第44話 レーセナの夢
カールの結婚式があって、それから初めてここラザフォード侯爵邸にやって来てという盛りだくさんな一日の後に、久しぶりのダニエルとの逢瀬もあって、セリカはさすがに疲れて温かな布団の中でウトウトしていた。
何故かダニエルがセリカの部屋にやって来たので、二人は一緒にセリカのベッドで寝ている。
セリカの肩に腕を回しているダニエルは、カールの結婚式の話をしていた。
「あの宴会部屋はいいよな。もしここの屋敷に設置するとしたらどこに作るのがいいだろう。」
「…そうですね。第三夫人の部屋なんかはいかがですか?」
セリカは厨房の後に、第三夫人の住むところを見せてもらった。
エレナは何か言いたそうだったが、黙って案内をしてくれた。
「何でそんなところに作るんだ?」
「いずれ私が住むところですから。ダニエルはあの部屋が気に入ってるようでしたし、宴会部屋があれば少しは私の所に来て下さるでしょ?」
「………………。」
「…ダニエル? あふぁ~、寝たのかしら。」
「寝てない。何を勘違いしてるのか知らないが、私は君を第三夫人にするつもりは無いぞ。」
「? でも、お見合い話が数多く来ているとおっしゃってませんでした?」
「すべて断っている。」
「でも貴族の務めで魔法量を増やさないといけないんじゃないんですか?」
「それは君がたくさん子どもを産めば済むことだ。」
ん?
ここにきてセリカも話が噛みあっていないことに気づいた。
ぼんやりとしていた頭にも、血液が戻って来る。
セリカは顔を横に向けて、寝乱れたダニエルの横顔を見た。
まぁ、こうやって近くで見ると金髪でも部分によって濃さが違うのね。
― セリカ、そういうこと考えてる場合じゃないでしょ。
お互いの人生設計にズレがあるじゃない。
そうだった。
「あの…私が第一夫人だと、まずいんじゃないですか? 貴族の生活についても詳しくないですし。」
「それは私でも最初はそうだった。」
「あ、……。」
ダニエルは言葉をなくしたセリカを見て、笑った。
「エレノアに聞いたんだろ? 自分で説明するのも面倒だったから、あの二人をダレニアンに行かせたんだ。お節介な二人のことだから、私の説明の手間を省いてくれると思ってね。」
「策士ですね。」
「エレノアの病気も快方に向かってるようだし、一石二鳥だろ。」
この人は本当に頭がよく回る。
「それにウザイ他の貴族を黙らせる策も考えている。」
「どんな策なんですか?」
「フッ、それは明日のお楽しみだ。明日は二人でレイトの街にある王宮へ行くからな。」
王宮?!
セリカの身体が緊張したのがわかったのだろう。
ダニエルは肩をさすってくれながら、安心するように言った。
「王族には会わないよ。事務手続きに行くだけだから。」
「はい。」
「また明日も出かけるし、残念だけど今日はこれで休もうか。」
やれやれ、やっと眠れそうだ。
「ええ。ダニエル、あなたにレーセナの夢を。」
「ああ……そう言えば、君は平民なのになんでその挨拶を知ってるんだ?」
「…え? レーセナの夢をっていうやつですか?」
「うん。」
何でだったかな?
― セリカ、ジュリアン王子よ。
最初に念話で話した時に言ってたじゃない。
そうか。
「ジュリアン王子殿下に最初に言われたので、お休みの挨拶なのかなと思ったんです。」
― セリカったら、その言い方は誤解を招くわよ。
「ジュリアンか……。」
ダニエルの声が低くなった。
怒ってる?
― ほらぁ~。
「なんかまずかったですか?」
「その挨拶は家族か恋人同士でしか使わない。私は…家族にそんな挨拶をしてもらったことがなかったから、その言葉を知らなかったんだ。夏に離宮へ行った時に、従兄弟たちにそのことでからかわれたな。」
「そうだったんですか…。」
「ヘイズ兄さんは私たちより年上だったから、ジュリアンとクリフ兄弟を
そうか、ダニエルにとってはあまりいい思い出のない挨拶なんだな。
「ごめんなさい。」
「何で謝る? 君が私に『レーセナの夢を』と言ってくれてから、その言葉の意味が変わった。…しかしジュリアンに最初に習ったというのは妬けるな。」
あの…もしもし?
寝るんじゃなかったんですか?
明日用事があったハズなのに…。
― 仕方がないね、セリカ。
もうひと頑張りだよ。
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