081

「――――という訳で、魔王は魔族を生かすため、太陽を拝めずに魔王の間に縛られている。わかるか? ディーナとそう変わらない子供が苦しんでるんだ。助けないなんて選択肢、ないだろう?」

「私の記憶ではコディーはまだ一歳に満たなかったのでは?」


 ヴァローナのジト目が痛い。


「獣の成長は早いんだよ」

「ほぉ、流石獣王ともなると違うな~?」

「くっ、【獣王】が命ずる! ケリュネイアの居場所を教えるんだ、ヴァローナ!」

「何を勘違いしているコディー? 獣王の効果があるのは一般の獣だけだ。神獣である私に通じる訳ないだろう?」

「ぬぅ! 使えない加護だ!」

「いや、それは凄い加護だぞ。コディーの一声で世界中の獣が呼応するからな。魔獣以上の獣には通じないだけであって、その他の獣の方が圧倒的に数は多いんだし」


 ふむ、そう聞くと確かに有用な能力だ。


「で、教えてくれるのか?」

「はははは、知らないから教えられないな!」


 くそ! 散々焦らしてそれかよ!


「だが、その能力を使えば出来ない事じゃないだろう」

「おぉ! それだそれ! そうか! そういう使い方があったか!」


 俺は外に出ると同時に招集の遠吠えを叫んだ。


「ばうあー!」

「うーん、やっぱりコディーのそれ好きだな~」


 俺もジジの綻ぶ顔が大好きである。

 続々と集まってくる獣たち。楽園の住人である彼らがケリュネイアを知っている可能性は低い。だが、協力を頼む事は出来る。


『俺は今、【神獣ケリュネイア】を探している。もし、見かけたり、知ってる者がいればすぐに俺に教えてくれ。そしてここへやってきた獣にも同じように伝えてくれ。これは【獣王】である俺の命令だ』


 と言った直後、獣たちは無言のまま散開した。

 何なのあいつら? 忍者?


「ははははは! 正に獣の王だな!」


 ヴァローナが腹を抱えて笑う。


「普段とは全然違う反応でビックリしたわ」

「そりゃそうだ。それが獣王の力だからな」


 確かにこれはおっかない能力だ。

 獣王の能力……これは下手に使うと危険な気がするな。

 だが、必要な事でもある。寧ろこれ以外にケリュネイアの情報を掴む事は難しいだろう。

 その後、ジジとヴェインの訓練に付き合ったり、ニッサの新魔法を食らわされたり、ディーナと○×ゲームをしたり、交戦記録を付けたいというダニエルのちょっかいに対応したり、金になりそうな情報をアッシュに流したりしてた。

 途中やって来たゴリさん、シロネコとも過剰な運動くんれんをして近隣に迷惑を掛け、ヴァローナの武勇伝こもりうたを聞きながら寝た。


「それじゃあ、もし誰かが情報を持って来たらオーク輸送隊の誰かに伝えてくれ」

「まったく、慌ただしいヤツだな! コディーは!」

「ヴァローナ程じゃないだろ」

「むかっ! それはどういう意味なんだっ!?」

「それじゃあディーナ、ジジやニッサの言うこと聞いて、お留守番してるんだぞー」

「うん! コディーもお仕事頑張ってー!」


 ディーナの頭を撫でると、俺は仲間たちに目配せをした。

 ジジやニッサが頷き、ダニエルとアッシュは親指を立てて俺を見送った。

 ヴェインは書類仕事があると言って見送りには来なかった。しかし、彼は彼でしっかり成長している。驕りのない逞しい勇者として。

 ヴェインとの訓練をしていて気付いた、確かにこのまま成長すれば人間界を代表する実力者となるだろう。それこそ魔王の喉元にその刃が届きうる程に。だが、それだけは避けなければならない。

 何故なら勇者ヴェイン魔王リザリーも……俺の友人なのだから。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 魔界へ戻ると、すぐに俺の脳に直接連絡があった。

 当然それはリザリーの念話能力に他ならなかった。


『コディー! 戻ったか! 話がしたいのじゃ! すぐに魔王の間へ来るのじゃ!』


 最近ではこんな連絡も珍しくない。

 どうやら魔界大門あたりまではこの能力の範囲らしく、何かあるといつも呼ばれてしまう。

 寧ろ、何かない事の方が多い。

 公式オフィシャルな場ではミザリーを通し、非公式ノンオフィシャルな場では念話能力と、使い分け方がまるで子供である。まぁ、事実子供なんだけどな。


「それで陛下、此度はどのようなご用件でしょう……」

「ふふふ、呼んだだけじゃ!」


 知ってた。

 彼女の中の娯楽が俺という存在になっているのだろう。

 しかし、俺も忙しい身。彼女もそれくらいはわかっているようで、楽園から戻ったタイミングや、寝る前くらいしか連絡して来ない。きっと、そこは魔王の身分という事で自制しているのだろう。


「さぁコディー、何か面白い余興はないのかっ!」


 広いとはいってもほとんど何もない空間だ。彼女の暇を潰せるものがあればいいのだが…………ディーナと同じように○×ゲームを教えてみようか?

 いやいや、それではすぐに飽きてしまうだろう。

 なら定番のアレを考案してみるしかないだろうな。

 どうせケリュネイアが見つかるまでは待ち時間も多いだろう。

 これを機に魔王のストレス発散を考えるのも悪くない。


「面白いゲームがございます」


 商品化して小遣いも稼げるゲームを作ろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る