第103話 叙勲式
ビショップ公爵は他の人には目もくれず、真っすぐにダニエルのもとにやって来た。
そして潔く頭をさげる。
「ラザフォード侯爵、誠に申し訳ない。オリヴィアが短慮なことをしでかしてしまった。」
頭を下げるのはもっともだけど、あれは短慮の域を超えてるよね。
でも孫が可愛いおじいさんからしたら仕方がない表現なんだろうけど…。
「さすがに
ダニエルもビショップ公爵のパフォーマンスを自分の有利に持っていくためか、キッチリと釘を刺すべきところは刺したようだった。
ビショップ公爵は拳を握って震えていたが、ここは穏便に引き下がることにしたようだ。
「おわびの言葉もない。オリヴィアの両親共々、育て方を間違えたと悔いている。」
そう言って踵を返すと、また早足で去っていった。
「なんだったんでしょうね。」
「大勢の前で、私に許すと言ってもらいたかったのだろう。しかしコールに怪我をさせたからには、いくら身内と言っても許すつもりはない。」
そうか。
血筋をたどるとビショップ公爵もダルトン先生もダニエルにとっては大叔父さんにあたるんだ。
どんな人かと思っていたけど、大胆で不敵な印象を受けた。
けれどお腹の中は何を考えているのか読めない人だ。
あの大柄なおじいさんがダニエルに結婚の圧力をかけ続けていたんだな。
ダニエルが不機嫌な青年になったのも無理はない気がする。
そんな出来事はあったけれど、クリストフ様が国王から子爵位を授かり、他にも二人が叙勲される様子を見ているうちに、ビショップ公爵のことは忘れてしまっていた。
ところが叙勲式が済んで、ファジャンシル国王の話が始まると、この場に集まった人たちは目をむくことになった。
「先のラザフォード侯爵の誘拐事件は皆の知るところであると思うが、後に発覚した行政大臣のオエンド国との癒着問題を調べるうちに、ビショップ公爵嫡子であるウィリアム・ビショップ卿との関りが濃い可能性が出てきた。そのためビショップ公爵は領地はく奪の上、一代限りの公爵位とする。もとビショップ公爵領は弟のダルトン公爵が受け継ぐこととなった。」
その知らせに、会場中の人たちが驚きの声をあげる。
人々の声が静まると、国王は続けて信じられないことを報告した。
「そのため我が
これには蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
セリカの隣ではダニエルもうめくような声をあげている。
「…これは、思ってもみないところまで変わってしまいそうだ。」
第一夫人であった人が、第二夫人の地位に甘んじられるものだろうか?
王妃の役割というのは、一家庭の中での妻の異動とは違って、国内外に与える影響としては大きいものがあるだろう。
それにダルトン先生もお兄さんのしりぬぐいをさせられるんだ。
大変だろうなぁ。
ダニエルが言った「思ってもみないところまで変わる」というのは、どういうことなのだろう?
セリカは、シーカの街で会ったブラマー伯爵の娘、ダイアナさんのことをふと思い出した。
晩餐会にオディエ国の大使を連れてきていた。
まさかこうなることを見越していたのだろうか?
オディエ国出身のシオン王妃が第一夫人になると、ファジャンシル王国の人間関係も様変わりするということ?
これがダニエルが言ってることなのかな。
◇◇◇
帰りにはセリカ達夫婦とダレニアン伯爵夫妻が同じ馬車に乗ることになった。
「まさかシオン王妃を第一夫人にするとは思わなかったな。」
お義父様もまだ信じられないようだ。
「私も国王がそこまでするとは思っておりませんでした。ジュリアン王子が後を取って、自然にシオン王妃の地位が上がるようにするものだとばかり…。」
「女の世界はそこまで甘くないのよ、ダニエル。国王はアデレード様とシオン様の関係にずっと心を痛められていたのではないかしら? アデレード様という方は、なかなか骨の折れる性格をされていますからね。」
「そう言えばマーセデス、君はアデレード様と貴族学院で同じ頃に在籍していたと言っていたね。」
お義父様の問いにお義母様は溜息をついて頷くと、小さな声で話を始めた。
「王妃となった方のことをあれこれと言えませんから黙っていましたが、私も王妃候補の末席におりましたから、学院にいる間中、小さな嫌がらせを延々とされました。その経験があるので、シオン様のことをずっと気の毒に思ってたんですよ。女の嫉妬というのは怖いですからね。」
「それでウィリアム・ビショップ卿との縁談を蹴って、私と結婚してくれたのか…。」
なんとお義母様って、王妃候補だったの?!
それにウィリアム・ビショップって、オリヴィアのお父さんじゃない!
「私はビショップ公爵家の人間があまり好きじゃないんです。自分のことしか考えてないから。ヒューゴ、あなたは他人を思いやれる人でしたわ。そこが好ましいと思ったのよ。」
お義母様の言葉にお義父様は真っ赤になっている。
あらあら…私たちはお邪魔虫みたいね。
セリカはお義父様やお義母様と目を合さないようにしながら、にやけそうになる口元を手で押さえていた。
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