失になったのをいいことに、そこに偽りの信念を植え付けてうまいこと魔王退治の戦力にしてしまおうという試みであり……
そのために筋肉宗教式ヤバい儀式を課そうというのが現状なのであった。
(すごいな……全然、意味がわからない……)
大礼拝大会参加者たちをやけくそで応援しているうちに冷静になってしまったせいだろう。
リッチはもう、この試みがなにからなにまでわからなくなってしまっていた。
それとは対照的に『レイラが記憶を失っているので、信仰を植え付けて神の尖兵にしましょう』というアイデアを発案したはずのロザリーは、だんだん熱が入って来ている。
今では『レイラを騙そう』という計画のはずが、本気で『筋肉を鍛えれば記憶が戻る』と考え、そのためにレイラを鍛えるテンションだ。
(すごいな……全然、意味がわからない……)
ロザリーはここまで生き残った信徒たちを並べ、彼らを賞賛し、しかし適度に人格攻撃し、これからの
そもそもの大礼拝大会は、昼神教が『神は尊い努力に宿る。すなわち筋肉。ゆえに礼拝は筋トレ』という宗教なので、信者の信仰を鍛えるために定期的に行っているものらしい。
だが、最近は人類が大変だった(フレッシュゴーレムに絶滅されそうになったり、王都東門に敵対的軍勢が展開するのが定期イベントと化したり、国民ほぼ全員が最低一度死んでたりする)。
なので人々は
だからレイラの記憶を戻すために筋肉を鍛える(?)ついでに、信者の信仰を再び強くするために体力強化を行う(?)目的もあるようだ。
(すごいな……全然、意味がわからない……)
すべての理屈に足りない説得力を、筋肉で粉砕にかかってきている。
リッチが信じている神はいないが、どれかと言えば論理の信仰者なので、ここまですべてを筋肉にこじつける連中は理解できないし、それで納得している人々のことも理解できない。
こんなものが覇権宗教なので人族との距離、感じちゃう。
リッチは隣で熱く説法をするロザリーから意識を外し、目の前に居並ぶ十名の筋肉━━の中にあってひときわ小柄な少女に視線を向けた。
子供のような細く小さい体の獣人。
黄金の毛並みのしっぽの先には鈴をつけた少女━━というかもう『女性』なんだけれど、そうは見えない生き物、レイラ。
今はしっぽを揺らすこともなく、ビシッと直立したまま、真剣な顔でロザリーの説法を聞いている彼女は、もともと、あんなに大人しくまじめな性格ではなかったのだ。
記憶を失うことにより形成された人格まで変わってしまっている。
……この
それに、筋肉を鍛えれば記憶が戻るとも思っていない。
……そもそも、この大礼拝大会の目的はレイラに都合のいい人格を形成して尖兵化することであり、本来の記憶を取り戻す必要はないのだが……
(まあ、こちらはこちらで、記憶喪失と、リッチがしてしまった記憶操作との関連性について、調査してみるか……)
ひそかにそう決意するリッチだった。
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