065

「……ほぉ、流石じゃな? 余の魔力を受けても尚平然としておる」

「ありがたき幸せ」


 俺の思い描く魔王像とはかなりかけ離れているが、確かに魔王だ。

 それを俺自身の細胞に認めさせるだけの魔力は秘めている。

 魔王にとってかわる事は……現状無理だな。

 だが、超えられない訳じゃない。鍛錬を積めば、きっとそれは可能だ。

 やはりこの魔王軍で力を付けるしか道はない。

 そして、人類との共存の道も……。


「しかし何故ここまで遅れたのじゃ? ブレイクから、かなり前に到着したと報告を受けたが?」


 ……遠距離での連絡手段を持っている?

 いや、それならルピーが一々報告に帰っていた理由に説明がつかない。

 となれば、その範囲にも制限があるという事か。しかし、一種のテレパシー能力、乃至魔法を備えていると見て間違いないだろう。

 さてどう返答する? 素直にミザリーのせいとしとくか?

 いや、ここはミザリーの顔も立てなくちゃいけないか。


荘厳そうごんなる魔王城に感服し、ミザリー殿に色々と質問してしまいました故、ここに陳謝致す所存」

「ほぉ、姉上とか……」


 やっぱお前の姉か、アレ。

 まぁリザリーに角が生えてる時点で悪魔だとわかったし、名前も似てたしな。

 だが、妹であるリザリーの方が強いのか。ミザリーに劣等感はないのだろうか。

 …………いや、獣の世界ではままある事だ。魔族といえどそれが変わる事はないかもしれない。

 だが、頭に留めておいた方がいい情報である事には変わりない。


「ふむ、ならばよかろう。今後、姉上はコディーの――いや、まだだな」


 そう、まだだ。


「コホンッ! コディーよ、我が招致に応じてくれた事、感謝する。今後とも余に尽くし、魔族に尽くす事を誓うか?」

身命しんめいして……」

「ではコディー、其方そなたを魔王軍総司令に任ずる。詳しい説明は姉上から聞くがよかろう」

「ありがたき幸せ……!」


 ◇◆◇ ◆◇◆


「――という辞令が下った。これからも宜しく頼む、ミザリー殿」

「閣下、部下の目もあります。これからはミザリーとお呼びください」


 身体中にノミが沸いたのかってくらいむずがゆい呼ばれ方だ。

 これにも慣れないといけないのかと考えると、先が思いやられるな。


「……わかった。宜しく頼む、ミザリー」

「はっ!」

「それで、これから何をすればいい?」

「最終的には人間の駆逐を目指して頂きます」


 阻止させて頂きます。


「……となると、その前準備が必要だという事だな?」

「流石は音に聞く聖獣コディー様。武勇さる事ながら聡明さも兼ね備えているとは驚きですわ。おや? 背中が痒いのですか、閣下?」


 これからもこんなに褒めちぎられるのか。

 ……よ、予想以上につらいぞこれ。


「だ、大丈夫だ……。ではまず魔王軍の視察といこうじゃないか」

「かしこまりました、ご案内致します」


 その後、俺はいくつかの部署を回った。

 畏敬の眼差しで見てくる俺の部下たち。

 作戦部、情報部と色々見て回ったが、どれも頭が痛くなる程杜撰ずさんな管理体制だった。


「ブレイク」

「何でしょう、閣下」


 お前もなのか、ブレイク……。


「この食料調達部隊? ここって何してるの?」

「開店休業中……ですな」

「何でまた?」


 俺が聞くと、ブレイクは口ごもってしまった。

 目を背け、何やら困っている様子だ。


「何だ? ちゃんと言ってくれないとわからないぞ」


 すると、ブレイクは強く目を瞑り、意を決した様子で話し始めた。


「か、過去! 我々オーク部隊は食料調達部隊として多くの果物や獣肉をここへ運んでおりました! がしかし! がしかしですっ! その拠点を奪われてしまったのです!」


 どこかで聞いた事のある話だな。


「……俺の記憶が正しければ、犯人はここにいるんじゃないか?」

「おりません!」

「俺のせいでは?」

「おりません!!」


 血の涙まで流しちゃって……。

 ブレイクには申し訳ない事をしたな。


「……はぁ、わかった。これからオークたちを使い大森林から食料を持ってこさせろ。ヴァローナへの手紙をしたためる。それを彼に渡し、一時的に食料の輸出を許そう」

「はっ! しかし、一時的……とは?」

「当然、こちらにも大森林を作るからだ」

「なんとっ!? 可能なのですか!?」

「何事もやってみなくてはわからない」

「かしこまりました!」


 人工林計画をしなくちゃ始まらないのに、やらないのが異世界だよな。

 それにしてもこの数ヶ月どうやって食料を?

 いや、獣を狩ってなんとかやりくりしていたのだろう。

 ……さて、触れなければいけない部分だ。これを聞かなくては始まらない。


「ブレイク」

「はっ!」

「魔族にはその……に、人間を好むやつはいるのか?」

「基本的にはおりません!」


 それは驚きだな。


「その身に降りかかった火の粉を払う際、人間の全てを食らいますが、それ以外では聞き及びませぬな!」

「ん? つまり人間から襲いかかって来ない限り、食べないって事か?」

「その認識で間違いありません!」


 平和的な魔族もあったものだ。

 がしかし、それなら何故人間は魔族を敵視しているんだ?


「ミザリー」

「何でしょう?」

「我わ――お前たちは何故人間を敵視している?」

「種の保全と言えばわかりやすいでしょうか」

「……つまり自衛のためだと?」

「先に戦いを仕掛けてきたのは人間側ですので」

「ブレイク」

「我もそう聞き及んでおります」


 なるほどなるほど、これはちょっと……意外過ぎる展開だ。

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