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「ディーナの監視って……それってダニエルの仕事じゃなかったのか?」

「知らないな。何故かこうなった」


 一体何故? って、当のヴェインもわからないのか。


「ライオスの王様がね? ヴェインを筆頭に、ここの監視を命じたの」


 すると、ジジが俺にヒントを与えてくれた。


「え、宰相リードルードじゃなくて? 王様が直接?」

「うん」

「前回いたアビーって女冒険者はいないの?」

「今回のリーダーはヴェイン。だからアビーさん以外のメンバーがこの四人に決められたの」


 つまり、ヴェインにそれだけの決定権があったのか。

 という事はあれか? ヴェインのわがままを受け入れなければならない理由があった?

 ジジはランクAだが、ヴェインは神託の力もあり既にランクS冒険者。だが、それでも国家権力の前に発言権はそうそう得られるものでもない。

 王がヴェインに依頼したという事は、ディーナへの愛? いや、それだけじゃないはずだ。何かしらの狙いが…………って、もしかして?


「そういう事か、ようやくわかったよ」

「どういう事だ?」


 ヴェインが聞く。


「最近、ライオス国とノレイス国の関係が悪いだろ? だが、世界の危機という人界の認識は変わっていないはず」

「それってつまり、魔王の事ですかい?」


 俺はダニエルの言葉に頷き、先を続ける。


「これに対し、世界は協力して魔王に挑む。その最強の戦力であるのがヴェインだ」

「ふん、持ち上げられておいてやるか」

「そのヴェインをノレイス国が利用しないとも限らないって訳だ」

「あー! そういう事か! ようするにライオス国はヴェインをノレイス国に行かせたくないんだね?」

「うん、そういう事っ。まぁそれも魔界とノレイス国との同盟が終われば変わると思うけどな」


 次の瞬間、この場が凍り付いた。

 唯一あまり理解していなかったディーナが俺の顔を覗き込む。


「それってどういう事ー?」

「ノレイス国は今頼る国がなくてな。滅亡まっしぐらだったんだよ。でも、そんな事を見過ごせないコディーさんは?」

「あ! 助けてあげたんだー! コディーえらーい!」

「ふふん、当然だ!」


 俺がディーナに頭を撫でられていると、ディーナとは反対側の肩に座っていたニッサが言う。


「正気……?」

「わりと」

「それってライオス国と敵対するって事だよ……?」

「魔界って全人類の敵じゃなかったっけ? その人類の一部が同盟国になってくれるって事だろ?」

「むっ……」


 俺の説明にニッサはそれきり黙ってしまった。

 すると今度はヴェインが俺に詰め寄って来た。

 睨んでいる訳でも怒気も敵意もない。


「今度は何をやるつもりだ。ダニエルから魔王軍に入ったとは聞いていたが、まさか北でそんな事になってるとはな」


 悪魔デーモン種がシンディに変身してライオス国に情報を流したのは、あくまでノレイス国の情報のみ。その段階では魔界と敵対していたから、この異例の出来事については、皆驚きを隠せないようだ。

 だが、何をやるのかって? そんな事は決まってる。


「勿論、全世界の共存だ」

「「っ!?」」


 絶句とはこの事を言うのだろう。

 混乱したであろうアッシュが手を前に出し慌てる。


「ちょちょちょ! そ、そんなの無理ですって!」

「何で?」

「何でって……ねぇ」

「俺たちは出来てるじゃないか?」

「へ?」

「ここには獣も、人間も、魔王軍の総司令官だっているんだぞ?」

「そ、そりゃあコディーさんだから――――」

「――――だから、俺がやってるんだろ」

「あ……え、はい」


 アッシュは目を伏せ納得に追い込まれた。いや、俺が追い込んだんだけどな。

 すると、眼下で俺の答弁を聞いていたヴェインが再度口を開いた。


「……魔王は? 魔王はそれに賛同しているのか?」

「少なくとも、ノレイス国の友好大使の俺に【獣王】の称号をくれるくらいには賛同してくれてるよ」

「……そうか」

「獣王だって!?」


 この称号の名に反応するのは……まぁ、そこの九官鳥だろうな。


「ほ、本当にその称号を貰ったのか? いや……確かに以前のコディーとは魔力の質が違う。それじゃあ本当に……?」

「ヴァローナ、獣王って凄いの?」


 ジジがヴァローナに聞く。


「凄いなんてもんじゃない! 文字通り獣の王! 全ての獣がコディーの言葉に付き従う、究極の称号だ! でも、でも何で魔王が……?」

「魔王くらい魔力があれば出来るだろう?」

「ヴェイン、それは違う。たとえ魔王だろうと、これを成すには膨大な魔力が必要だ。つまり、魔王の魔力のほぼ全ては、このコディーに向いている!」


 ……何だって?


「おい、どういう事だヴァローナ?」

「本来そういう称号は神獣に対し神様がくれるものなんだ。だけど、確かに魔王の魔力のほぼ全てを称号の力に向ければ……出来るかもしれない」

「つまり、魔王リザリーは俺に……」

「……全てを託した」


 ヴァローナの言葉を聞き、俺はリザリーの覚悟と想いを知った。


「ふぉ……魔王からの全権委任っ!」


 ニッサの興奮冷めやらぬ内に、俺はヴァローナに聞く。


「なら一層頑張らなくちゃな……ヴァローナ」

「な、何だ!? 言っておくけど獣王だからといってこのヴァローナ様を従えようなんて想わない事だな! クワァー!」

「【神獣ケリュネイア】に会いたい」


 そう、これが今回ここに戻って来た理由。

 魔界大門が出来、ノレイス国と魔界が小康状態に入った今、行動を起こすのは今だと悟った。


「なっ!?」

「お前なら知ってるだろう。ケリュネイアの居場所を」

「だ、ダメだダメだ! やつのところに行かせはしないぞっ!」

「別に会いに行くだけだって。ここが家だし、ここに戻ってくるさ。これは必要な事なんだ」

「何故!?」

「魔王を……リザリーを助けるため」


 神獣ケリュネイアがどんな情報を持っているのかはわからない。

 だが、ヴァローナからも色々教わったように、他の神獣からも情報を集める必要がある。

 人界での活動は現状人間に変身出来る部下にしか出来ない。だから、獣界の情報を集めるのは……俺の役目だと思っている。

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