017
『なんだよ、その続きってのは?』
『冒険者や魔物にランク付けがあるだろう?』
『あるな』
『あれは実は獣にもある』
『魔獣以外になんて呼ぶんだよ?』
俺が聞くと、ヴァローナは『ふっふーん』と言って答えを焦らしてきた。本当に調子のいい性格をしている。
俺はヴァローナを調子づかせたくなかったので、静かに、そして無言で待った。
『うおい! そろそろ聞いてくれてもいいんじゃないか!?』
『マダー?』
『くっ、なんて抑揚なき言葉なんだ。ま、まぁいい。いいかい? 魔獣は魔物を狩る獣の一番下のランクだと思ってくれ。その上には霊獣と呼ばれる存在がいる』
『あー、そういう?』
『何だ、まるでわかっているかのような顔だな?』
『どうせ、その後、聖獣や神獣って続くんじゃないの?』
ヴァローナがピタリと止まった。そして羽で自分の目を覆ったのだ。
『わ、私が言いたかったのに……!』
そして嘆いた。
どうにもヴァローナには、カッコつけたがりな節がある。
しかし、この世界に魔獣と呼ばれる存在がいるのか。あの時は勇者ヴェインの絵空事かとも思ったが、ヴァローナから聞くと信憑性が高い気がする。
『はぁ……魔獣とは高位ランクの魔物を倒した獣、そして聖獣以上の獣から認められた存在がなる事が出来る』
『なるとなんか良い事あるのか?』
『何、簡単な事さ。人間と同じように、魔力が使えるようになる』
『おぉ! 魔法使いコディーさんの誕生だな!』
『魔法を使えた獣の存在は知らないが、人間の言語を操るコディーなら或いは……いや、ないだろうな』
何だ、ガッカリだな。
けど一体魔力ってのは何に使うのだろう。
『魔力を宿した獣は潜在的な力を更に向上させる事が出来る。つまり、今より強くなれるんだ』
『へぇ、それは便利だな。つまるところ、身体強化の魔法みたいなものだろう?』
『魔力の循環によってそれが行われるから、それが常時かかっている、といった方が正解だろうな』
ヴァローナの説明にうんうんと頷き、俺は自分が魔獣になった姿を思い浮かべた。
魔獣かー。単なる獣だけで終わると思っていたけど、やっぱり異世界はこうでなくちゃな。そうだ。異世界で人間が強くなれるのに獣が強くなれないというのはおかしな話なんだ。
うん、やっぱこうなって然るべきだよな!
そう自分に言い聞かせ、俺はヴァローナに質問をした。
『という事は、聖獣以上の獣に認められれば、俺は魔獣になれるのか!?』
ずいと顔を近付ける俺を見て、ヴァローナはにやりと笑った。
『既に目の前にいる』
はて、何を言っているのだろう、この
『おい! さも自然な顔で首を傾げるな! 私がその聖獣以上の存在だと言っているんだ! おい! 何故反対側に首を傾げる! しかも神獣だぞ! 神鳥ヴァローナ様なんだぞ! どうだ、驚いたか! ハハハハハ…………』
『腹減ったな。魚でも獲って来るか』
『待て! 待て待て待て待て! 待て! なぁなぁなぁ、本当に神獣なんだよ私は、な? 信じてくれ、コディー。わかるだろう、この漆黒の身体。全能の神に認められた美しい所作と知識。どうだ!』
『あ、そうだ。岩塩を寝床から持って来なくちゃ。あれは神が俺に授けてくれたものだしな。ここなら隠せるから問題ないな、うん』
するとヴァローナは俺にしがみ付き、そして大粒の涙を流し始めた。
『本当なんですぅ……信じてくださいコディー様ぁ……!』
『神獣のイメージがガクッと下がるような事するなよ』
『おぉ、では信じてくれるのか!?』
まぁ、八咫烏っていったら神話の中に存在する生き物だしな。そう言われれば納得出来るが、いささか疑問が残る。
『ヴァローナ、ちょっと聞きたいんだが、いいか?』
『ふん、この神鳥ヴァローナに任せるんだ!』
物凄いドヤ顔を向けてくるヴァローナ。やはりおかしい時はとことんテンションが高いな。
『ヴァローナには戦闘力がないって言ってただろう? なら何故神獣になれたんだ? 言ってる事が矛盾していないか?』
『矛盾はしていない。私は元々神獣なのだよ。そう、生まれた時からね』
なるほど、そういうカラクリか。
むしろ八咫烏が初めからただの獣だったらおかしな話だしな。
しかし獣って
『納得してくれたようだね』
『まぁな』
『それでコディー。一応聞いとくが魔獣になる気はあるかい? そのままでも十分強いとは思うが、この世界で生きるのであればなっておいて損はない。寿命も延びるしな』
ふむ、クマの平均寿命は流石にわからないが、寿命が延びるってのは有難い話だ。それでいて強くなれるのは非常に魅力的。
俺の最終的な目標は……ジジと共に冒険をする事。ならば、ジジを守れる強さがあれば、それにこした事はない訳だ。
『……どうやら決まったようだな』
ヴァローナが薄目でニヤリと笑い、俺を見てきた。
そう、俺の答えは決まった。いや、最初から決まっていたんだ。
『あぁ、俺は魔獣になる』
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