064
轟く咆哮。
ビリビリと伝わる魔力。
なるほど、流石は魔王軍の中枢。
ルピーやブレイクという顔見知りはいるが、その
だが、皆の顔に緊張が見て取れるのも事実だ。
確かに、俺との実力差に気付けるくらいには、その身に魔力を有している。
歓待の列をくぐり、俺は真っ直ぐに魔王城へと向かう。
巨大な扉の前で待ち構える一人の女。美女だ。超絶美女だ。
頭から
俺を見る目がやたら冷たいのだが、これは気のせいなのか?
「……ようこそいらしたコディー殿」
ダメだ、完全に見下されている。殺意すら見て取れる。
「今日
知ってた。
俺の引き抜きによって降格しちゃう魔族がいる事くらい知ってたよ。
握手には殺意が、目には殺意が、そして魔力には……やっぱり殺意があった。
だがしかし、このようなところで
このミザリーはこれまでNO2にいた魔族。彼女さえ攻略すれば、それは俺の存在を魔族に知らしめる良い機会となる。
俺は強烈な魔力を前脚に込め、静かに、唸るように低く言った。
「コディーだ……!」
「っ!? ひっ!」
俺の殺意に呑み込まれたミザリーは、一瞬で蛇に睨まれた
おっと、これ以上魔力を込めてはミザリーの細い手が見るも無惨になってしまう。
だが、これだけで周囲の魔族には伝わったようだ。俺とミザリーの実力差が。
ミザリーは、目を震わせ、肩を震わせながら背を向ける。
「……ま、魔王様がお待ちだ……」
「案内感謝する」
魔王城の扉が開き、陰鬱な雰囲気の長い通路を歩く。
形式だから仕方ないのだが、前を歩くミザリーの歩幅は狭く遅い。早歩きしようものなら格好もつかない。まぁそもそもミザリーの歩き方はとてもぎこちない。
どこぞのクマさんの魔力の影響が出ているのだろう。一体何ディーさんのせいなんだろう。しかし、このままでは禍根を残すだろう。
そう思った俺は後ろからミザリーに声を掛けた。
「ミザリー殿」
「ひゃいっ!?」
一瞬で天井まで跳び上がり……張り付いたな?
ガタガタ震えてまるで子猫のようだ。
「質問をよろしいか?」
「ど、どうぞ……!」
あ、そこから下りては来ないんだな。
「ミザリー殿の種は何と呼ばれているのだ?」
「そ、そうか……コディー殿は魔界に
首が痛い。そろそろ下りて来ないだろうか?
「ふっ!」
おぉ、下りて来た。
「聞いて驚くがいい! 我が種は
世間話の延長だったのだが、ドヤ顔に加えポーズまでとられては、俺も驚かざるを得ない。
「オォ~、ソレハスゴイデスナ」
よし、上手く褒められたはずだ。
「……世辞であろう」
よし、ダメだった。
「ソンナコトハナイゾ」
「では何故そんな急に片言になる?」
馬鹿な? 流暢な人語だと思ったのに。
「け、獣の世界では本音で話す時こうなってしまうのだ。おっと、これは言わない方がよかたか……」
我ながら苦しい言い訳だが……ちら?
「そ、そうか! そうかそうか! そうであろう! ほほほほほほっ!」
何故こいつは今まで魔王軍のNO2でやってこれたのだろう?
ルピー然り、ちょっとチョロすぎではなかろうか?
これは新たなNO2、コディーさんがしっかり監督せねばならないだろう。
とはいえ、まだ魔王軍に入ってすらいない。
まずは魔王とやらに会ってからなのだが……ミザリーが
「おほほほほほほっ!」
爪の手入れでもしてよう。
◇◆◇ ◆◇◆
「魔王様……コディー殿がお越しです」
通路奥にあった物々しい大扉。その前で、ミザリーが言った。
『遅い! 遅いぞっ!』
とても魔王の声とは思えない若々しい声が響き渡る。
というかこの声…………女の子? いや、男の子かもしれない。
『コ、コホン! コディーとやら、入るがよい……』
入りたくなくなってきた。
「……失礼する」
入るしかないんだけどな。
ミザリーはその場で控え、耳を
十数段の階段。その先にある
そこに座るのは…………年端もいかぬ女の子だった。
薄紫のポニーテール。くりくりのお目々に華奢な身体。
頭頂部から生える小さな山羊角。
…………これが魔王だって?
「余が、第五十八代魔王……リザリーである!」
どこかで聞いた事のある名前だった。
どこかで見た事のあるドヤ顔だった。
しかし、考えたくなかったので俺は
とりあえずこの茶番を早いところ終わらせたい。
そう思い、俺は魔王リザリーに
「聖獣コディー。魔王陛下の招致に賛同しやって参りました!」
「うむ、苦しゅうない」
魔王軍に入る。
それは良しとしよう。
NO2になったらする事はもう決めている。
というか今しがた決まった。
それはこの魔王の間への大扉……その立て付けを改善する事だ。
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