009
「ヴェインっ、ヴェイン!? ねぇ、しっかりして!」
大きな岩塩を持って来たジジは、勇者
「コディー、一体何があったの?」
「いや、金と、毛皮、目当てに、襲われた。はい」
「そ、それは確かに正当防衛だね……」
ジジは困惑しながらもそう言った。
しかしヴェインのやつ起きないな? 結構本気だったしな。ちょっとやそっとの衝撃じゃ起きないな。
「ジジ、どく」
「あ、えぇ」
ジジは俺の言う通りさっとどき、俺は倒れるヴェインの頭側に移動した。
そして、耳元に口を寄せ――――、
「食べ、ちゃう、ぞ」
「嫌ぁあああああああああああっ!?」
黄色い声を上げ、がばっと起き上がったヴェインの正面には、目を丸くしたジジ。
「ジジ!? 何故こんなところにいるんだっ?」
「何故って……夕飯の支度?」
「そういう事を聞いてるんじゃない! しかもここは支度をしにくるような場所でもない!」
なるほど、やっぱりヴェインはジジと知り合いのようだ。
まぁ自称だろうと他称だろうと、勇者と言ってれば知っていて当然か、とも思っていたが、この会話から察するにある程度の仲だという事はわかる。
「一緒に食べるのよ」
「俺をか!?」
何で嬉しそうなんだよ、すけこましヴェイン。
ったく、こんなのが本当に勇者なのか?
「コディーと」
「誰だそいつは!?」
何で怒ってんだよ、すけこましヴェイン。
おっと出番っぽいな。準備しなくちゃ。
「その子」
「ガァアアアアアアアアアアアアッ!!」
「ひぃああああああああああっ!?」
身の丈程は跳び上がったであろうヴェイン君は、その後腰を抜かして蛇のようにくねくねと後退していき……川に落ちた。
「ばぁ!? がぼ……ガボボボッ!?」
「ジジ、あいつ、ホント、勇者?」
「うーん、実際神殿で神託受けて勇者らしいんだけど、まだまだ駆け出しなのよね。私と同時期に冒険者ギルドに入ったから、何回か一緒にクエストは受けた事あるけど、最近はずっとコディーとだったからね」
なるほど。神殿で神託を受けたってのは、確かに信憑性があるな。それにまだ駆け出しだったのか。
しかし恐ろしいな。勇者がいるって事は魔王とかいたりするんじゃないだろうか?
まぁいい、今は自分がどれだけ出来るかってのは知っておきたいからな。
「とりあえず、俺、あいつの前、喋らない」
「うん、それがいいかもしれないね」
結局、川から這い出てきたヴェインを送るため、ジジは町に帰って行った。食料と岩塩を置いて。
折角ジジと一緒に食事が出来ると思ったのだが、しょうがない。食料は明日ジジと食べるとして、今日はジジがくれた岩塩をつかって焼き魚にするか。
そして俺は魚を獲り、内臓を取り除いた後、洗った木に刺した。本日の魚はイワナだ。塩焼きの定番とも言えるだろう。
イワナの腹部が狐色に変わり、火に脂を落としていく音がたまらなく好きだ。もはや恋をしていると言ってもいいだろう。
焼き面を反対にし、全体的に焦げ色がついたところで、一本口に運ぶ。
イワナの熱さよりも食欲に負け、一気に頬張ってしまったが、それは仕方ないだろう。
「ふぉおおおおおおおおおおおおおっ! 塩分! 塩分最高ぉおおおおおおおおおおおおっ!!」
独特の癖があるイワナの味だが、俺は気にする事なく食べる事が出来た。
夕暮れ時、俺は奇声をあげながら塩のありがたみに感謝し、多くの魚を頬張った。
「あか! まき! がみ! あお! まき! がみ! き! まき! がみ!」
ついでに発声練習もしておいた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「昨日はごめんねコディー」
翌日、両手を合わせ申し訳なさそうに謝罪してきたジジ。
俺が会話出来るとはいえ、獣に謝る人間というのも珍しいな。
その日は、ジジの特製料理というのをご馳走してもらえるそうだ。
今から俺は、涎を垂らし過ぎて身体の水分が枯渇するかもしれないな。
それくらいジジの料理は楽しみだった。
「ジジ、それ、何?」
「んー? 絵の具」
「それは?」
「香水だよ?」
「それは?」
「砂鉄だね」
おかしい。
およそ料理に必要ないものが、ずらりと並べられているような気がする。
「絵の具、何に使う?」
「綺麗な色になるでしょ?」
「こ、香水は?」
「良い香りになるんだよ?」
「さ、砂鉄は……?」
「隠し味♪」
「のぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
俺はそう叫ぶなり、目を丸くしたジジを持ち上げ、地面に座らせた。
「俺、作る」
「えっ? コディーが作ってくれるの? でも、何だか悪いよう……」
「い、いつも、世話に、なってる」
「えっ……えへへへへ、そう? それならお願いしようかな」
俺はその後、焼き魚を焼いている間、ジジが持って来た食材の中でまともそうなパンと野菜を使って、サンドイッチを作った。
ジジは美味しそうにそれを頬張り、俺はようやく一息吐いた。
しかし解せない。いや、理屈で考えるなら着色の絵の具、香り付けの香水はまだわかる。いや、わかりたくないけど。
でも、隠し味に砂鉄って何だ?
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