079

「こ、この度はとんだ不敬をっ!」


 目を真っ赤に腫らして照れるミザリー、超可愛い。

 きっと魔王リザリーも今頃目を腫らしているに違いない。覗こうという考えはないが、見てみたい気もする。まぁ、覗いたら怒るだろうからやめとくか。魔王城が壊れるだろうし。


「構わないぞ、うん」


 元々、魔王の呪いに近い束縛を何とかするために、人界から情報を得るつもりだった。

 そして、ノレイス国との同盟に近付く事が出来た。

 こちらの情報こそあまり開示していないが、ノレイス国はこれに乗る事でしか、国家存続する事は出来ない。元々魔族を目の当たりにする機会が多い連中だ。受け入れが早ければ早い程いい。

 最早もはや、楽園からの輸送はミスリルのみだ。

 食料の自給自足……いや、それ以上の事が出来るようになった。

 それこそ、ノレイス国に物資の供給が出来る程に。

 魔界大門まかいだいもん外に人工林を増やしてみるか。

 そうすればそこで生活を賄える者も増えるだろう。となると、あの切り立った崖を崩し、土地を広く使うという手もある。これは危険だからきっと俺の役目だろう。


「か、閣下……その……」

「何だ?」

「閣下は人間との共存を望んでおられるのです……か?」


 まぁ、これだけ大々的に動いているんだ。

 どの幹部もきっと気付いている事だろう。当然、魔王も。


「そうだ……と言ったら失望するか?」


 すると、ミザリーは首を横に振った。


「閣下のこれまでがなければ……失望していたところです」


 そして、はにかむように笑ってそう言ったのだ。

 なるほど、心を開いてくれたのだろうな。今までのような作り笑顔ではない。


「そうやって笑っていた方が美しいぞ」


 しまった。つい零してしまったこの口に岩石でも詰め込んでやりたい。

 ほら、ミザリーもどん引きして固まって……ん?


「……ミ、ミザリー?」


 気付いたらミザリーは、目の腫れもわからぬ程、頬を紅潮させていた。

 目なんかマグニチュードを振り切るくらいに揺れていらっしゃる。


「……私が……う、うつ……うつ……っ!?」


 どうやら彼女はうつらしい。


「か、顔を洗って来ますぅうううううううううっ!!」


 …………悪い事したかもしれないな。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「よぅニッサ、久しぶりじゃーん」

「む、現れたな魔王軍総司令官めー!」

「がおー」

「やー」


 どこぞの戦隊物のポーズをとったニッサが、何の装備も持たずに俺に突っ込んで来る。

 そして俺の懐に飛び込み、頭をぐりぐりと押しつけるのだ。


「うわー」


 仰向けに倒れた俺に、ニッサがマウントをとる。

 そして、そのまま俺に向かって倒れてきた。


「……おかえり」

「おう、ただいま」


 ここまでの寸劇は、最早日常となっている。

 それくらいには、ニッサはここに慣れていると言っていいだろう。


「とぉ!」


 そして、俺の真上を宙返りしながら舞い、ニッサと同じ腹の上に着地する少女。


「あれ、ディーナ? また大きくなったんじゃないか?」

「でしょ!? もうニッサと同じくらいだよ!」


 きゃっきゃと自分の成長を喜ぶディーナ。

 確かにニッサの止まってしまったであろう成長に、追いついてきている気がする。


「まだ、私の方が高い」

「えー、でももう少しだよ」

「まだまだ」

「何か『まだ』が増えてるしぃ!」

「この程度でイライラするなんて、ディーナもまだまだまだ」

「また増えたぁ!?」


 喧嘩するなら腹の上でするのはやめて頂きたい。

 まぁ、この二人の仲は姉妹に近いのではないだろうか、と思う程には進展している。

 さて、今回俺がこの楽園に戻って来たのには勿論理由がある。


「ヴァローナはいるか?」

「ほぇ? おうちにいるよー! 『コディーの魔力が近付いてくるー!』って言いながら急いで羽繕いしてた!」

「そうか、わかった…………って、付いて来るの?」

「「うん」」


 ニッサとディーナはそう言いながら慣れたように俺の肩まで上って来た。

 ニッサは冒険者ランクAという事もあり魔法使いながら身体能力は高い。だからこういった行動もわかるのだが、ディーナはライオス国の王太子ひめなのだ。この動きはもう野生児と呼べるのではないか?

 そんな事を考えながら歩いていると、懐かしき我が家が見えて来た。

 中に入ると、そこは魔王軍総司令官兼獣王の肩書きを持った俺から見ても【異空間】と言えた。


「あ、コディーさん。お久しぶりっすー」

「よぉアッシュ」

「コディーさん、お邪魔してます! また面白い話、聞かせてくださいよ!」

「いたのかダニエル」

「コディー、邪魔してるぞ」

「勇者の仕事はどうしたヴェイン」


 そして――、


「コ、コディー! ぐ、偶然だねっ!」


 そんなジジ、、の言葉など一旦置いといて、俺はジトリと我が家の中を見回す。

 そこには使い慣らされた感じの日用品や家具が色々置いてあった。

 目を細める俺に、皆が一様に目を逸らす。


「ヤージジ、ヒサシブリダネ。トコロデイッタイナンデ…………ここに?」


 ギロリという鋭い視線が神獣に向かう。


「カァカァ、コディー、オカエリ、カァカァ」


 九官鳥みたいな出迎え方をしてとぼける……どこぞの八咫烏やたがらす

 我が家にこんなペットはいただろうか? って、そう思えるはずもなく、俺は聞く。


「お前ら、俺がいないこのひと月の間に…………ここに住んでるよね、、、、、、?」


 次の瞬間、全員が不協和音の口笛を奏で出す。


「フーフー、フーフー」

ヴァローナおまえに口笛は無理だ。さぁ、一体どういう事だ?」


 すると、俺の質問にヴェインが答えてくれた。


「監視任務だ、ディーナのな」


 なるほど、そういう事……ってどういう事なの?

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