016
武器が手元にないオークジェネラルは、俺を攻めきれずにいた。俺の右前脚にはミスリルクロウ。この右前脚をどう制するか、それがオークジェネラルの狙い。
ならば俺はこれを牽制に使い、立ち回る!
「はぁああああっ!」
「くっ、来い!」
そう意気込んだオークジェネラルだったが、目は完全に俺のミスリルクロウを見ている。俺は振り被った右前脚をピタリと止める。
「なっ!?」
そして左前脚で、オークジェネラルの腹部を叩く。
ズドンという重い音が響き、オークジェネラルの身体がふわりと浮いた。
「がぁっ!?」
浮き上がる中、
「…………っ!」
ばさりと切断されるオークジェネラルの右腕。
仰け反っていたから頭は狙えなかったが、利き腕の切断に成功した俺。
オークジェネラルは腹部の痛みと、腕の痛みにより、声すら出せず悶絶している。
これ以上は見ていられない……な。
俺は、躊躇なく前にすすみ、大きな影を作ってオークジェネラルを見下ろした。
「墓は俺が作るよ」
そう言った瞬間、オークジェネラルは悟ったように目を瞑り、俺の
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『うぉおおおおおおおおおおおおお!! 勝った! 勝ったぞぉおおおおおおおお!!』
勝手に漏れ出てしまった勝利の雄叫びに、森全体が揺れた。
木々から飛行系の魔物が飛び出し、草木は音を立てて遠くの方へ流れて行った。
おそらく残っていた魔物たちが、森から跳び出て行ったサインだろう。
『ハハハハハ! やったなコディー!』
空から見守っていたのか、降下してきたヴァローナがそう言った。
『おう、ようやくこの森をいただく事が出来た』
『あの少年が、よもやオークジェネラルに勝てるとは思わなかった! 正に獣界の珍事だな!』
軽快な口調で言ったヴァローナに、俺は笑いながら応えた。
『結局見ているだけだったな、ヴァローナ』
『骨の運搬を手伝っただろう?』
『あー、確かに……』
『それに私にはコディーのような戦闘力はない。出来て斥候くらいだな』
本当に、獣にしては随分と難しい言葉を知っている。
まぁ、それは俺もなのだが、そもそもヴァローナに仲間はいないのだろうか? ずっとここら辺にいるのだろうか?
そう考えていると、俺は森に入る前に、ヴァローナが言っていた事を思い出した。
『そういえば、魔物を狩る獣の話の続き、聞かせてくれよ』
『ふむ……そうだな。だが、話すより先にそこのご馳走を食べてもいいかね?』
ヴァローナはオークジェネラルを指し、そう言った。
『お前、ホント食い意地が凄いよな』
『失礼な。これにはちゃんとした理由があるのだ。それで、いいのかね?』
まぁ、許可を求めるあたりまともか。
『穴を掘っておくから、骨はその穴に入れてくれよ』
『了承の意と受け取ったぞ。ハハハハハ!』
ふむ、このサイズの穴なら問題ないだろう。
オークジェネラルの墓。ヴァローナは指示通り、穴に骨を運んできた。全て埋め終えた後、俺はその上に大きな岩を運んだ。
『それは?』
『人間の文字で「オークジェネラルの墓」と書いてある』
『他の魔物の墓なんて作った事なかっただろう? 何故今回は墓を作ったんだい?』
『まぁ、成り行き上そうなったってのもあるけど、中々の武人だったからな、こいつ』
ヴァローナはそう言った俺を見た後、墓を見つめて『ふーん』とだけ呟いた。
そして俺の頭に飛び乗り、『付いて来い』と言ったのだ。
『………………おい』
『なんだ?』
『早く歩こうじゃないか』
『今、お前付いて来いって言ったじゃないか!?』
『言葉の
ったく、食い終わった後だから重いんだけどな、ヴァローナのヤツ。
そういう俺の苦労、本当にわかっているのだろうか。
俺はブツブツとヴァローナの文句を言いつつ、ヴァローナが言った通りの方向へ歩き出した。
『……ここは?』
『はははは、いつもはオークたちが集まっている広場なんだが、流石にもう誰もいないか。まぁ、あいつらはそういうところに敏感だ。仕方ないだろう』
ぴょんと頭から降りたヴァローナは、じっと俺を見つめてきた。
『求婚なら性別の壁を乗り越えてからにしてくれ』
『誰がそんな事を頼むか! まったく、コディーを前にすると、私の真面目な態度はかき消されてしまうな。コホン、さっきの話の続きだ』
『あぁ、魔物を狩る獣の話な』
俺はその場に座り、ヴァローナは近くの切株の上に乗った。
『魔獣という言葉は聞いた事があるかい?』
『そういえば前に勇者を倒した時に言ってたような……?』
『いぃ!? ゆ、勇者を倒した!?』
ヴァローナは目がとび出てくるんじゃないかってくらい、大きく見開いた。なにあれ、面白い。
まぁ、とび出たらとび出たで恐ろしいんだけどな。
『あぁ、人間の神殿ってところで神託を受けた勇者だって話だぞ。まぁ本当か嘘かはわからないけどな。あぁ大丈夫大丈夫、殺してないよ。駆け出しだったらしいし』
『そ、それは何よりだ。コ、コホン。勇者は魔王と対をなす存在。そして魔獣は魔物を狩る存在だ』
溜めたわりには随分と簡単な続きだったな。
『あ! その顔はわかるぞ! 溜めたわりには簡単だったとか思っているだろうっ?』
『随分と、が抜けてる』
『むっかぁ! 安心しろコディー! まだ続きがある!』
はて、どんな続きだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます