22話 お金をうまく稼いでいるような連中はやっぱりちょっと苦手だなと思う回
「新勇者? おっおっ、人族も経済の回しかたわかってんじゃーん」
なぜかリッチが魔王に報告させられている。
解せない。
が、魔王は
機嫌は損ねないほうがいいだろうし、定期的にご機嫌うかがいをすべきでもあるのだろう。
そういった必要性から、仕方なくリッチは戦場から帰った足で謁見の間にいた。
巨大すぎる玉座には褐色肌で角の生えた、白髪の、水着みたいな服装の若い女性がいる。
角や爪にはきらびやかなデコレーションがしてあり、玉座から十歩ほどの距離にいてもそのきらめきが目にちらつくほどだ。
「あたしらがまだ役職に就いてなかったころはさあ、『戦争は経済を疲弊させるだけ』とか言われてたけど? やっぱそれも人口と戦争の程度によるのよねえ。今は逆に戦争ないと回らないっていうかあ。日常的な、いち事象化してるしぃ」
「リッチは経済がわからぬ」
「だよねー! ……ま、そんなわけで。人族がまだまだ戦争を続ける意思があってあたしは嬉しいってこと。魔族もさあ、好戦的な連中多いし? あいつら戦争なくなったら絶対内乱起こすもんねー。んで内乱で魔族が疲弊したら人族との戦争再開するし? だったら人族との戦争は果てしなく末永くやってくれたほうがよくね? いいよね?」
「リッチはわかりません」
「んじゃ、リッチに関係ある話にすっけどさー。――ぶっちゃけ、ケガ人多いほうが、リッチは儲かるのよね。だって、収入の大部分が医療費なわけだし?」
「……」
「だから――たぶんレイラの食費で危機感もったアリスあたりがけしかけたんだろうけど? 儲けたかったら、リッチはとにかく戦争を激化させたほうがいいってわけ。おわかり?」
「なるほど」
「で、本題だけど」
「はい」
「レイラ殺したでしょ?」
「はい」
戦争からの帰り道。
事故に見せかけて殺しました。
お金のためです。
「レイラの存在はあらゆる意味で戦争に有用だから、あたしとしては生き返らせてほしいんだけど?」
「だってレイラがよく食べてリッチのお金がピンチだから……」
「だーかーらー。生きてたほうが結果的にリッチは儲かるんだってば! んもう、お金のことならあたしに相談してっってばあ! なんで一人でやっちゃうかなあ。一緒にやろ?」
しかしリッチは出資者への顔見せに苦手意識があるのだ。
『この人に研究者生命を握られている』と思うとどんな話をしたらいいかわからない。
まあ、過去リッチが遺した医療系のアレコレが収入源らしいので、厳密に言えば魔王に財布は握られていないのだが……
それでも管理を魔王に任せている以上、それは財布の紐を握られているも同然なのである。
「だが待ってほしい。リッチはたしかにレイラを殺した。でも、そもそもレイラの食費をリッチが出さなければいけない理由はなんだろうか? 彼女は今、巨人将軍だ。巨人なら巨人で世話すべきだし、将軍なら将のトップである魔王が世話すべきだとリッチは思います」
「拾ってきたのリッチっしょ?」
「命をあげたら勝手についてきちゃったんだ」
「んまあ、あたしが世話してもいんだけどさあ。あいつ、性格的にめんどくさくね?」
「…………ソンナコトナイヨ」
聞いたこともないような裏声が出た。
そう、リッチは嘘がへたくそなのだ。
「……ま、あたしはいいけどお? あと政治的な話、すっとさあ……あたしの管理下に置いちゃうと、レイラを殺したり生き返らせたり、めんどくなるよ」
「なぜ」
「説明していいの?」
「……わかった。リッチが世話する」
政治の話は嫌いだ。
リッチは嫌いな話は聞きたくもない――お金のこととか、日常生活のこととか、『あの人勇者パーティーのくせにあの年齢で彼女の一人もいないんだって』とか、そういうのはなるべく無視して生きていきたいのだ。
研究さえあればいい。
「んじゃ、そゆことで。……で、リッチ、最初に言ったけどさあ」
「?」
「金がほしいなら、戦争を激化させなよ」
「どうやって」
「方法は色々あるっしょ。リッチにできそうなのだと――各戦線に力を貸す、ぐらいかな? 特に安定した戦線のエースを殺してまわったり」
「……人族のエースを殺して回ったら、魔族が優勢になって戦争が終結しそうだ。そのぐらいリッチでもわかる」
「
「……」
「お互いの、各戦線でのエースがいなくなったら、膠着してた戦況が動いて、戦闘が激しくなるし――ケガ人も増えるよね? ま、あたしは魔族の王だからあ? 人族が消えて魔族が勝てば喜ばしいけど? 魔王として喜ばしいのと、あたし個人が喜ばしいのは別よね?」
「魔王の目的はなんなんだ?」
「『魔王』の目的はそりゃ、『魔族を戦争で勝利させること』っしょ」
「…………」
「ま、いいじゃんいいじゃんそんなの。や、リッチに説明してもいいけどさあ、嫌いっしょ、こういう話」
「どういう話なんだ?」
「金の話」
「……嫌いだな」
「だよねー! だいじょぶだいじょぶ。あたし、こう見えてハッピーなの望んでるし? ほら、週末とかみんなで仲良くパーティーできたらサイコーじゃん? あたしの目指すのはそういう感じ? でもほら世間体とかあるしこの話オフレコね」
「今された話、リッチにはなんにもわからぬ」
「そういうトコー! リッチとあたしが仲良くやれてるのそういうトコよねー!」
「ただ、覚えておいてほしい」
「なに?」
「リッチにとって、金は命より重くない。なぜなら、命は直接研究に必要な資源だけれど、金はそういう意識をもって接することができないから」
「……はいはい。『そういう意識をもって接することができない』ってあたりに、『必要なのはわかる』っていうのが見えていい感じね」
「必要ない世の中なら一番いい」
「おけおけ。でもさあ、生きて生活して趣味して活動するにはお金が必要なのよねえ。あたしはわかってるし、そういう意識をもって接してるから? ……ま、悪いようにはしないよ。リッチ怒らせると恐いしね。あたしはリッチの味方。おわかり?」
「リッチは『味方』っていう言葉にそこまで信頼感をおけないよ。それは『今、裏切っていないもの』『とりあえず軽くは扱わないもの』『対外的に仲間であることを示す言葉』程度の認識だから」
「裏切られたことでもあんの?」
「捨てられたことならある」
「ふーん。……ま、リッチの全部を知ってるわけじゃないしね。リッチの全部――ハハッ! うけるー! ってなわけで、レイラのお世話よろしく! ちゃんと生き返らせてね? お金がほしけりゃあたしに言って。いい戦線紹介するから」
「……わかった」
「んじゃあたし、仕事の続きあっからさ。んじゃね、バーイ!」
「ばーい」
手を振ってリッチは謁見の間から出た。
やはりパトロンとの会話は緊張する。
でも、それは研究者生命を握られているから、というより――
パトロンになるような人種に共通して感じられる、『皮一枚下になにかがある』雰囲気が苦手なのかもしれないな、と思った。
やっぱり皮も肉もないのが最高だ。
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