014
大降り……という事は、俺の臭いが消えるという事。魔物の臭いも消えてしまうという難点は、俺の鼻が解決してくれる。そして何よりも重要なのは、音が消えるという事だ。
『行ってくる』
『まだ早いんじゃないか?』
『早くしないと川の流れが強くなる。今日は魔物の生活圏に入ってみるつもりだからな。悪いが死体は流れが強い内に川に流すつもりだ』
『ふむ、まぁ仕方ないだろう。では気を付けて行ってくるといい』
心なしか、ヴァローナの言葉が優しくなったような気がする。
だが時間は有限。今はそれを考えている時間はないんだ。俺はヴァローナに返事をした後、森の中へ入って行った。
『凄いな。もう川の流れが速くなってきている……』
どぷんと川に入り、流されないように力一杯泳ぐ。
いつも以上に力が入っているのか、川はすぐに渡る事が出来た。
……はて? もっと大変だと思ったのだが、目測を誤ったか?
まぁ、それを上回っているのであれば、あまり気にする事じゃないか。
『おっと……』
早速オークが俺に近付いてきているのを鼻で感じ取った。数は、四匹か。
今俺に出来る事は出来るだけ森に棲む魔物の数を減らす事。
四匹のオークの最後尾から迫り、一匹、また一匹と瞬時に狩っていく。死体を川に投げ、再び索敵。
おっとこんなところにモスフロッグが。
そうか、あの激流じゃ川の中にいられないのか。
モスフロッグをキュッとしてポイッとしたら、ハイオークを発見。数は三匹。やはりオークジェネラルが主だからなのか、オーク系が多いのだろうな。
『…………ふぅ、結構狩ったがどうだろう?』
昨日よりも森にいた時間が長い分、かなりの数のオークを仕留めたと思う。
数にすればオークだけで三百はいくだろう。そろそろ異変に気付いたオークたちが行動を起こしてもいいはずだが……はて?
結局、雨が小降りになったため、その日はヴァローナのところへ戻った。
だが、その翌日、それは起こった。
目を血走らせたオークファイターが、オークやハイオークを率いて周辺を捜索し始めたのだ。
『まずいな。私は空へ逃げるが、コディーはどうする?』
『丘釣りでもしてくるかな』
『妙な事を……』
時間がなかったからか、ヴァローナはそれ以上追及せず、空へ飛び立ってしまった。
俺は岩陰から、近くのオークにだけ聞こえるような草木の異音を出し、一匹、また一匹とオークたちを倒していく。
やがて、腕を組んで立っていたオークファイターの近くには警護のハイオークが四匹だけとなった。
つまり、オークファイターを入れて五匹だ。
ようやく異変に気付いたオークファイターは身構え、続いて周りのハイオークたちも武器を構えた。
オークファイターは剣、ハイオークは竹やりを持っている。
これなら、逃げられずにやれるかな。そう思った俺は岩陰から姿を見せ、一瞬にして距離を詰めてハイオークの頭を潰した。
続き、隣のハイオークの腹部を攻撃したところで、オークファイターが動いた。俺はオークファイターの振り上げた腕を掴みながら反転し、その腕の逆関節を
残り一匹のハイオークが竹やりで突こうとした一瞬、オークファイターの身体を盾にする。
「ブッ……ヒ……!」
腹部に刺さった竹やりに痛がるオークファイターと、困惑するハイオーク。
『ふんぬ!』
オークファイターの腹部から飛び出た竹やりを避けるように押し込み、そのまま蹴り飛ばす。
先程蹴り飛ばしたハイオークが生きていないか心配だったが、どうやら倒れたまま動かないようだ。
俺はミスリルクロウでオークファイターの下敷きになっていたハイオークを倒し、最後の力で俺を見上げようとするオークファイターの頭を……潰した。
『本当にとんでもないな、コディー……』
戦闘が終わるとすぐにヴァローナが降下してきた。
オークファイターの死体の上に乗り、呆れたような目つきで俺を見る。
『もう少し気の利いた言い方はないのか、ヴァローナ』
そんな俺の悪態に反応せず、ヴァローナは目を輝かせた。
『今日もご馳走だな』
にゃろう。……ふむ、少しからかってやるか。
『あげるなんて言ってないぞ』
『く、くれないのかっ?』
まるで思ってもみなかったかのような顔だ。
『借りでいいからおくれ!』
『はぁ~。早いとこ片付けたいのに、仕方ないな……』
俺は溜め息を吐きながら『どうぞ』と言うと、ヴァローナは嬉しそうな顔をしながらオークをつつき始めた。
まったく、現金なヤツだ。
その日の内に、俺は、森に潜り、確実に魔物の数を減らしていった。
翌日も、オークファイターがオークたちを率いてやってきたが、昨日と同じ戦法で問題なく倒せた。
何日も、何度も森に足を運び、それが日課とも言えるような感覚を覚えた頃、更なる変化が起きたのだ。
『ハハハハ、奴らついに打ち止めかもしれないな、コディー』
『まだわからないけど、効果が現れたって事でいいんだろうな』
俺の岩肌から覗き込むと、そこにはいつものように、オークファイターはおらず、ハイオークとオークのみで構成された集団しかいなかったのだ。
これはいよいよ勝負の日が近いだろうな。
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