015

 あれから更に日が経った。

 気付けばジジと別れてからひと月以上は経っていた。

 それでも森の中には、未だ魔物がはびこっている。

 強い気配こそ見かけなくなったが、魔物がまだいる事がわかる。

 現にヴァローナに空から確認してもらったところ、複数のオークが歩いているところを何度も目撃しているのだ。

 それでも、こちら側にオークたちを送ってこなくなったところを見るに、かなりの数が減ったという事実は否めないだろう。


『頃合だと思うが、どう思う? ヴァローナ』


 俺はヴァローナに聞いてみた。

 なんだかんだで、相談出来る相手がいるというのは、有難いものだ。


『むしろそう言うという事は、決心がついたという事じゃないのかね?』

『まぁ……そうだな』


 やっぱりヴァローナは凄い。下手な人間よりその中身を見る事に長けている。


『このひと月、コディーを見させてもらったが、なるほど、あの時の自信に納得したよ。今はもう君を止めようとは思わないさ。なんせ、君はこのひと月で更に強くなっている』

『まぁ結構訓練したから、それが身体に馴染んできたんだろうな』

『それもあるが、私が言ってるのはそういう事ではない』


 はて。どういう事だろう?


『普通の獣は魔物を狩るなんて事しないんだよ』

『まぁそれはなんとなくわかるな。獣って皆臆病なイメージあるし……』

『そう、けど中にも例外があってな』

『例外?』

『魔物を狩る獣が一握りだけ存在する』


 へぇ、それは初耳だな。俺がヴァローナの続きを待っていると、ヴァローナは俺を見てニヤリと笑った後、


『まぁ、その続きが聞きたければオークジェネラルを倒す事だ』

『あぁー!? それはずるいだろ!』

『ハハハハ! からすとは総じて狡賢ずるがしこいモノ! 諦めるんだなコディー! ハハハハハ!』


 にゃろう。自分は烏って言われるのが嫌いなくせに、こういう時だけはちゃっかりしている。

 まぁ、決戦前にいい気分転換にはなったか。そういった意味ではヴァローナに感謝しなくてはいけないな。


『よし、それじゃあ行ってくる!』

『このヴァローナ、友に敬意を表し全ての神に祈ろう。武運を……!』


 珍しくかしこまったヴァローナだったが、『友』と呼ばれ、そして八咫烏の彼が敬意を表してくれた事が、なんだかくすぐったかった。

 俺は前脚を上げてそれに応じ、幾度も潜ったこの森に、また足を踏み入れた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 魔物は粗方片付いた森の奥深く。

 俺はその中を堂々と歩き、更に奥、森の中央にまで足を運ぶ。おそらく、真っ直ぐそこへ向かったとして、他の生き残っているオークたちが俺を見つけ、急いで奴に伝えたのだろう。

 こんな臨戦状態で俺を待っていたのだから……。


「っ! ようやく現れたか……!」

「人間の言葉?」

「お前も喋れるのか。高位の魔物は人間の言葉も解するものだ……がしかし、手下共の奇怪な失踪。戻らぬ精鋭たちを屠ったのがただのコディアックヒグマだと、誰が信じられよう。だが、この魔力、、を肌で感じて納得よ……!」


 槍を構えるオークジェネラル。

 張り詰めた空気だったが、俺は落ち着いていられた。それが何故なのかはわからない。オークジェネラルから、以前感じた恐怖を感じなくなったのもソレが原因なのかもしれない。


「フハハハハ! このオークジェネラルを前にして笑うか! 面白い、名を聞こう!」

「コディー」

「コディアックヒグマのコディー……! 知勇に優れたお前の墓、この我が名を彫ってやろう!」

生憎あいにく、もう死にたくないものでね」

「不可解な事を! ならばその身体、死者のものだというのか! ……いや、この先は武で語るとしよう!」


 槍の持ち手に力が入ったオークジェネラル。俺は右前脚を振り、持ち手のスイッチを押してミスリルクロウの爪を立てた。


「見事な爪だ。がしかし、やはり人間が味方についていたか」


 そうか、獣は普通こんなもの持ってないしな。武器の繊細さから俺では作れないと察したか。


「ここから先は、武で語るんだろう?」

「ふん、わかっておるわ! かぁっ!」


 槍を振り、突風のような風を起こしたオークジェネラルが真っ直ぐ向かって来る。

 速度もオークファイターと比較にならない程速い。


「ふん!」

「んが!」


 槍の攻撃力、重さも想像以上。こりゃ突かれれば毛皮も通っちゃうな。脇で止めた槍を固定すると、オークジェネラルは槍を両手に持って力を込めた。


「……っ!? 何っ!? 動かぬ!? 片手で我の全力と張り合うか!」

「あんまり獣を舐めるんじゃねぇ……! うぉらっ!」


 槍ごとオークジェネラルを持ち上げ、そのまま地面に叩きつける。


「ぐぉおっ!? っ! くっ!」


 すぐに立ったオークジェネラルだったが、俺は既に別の行動に移っていた。


「ぬっ、我が槍を……!?」

「どぅおらぁああっ!」


 思い切りオークジェネラルに投げつける。

 しかし、受け止める事は出来ない威力だったようで、オークジェネラルは身を低くしてそれをかわした。

 がしかし、それでいい。寧ろ受け止められていたらどうしようかと思っていたところだ。


「くっ! 狙いは武器を遠ざける事にあったか!」


 無手となったオークジェネラル。

 よし、これなら勝てる!

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