063

「これに乗るのか?」

「我々はルピーのように空が飛べないからな、仕方ないだろう」

「にしてもサイズが問題なんじゃないか?」

「仕方ないだろう。本来オーク、、、一族のみが使用するという転移結界、、、、

「でもこれ、ブレイク、、、、のサイズにも合ってないだろう?」

「そ、そんな事はない! このオークキングのブレイク! 日々の鍛錬からかいつもこの転移結界にはジャストフィットだっ!」


 何故、俺がオークキングのダイエット話でも聞かなくちゃならんのか。

 しかし、魔王軍に入るにしても、一旦は魔王城に登城しなくちゃいけないのが難点だよなぁ。

 まぁ、あそこにはヴァローナもいるし、シロネコやゴリさんもいるしな。ディーナの警護としては十分か。

 そう、俺はルピーにスカウトされ、魔王軍に入る事になった。

 当然、これを知っているのは身内だけだ。ジジにはダニエルに渡した手紙で伝えているが、返ってきた手紙には冗談で受け取ったような内容も書いてあった。信じてない可能性が非常に高いが、定期的にその情報は載せていこうと思う。

 人間では、ディーナとニッサも知っているが、ヴェインやダニエルはその事を知らない。

 誰だって知らない方が良い事もある。寧ろ、知っているとまずいのだ。今後の事を考えるとな。

 つまり、楽園外で知ってるのはジジだけなのだが、それも怪しい。

 ライオス国の情勢を聞いた感じでは、今は北の国――ノレイス国との関係悪化が問題視されている。ディーナの手紙は国王へ渡ったそうだが、あれ以来、行動に現れていない以上、かなり悪い状況なのだろう。おそらく、ライオス王が「孫があの森にいるだけ安心」と思う程には。

 魔王軍NOナンバー2の確約をもらった俺は、ルピーの「後日、使いを出す」という話を聞き、楽園でぬくぬくと待っていた。そして、やって来たのはこのオークキングブレイクという訳だ。

 以前より魔力は満ちているその風貌、かなりの戦力アップを果たしたようだが、その彼が俺に会って見上げるなり「これは……たまげた……」とか言ってた。

 確かに、今のブレイクを片手で捻る事が出来るくらいには、俺も成長しているかもしれない。

「ぬっ、くくくっ!」


 俺は片足でブレイクサイズの転移結界に乗る。

 転移結界が「無理……こんな大きいの……無理……」って感じに齷齪あくせくした魔力反応を見せた後、俺は静かに転移して行った。

 目指す先はそう、魔界である。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「へぇ、ここが魔界……」


 魔神殿とも呼ばれる魔界の神殿から出た俺は、殺風景な世界を見て零す。


「そうだ、これより更に北へ三日の道のりだ」

「遠っ!?」

「仕方ないだろう。転移結界を置ける場所も限られている」

「そうなの?」

「地脈に流れる魔力の影響故……と、魔王様も仰っていた」

「ふ~ん、歩いて三日?」

「そうだ」

「迎えはなし?」

「お前はまだ魔王軍に入ってないからな」

「ブレイクには?」

「我がオーク払いをしたのだ」


 人払いみたいに言ったな。

 しかしなんで?


「まるで自分の魔力が周りに与える影響を知らないかのような顔だな、コディー」

「最近じゃ調整出来るようになってきたんだけどなぁ」

「ふむ……いや、まだ魔王軍の上級魔族でないと耐えられぬな。魔物では震え上がるだけだろう」

「魔族と魔物って何が違うの?」

「人間の世界ではどうかわからぬが、我々の世界では人語を解する者を魔族と呼んでいる」


 という事は、俺が倒したオークジェネラルも魔族だったという事か。

 しかし何故線引きが人語なのだろうか?

 まぁそれも追々わかっていくだろう。


「歩いて三日なら走れば半日だろう。ほれ、乗れよ」

「ほぉ? 我がコディーにか?」


 俺が騎乗を許した事に、ブレイクは顔を綻ばせる。まるで豚が笑っているようだ。


「俺が魔王軍に入ったら許されないかもしれないぞ? 早めに乗っておけ」

「ふん、言いおるな……がしかし、興味がないと言えば嘘になる」

「落ちるなよ」

「ぬかせ熊が! くはははははっ!!」


 そんなやりとりに、豚の王は終始ご満悦だった。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「も、もう無理……おぇ」

「なるほど、前衛的な体毛だな……ブレイク」

「お主のせいだ……コディー……」


 俺の走りを体感したブレイクは、総毛立ち、天然のドライヤーで仕上がった見事な体毛をバキバキにしながらうずくまっていた。この魔王城の前で。

 半日で着くつもりが三時間で着いてしまった。その速度は、ブレイクにトラウマを植え付けるだけの力を有していた。

 だが、ブレイクが豚だろうが虎だろうが馬だろうが関係ない。

 ここには虎顔の魔族も、馬顔の魔族もいる。

 魔王城の門前に並ぶ多くの魔族。中には当然ハルピュイアのルピーもいる。

 そんな気配にあてられたのか、ブレイクはコホンと咳払いをした後、その列の末席に加わる。

 そして高らかに叫ぶのだ。


「ようこそおいでくださいました、コディー殿!」


 魔王城に大きな声が響き渡る。

 これが、俺の初めての魔王城見学しゃかいかけんがくの日だった。

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