076

「えーとこれもマジックアイテムで、これもマジックアイテムか。うーん、下手に使うよりミスリルで統一しちゃった方が良いよな、絶対」

「閣下、これは……冒険者共の武具、ですかな?」


 魔王城の隅にある大金庫。

 そこには先の防衛戦で得た、冒険者たちのマジックアイテムで埋め尽くされていた。

 俺がそこで色々吟味していると、背後からブレイクの声が聞こえた。


「やっぱり、ここに置いていても宝の持ち腐れだろう? 魔王陛下に聞いたら、これは私の戦利品らしいから好きにしろって事でな。鬼人王レジンに聞いたら中々良い装備みたいなんだが……ってそうか」

「は?」


 首を傾げるブレイクを指差す。


「幹部たちにプレゼントすればいいんだよ」

「あ、いや……しかし、よろしいのですか?」

「俺の武器はこれで十分だからな。個性の強い武器なら、個性の強い幹部が適任だ」


 武器こそサイズの合わないものもあるが、それは人間に変身出来る悪魔デーモン種に渡せばいい。


「ブレイクにはこれとかどうだ?」

「ほぉ……これは中々。ミスリルの槍とは違った雰囲気ですな」

「重さはそこまで変わらないけど、突いた時に光魔法の多段攻撃付与があるみたい。確か……【聖槍せいそうシャインガルテ】……だったかな?」

「それは……魔族としてどうなので?」

「魔族に聖獣がいるんだし、気にする事はないのでは?」

「むぅ……確かに」


 その後、複数の部署に顔を出し、人間から集めた武具を皆にプレゼントした。


「はいルピー」

「これは? 首飾りですか?」

「うん、この先端にある羽の装飾が【光風のチャーム】っていうマジックアイテムでな。ハルピュイアの特性に合うと思うんだ。かなり速くなると思うぞ」

「まぁ閣下……では、いつでも私の寝所にいらしてください」


「では」って何だよ。


「で、ではな……」

「ふふふふ、可愛らしいお方……」


 ◇◆◇ ◆◇◆


「リザードキングのジュカにはこれ」

「これは……刀?」

「最初に喧嘩売ってきた冒険者……シャドウとか呼ばれたやつの刀でな。『御神刀ツバメ』っていうそうだ。人間には長いかもだけど、ジュカなら丁度いいだろう」

「ありがたき幸せ。より精進致します」


 ◇◆◇ ◆◇◆


「ガジルはこの【聖界の腕輪】だな。まぁ、ガジルのサイズになると指輪だけどな。これは、光の障壁が薄く張られ……魔法による干渉を受け難くなるんだ」

「へぇ、そいつぁいいですな。ありがたく使わせて頂きます」


 ◇◆◇ ◆◇◆


「レジンにはこれだ。いかつい戦士が振ってたハンマー」

「おぉ、【星砕きの槌】! これなら仕事が捗るです!」


 ◇◆◇ ◆◇◆


「で、ミザリーにはこれだ」

「これは……!」

「【神聖印】という指輪だ。魔力を飛躍的に上昇させるとレジンが言っていた」

「この指輪を……私にっ?」


 恍惚とした表情で指輪を見つめるミザリー。


「閣下! 私の左手の薬指にぴったりですっ!」


 何でピンポイントでそこなの?


「はっ! か、閣下にそのつもりがない事は存じております! ただぴったりと合ったのが薬指というだけであり、決してそのようなよこしまな考えは断じて! はい!」


 ちまたでは邪な存在が魔族な訳だ。その指輪も、戦利品とはいえ、人間側の言い方をすれば盗品なんだけどな。

 がしかし、恥じらうミザリーも……中々可愛いな。ジジには負けるが。


「気にするな。私がしたいようにしただけだ」


 とりあえず当たり障りのない言葉で締めておこう。

 と、思った時期が私にもありました。

 その数十分後、一人くつろいでた俺はミザリーに呼ばれたのだ。


「陛下が呼んでる? 何でまた?」

「さ、さぁ……」


 ……どこかミザリーの反応がおかしい。

 もじもじしながら俺と目を合わせてくれない。

 一体なぜ? それこそ邪な考えでもあるのでは?

 だが、呼んだのは魔王本人。だとすると二人に関係のある事……?

 うーん……わからん。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「あんなに喜んでいる姉上を見たのは初めてじゃ! 問い詰めて聞いてみれば、コディー! 其方そなたからのプレゼントがあったそうではないか! 余にはないのか! 姉上には指輪! ならば余には指輪以上の物があるのであろう!? 余へのプレゼントとやらはまだなのか!?」


 なるほど、面倒臭い。

 何でミザリーが目を逸らしていたのかが理解出来たが、理解したくない気持ちで一杯だ。

 魔王リザリーが戦利品を好きにしろって言ってたのに、好きにしたらこれだよ。

 まぁ、リザリーに渡さないのはどうかと思っていたから、別に不足はないが、まるでダダをこねる子供だなこりゃ。


「あ、明日、お窺いを立ててから参ろうと思っておりました次第であります」

「おぉ! やはりあるのか!」


 何だあの光り輝く笑顔は。

 物々しい玉座に座り足をバタつかせながら……子供かよ。

 まぁ、見た目が子供だし……って実際いくつなんだろうな、リザリーって。今度ミザリーに聞いてみるか。

 俺は一度それを取りに行き、再び魔王の間へとやって来た


「これを」

「ほぉ、杖か。確かにこれほどの逸品いっぴんならば、余の魔法にも耐えうるであろう。銘はあるのか?」

「【神杖ミストルティン】……陛下にお似合いの杖かと」


 魔王に神器ってのが全然似合ってないけどな。

 これは確か、【リィナ】って冒険者が使ってた杖だな。

 あの爆裂魔法もこの杖のおかげで数段強くなっていたはずだ。


「ほぉ~、よいなよいな! 手に馴染むぞぉ!」


 その後、魔王軍幹部の総称は改められる事になる。

 ……「聖域の守護者」と。

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