第296話  露天風呂


「んふ~……」「ふぁぁぁ……」

「はぁぁぁ……ええ湯じゃぁぁぁ……」


 白い湯気の立ち昇る湯船に浸かり、胸の薄い3人の娘達が蕩けた声を溢していた。


(シルヴィアさん……あんなに堂々と……。ベルフラムさんやデンテちゃんはともかく……)


 恥らう素振りを見せない3人の代わりにミスラが顔を赤くする。


 九郎が密かに作り上げたと言う風呂の出来栄えは上々で、反応は頗る良いものだった。

 どこまでも広がる静かな海と、それを映す大きな月。

 アルム公国でも火竜山に近い場所にはあると聞いていたが、箱入り娘の最たるミスラにとっては「知ってはいたが見た事は無い」ものの代表でもある『露天風呂』。

 母の故郷の文献にも書かれていた憧れの『露天風呂』に、気持ちが開放的になるのはミスラも同じ。


 ただミスラの性格上、いきなり全てを曝け出す勇気は無かった。

 女湯に胸を隠す為のタオルが用意されており、ほっと胸を撫で下ろしていたところである。


 ミスラと違い、三人の少女は真っ裸で大事な部分を隠そうともしていない。隠すほどのモノが無いからなのか、それとも女同士では羞恥の感情を覚えないからかが良く分からない。

 可愛らしい尻を覗かせ、縁に手を添え目を瞑っている二人の少女はともかく、大股開きで空を見上げて忘我の様子で声を漏らしているシルヴィアを見ると、ミスラの方が恥ずかしくなってくる。

 ただ現在タオルを使っているのが、リオを除くケテルリア大陸の出身者ばかりなので、文化的な面もあるのかも知れない。


「ちょっとアニキっ! タオル無いん?」

「男同士で恥ずかしがってんじゃねえ!」

「せめてこの目隠し取って……」

「んなことしたらお前覗くだろうがっ!」

「せえへんて……」


 男湯の方から聞こえてくる会話から考えるに、タオルが用意されていたのは女湯だけのようだ。

 フワフワ頭の中に思い浮かぶ光景に、ミスラの顔が自然と緩む。


(っと……危ない危ない……。はしたない姿は見せられませんわ)


 口元を拭ってミスラは頭を振り、岩肌を流れていた冷たい水で頭を冷やす。

 これまで入浴の手伝いをしていた女中メイド達と、今の面子は全く違うのだ。

 臣下では無く同列の者達であり、例え年が遥かに違っていても立場に差異は無い。

 逆に年上の淑女として(シルヴィアとアルトリアは年上だが)、振る舞わなければならないだろう。

 タオルの結び目を固くして、ミスラが顔を上げたその時、再び彼女の眉はハノ字に下がった。


「あ、あのっ……私、毒が染み出しちゃうかもしれませんのでっ……」

「へーきへーき! ボクがいれば毒なんてすぐ分解できるから」


 もしかして自分の方が可笑しいのだろうか――目の前に広がる圧倒的な大きさの二人の胸に、ミスラの口から小さな溜息が漏れる。

 ふと横を見ると、ベルフラムとシルヴィアが二人の胸と自分のを見比べ、納得いかない表情を浮かべてふにふに自分の胸を押さえている。


 その気持ちは良く分かる――言葉に出せばはたかれそうな思いを抱きながら、ミスラは自分の胸の谷間を覗き込む。

 一応ミスラも胸の大きさには自信があった。が、アルトリアとレイアを前にしては、上には上がいるのだと痛感させられるだけだ。


「ミスラちゃんも早く~。ピリッと来たら教えてね?」


 敗北感に塞ぎこむミスラに、アルトリア勝者が緩んだ笑みで手招きしてくる。


「アルトリアさん!? わたくしを鉱山のカナリア代わりにしようとしてません!?」


 九郎から「レイアを宜しく頼む」と言われていた事を思い出し、冗談交じりにミスラが返す。

 戸惑う事ばかりではあるが、大勢の仲間と共に風呂に入ると言うイベント事に、ミスラの心も浮かれている。


(女湯には突っ込み要員が少な過ぎます! 偏りすぎですわ!)


 自身がボケ担当と男性陣に思われている事など、露と思っていないミスラは、「新たに加わった男性陣はどちらも突っ込み・・・・要員ですのに……」とファルアとガランガルンが耳にすれば、一瞬考えた後、即座に逃げ出しかねないセリフを呟き、レイアに目を向ける。


(お湯を怖がらなくなった今の内に……ホント、女性の事に関してはそつが無いと言いますか……)


 九郎の事を、ミスラは「普段は間の抜けているとこばかりを見せる自分の婚約者だが、こと女性に関してはかなり鋭い部分を持っている」と分析していた。


 全身が毒を持つに至ったレイアの心を少しでも日常に戻そうと、九郎も思案していたようだ。

 レイア自身が言うように、お湯に毒が染み出す可能性は十分にありえる。

 だが、大勢で風呂に入っていたのが日常だと知り、九郎はあえて危険なレイアも誘って『大勢での入浴』を企んだ。その理由の一つに、「女性陣にも『不死者』が数多くいる今だからこそ」というのもあったようだ。

 毒にすこぶる強い耐性を持つミスラやアルトリア。そして新たに『不死者』となったベルフラムであれば何かあった時に対応ができると考えたようだ。

 九郎は知らなかったようだが、アルトリアは黒の魔法の使い手であり、毒や菌などに対しても万全の対策が打てるので、この企画は見るまでも無く成功するだろう。


(どちらかと言うとアルトリアさんと言うのが正解でしょうか……)


 付き合いが長くなるにつれて忘れてしまいそうになるが、アルトリアも『吸収ドレイン』があるので、素肌を晒す入浴では気を使う。丁度どちらに対しても対応できるよう、九郎は自分に頼んで来たのだと気付き、ミスラは数多の女性を気遣う婚約者に小さく頬を膨らませた。


 誰とも分け隔てなく接するとは言え、九郎は『命』の弱った者に対して、格段に意識を割く。

 大勢の妻を娶る事に対しては、父親からしてそうなのだから、ミスラが思う事は無い。

 しかし、全く嫉妬しないかと言えばそうでは無い。

 ミスラは『吸血種ヴァンピール』と言う『不死者』であるから、その点から考えると割かれる意識は他に比べて自然と少なくなってしまう。

 

(まあ、殿方達はか弱い女性には弱い傾向があると聞きますが……)


 ミスラは無意識に小さく溜息を吐きだす。

 自分やアルトリアは『不死者』であるから、九郎はかなりの信頼を置いてくれている。

 ただそれは『死なない』故の信頼だ。

 手を煩わせる事も不本意だが、婚約者が他の女ばかりを見ている状況と言うのも、腹が立つ。乙女心と言う物は複雑である。


 心配してくれとは言わないが……ミスラは自分の中で小さな変化が起きている事を自覚しながらも、ぐっと拳を握りしめた。


(ぐっジョブですわ! クロウ様!)


 ミスラは複雑な乙女心は、女に対して真摯でありながらも、全く節操のない九郎に、喝采を送っていた。

 大きな風呂場は、ミスラにとっても望ましいものだった。


「ミスラさんっ! そっちは男湯ですっ!」


 龍二の仲間のユーリに止められ、ミスラは残念そうに眉を寄せる。

 壁の向こうでは男連中がくんずほぐれずしているかと思うと、自然と足が向かってしまう。


「姫様っ! はしたないのでどうかお止めください!」

「ミスラっ! 吾輩と入りたい気持ちは良く分かるが、それは親子だけの時にしようぞ!」

「姫様が予想されているような現場ではございませんので、どうか落ち着いて!」


 頓珍漢なセリフをのたまう父はともかく、従者二人の叫びには魂が籠っている。


(そう言いながらも、隠れて……それもまたアリですわっ!)


 後ろ髪を引かれながら、ミスラはニヤケ顔を止められない。

 腐った趣味を持つミスラにとって、壁一枚を隔てた向こうでは男達が犇めきあっていると思うだけで胸が一杯になってしまう。その中に意中の男性も混じっているのだから、欲望は留めなく溢れ、妄想は立ち込めた湯気をも飲み込む勢いだ。

 誰にとってもWIN WIN。ここまで考えてこの施設を思い立ったのだとしたら、九郎は思っていた以上に賢いのかも知れない。

 ミスラは九郎への評価を上方修正した。

 ――――無論九郎はそこまでは考えていない。


「ちょっと最初はこっち側借りるね~。二つ浴槽があって良かった~」

「あ、レイア大丈夫? 手を引いてあげるっ!」

「も、問題ありません、ベルフラム様っ! 一応朧気ながら見えておりますので……」


 覚束ない足取りで進むレイアを見て、ベルフラムが湯船から出てレイアの手を引く。レイアの強張っていた表情が少し緩む。


 レイアの目には綺麗な目が再生している。

 ただレイアの瞳に嵌った青い目は、失う前に比べて視力が弱っていた。

 神の使い『来訪者』の魔法であっても、全てを元通りと言う訳には行かなかったようだ。

 長年闇の中に囚われており、元から弱まっていた可能性もある。

 幼い少女に手を引かれ、恐る恐る脚を運ぶレイアを見ていると、ミスラの妄想に塗れた思考に冷たい水が差される。


(……っと。憐れむなと釘を刺されていました)


 一瞬顔を曇らせたミスラは、気持ちを切り替えようと数度頭を振る。

 今の面子――九郎の元に集った者の多くが、傷を抱えた者達だ。

 長年凌辱を受け続けていたレイアは勿論、今のミスラの従者二人も心に大きな傷がある。リオやフォルテにしてもそうだろうし、あのいつものほほんとしたアルトリアですら、時折寂しそうな表情を浮かべている。

 何不自由なく――と言うにはミスラもそれなりに闇を抱えているが、それでも彼女達と比べれば恵まれている。


(友達……いえ、わたくし達は姉妹になるのですもの……。暗い感情や憐みは不要ですわ。…………でも彼等・・は兄弟と言えるのでしょうか? 竿姉妹、穴兄弟と言いますが、彼等は突っ込む・・・・方……。となると、クロウ様も姉妹? それともわたくし達が兄弟?)


 ミスラは口元の涎を慌てて拭った。



☠ ☠ ☠



「なあ、ホンマ覗かへんからこれ取ってええ?」


 龍二が不安気に目元を指さし頼んで来る。

 九郎は眉を顰めて口を歪める。

俯瞰ビューワー』と言う能力がある以上、龍二の目隠しを取れば、露天風呂の壁など無いも同然である。


「別に良いじゃねえの? 見るだけで満足できるんだったらよ」

「オババのあんな枯れ木みてえなの見ても嬉しかねえ――いてっ! クロウ! 悪かった! いてえっ! つうか熱いっ!」

「ええぞぉ~コルル坊~! しっかり懲らしめといておくれ~」


 南国ミラデルフィア出身のファルアがあっけらかんと言って来る。

 恋人を悪く言われるのは腹が立つので、ガランガルンの言い種には制裁を加えておくが、一緒に旅していた彼等も何度か目にしていたことを示している。

 そこに腹を立てるのは狭量と言う物だろう。


 九郎もどちらかと言うと細かな所まで目くじらを立てる性格では無い。

 多少の肌の露出にまで難癖を付けていれば、それこそ海のほとりで生活など出来ないだろうし、冒険者稼業をしていた経験からも、男女のパーティを組んでいたのなら、裸の一つや二つ見てしまう状況があるのも分かっている。

 そこらじゅうを薄着で闊歩しているリオや、誰の目にも留まるアルトリアの大きな胸を見るなとも言えない。


 ただ恋人たちのあられもない裸体を隅々まで見られてしまうのは、九郎としても看過できない。

 九郎が難色を示していると、龍二が必死に弁解してくる。


「つーか、アニキがそう思うんもよー分かってるけどっ! 俺の生死にも係わるから絶対覗かへんて約束する!」

「……せいしに係わる? 当然だろうな……」

「意味が違う! そっちやない!」


 九郎の疑いの目に、龍二は必死に訴えてくる。


「そらこの力があってやらへん訳が無い。そう思うんは当然やろうけど……覗きで死にかけた事があっから……。アニキはもう関係無いかも知れへんけど、俺には禁忌タブーが残ってんねんで? 弱点しゃべりた無いけど、アレの恐ろしさはアニキも知ってるやろ?」


 龍二の言い分は至極納得出来るものだった。

 出場亀専用とも言える『神の力ギフト』を授かった、思春期の少年が覗きを企てない訳がない。

 だがその力は諸刃の剣どころか、喉元に突き付けられたナイフでしかなかった。


「ああ、それでオカズが限定されてたって事か……」

「アニキも覚えがあるみたいやな……」


『来訪者』にしか分からない地獄の苦しみを思い浮かべて、九郎も身につまされる。

 魅力的であられもない女性の裸を何度も目にしていたと言うのに、禁忌タブーが解除されるまで九郎がオカズにしていたのは人型のダイコンとも言える『マンドラゴラ』。

 龍二が二次元に拘っていたのも、趣味以上に選択肢が限られての事もあったようだ。


 アルバトーゼで生活していた時、九郎は必死に性欲を抑制していた。年端もいかない少女達に性欲を覚える事は無かったが、レイアに対して反応しないよう、トラウマを総動員させて自らを鎮めていた。

 ただ一度、一人になった時、発散させようにも出来なかったのは、思い浮かべたのがレイアだったから。

 意中の女性を思い浮かべて発散させようとすると、禁忌の所為で立たなくなる。

 逆にアルトリアの時の様に、近くに女性がいるときに性欲を覚えると、地獄の苦しみが襲ってくる。


 禁忌は相手がそれを望む望まないに拘らず、『来訪者』が性欲を覚えた時に発動していた。


「うん……取っていいぜ……」

「おおきに……」


 禁忌タブーが解かれて浮かれていたが、他人事では無い訴えを聞いて九郎はしょんぼり頷く。


「どちらかと言うとこちらを覗かれる事を心配した方が良いでしょうねぇ……」

「アルフォス! 貴方はわたくしの従者でしょう! 裏切るのですか!?」


 アルフォスが男女を隔てる壁に目をやり呟くと、上擦ったミスラの叱責が彼の言葉を肯定していた。


「ミスラちゃん、ボクも見たい~」

「お二人とも後ろから丸見えになってます! 流石にちょっと……どうかと……」

「クラヴィスさん、見逃してくださいっ! これはしっかりと目に焼き付けておかねばならない光景ですので……あ、アルトリアさんは自重してくださいましっ! ああ……胸が萎む……。お、お父様!? 無言で壁を高くするのはどうかと! せっかくクロウ様が隙間のある衝立を拵えてくださったと言うのに!?」


 明らかに女湯の方が騒がしい。そして会話の内容が修学旅行時の男子風呂を思い起こさせる。

 腐女子のミスラとエロの権化のアルトリアがいれば当然そうなるとも思えたが、会話の内容を聞いていると少ししょっぱい気分に陥って来る。

 裸の付き合いと言うのは良くも悪くも人の距離を縮める。

 思っていた以上に仲良くなっている様子の女湯の様子に、九郎は引きつった笑いを浮かべる。


「アニキはええやん……デキるようになったんやろ?」


 恨みがましそうな眼で見て来る龍二に、九郎は笑ってごまかす。

 最初に交渉をしていて良かったと心から思うが、龍二の言い分も尤もで、せっかく言い寄ってくれている女性がいると言うに手を出せない苦しみと言う物は、本当に他人事では済ませられない。

 自分は禁忌タブーが解かれて浮かれているが、龍二は一生誰とも通じ合えないと考えると余りに憐れに思えてしまう。


「お、お前も交渉すりゃ良いんじゃねえ?」


 思わず言った九郎の一言に、龍二が湯船に沈みながら口を尖らせた。

 言外に「どうやって?」と責める視線だったが、言った九郎はハタと手を打つ。


「そうだよ! お前も交渉すりゃ良いんだよ! あいつら『|神の指針クエストが進まねえから、そう言うの禁止!』って言ってたしよ? 俺のは『愛』を集めるって内容だったから、途中で解除してもらえるよう頼んだケド……お前も『|神の指針クエスト』を達成すりゃ、その禁忌タブーも解除してもらえるんじゃねえ?」


 何となく感じた後ろめたさを誤魔化すつもりで言った言葉だったが、思いの外説得力を持っていた。

 龍二の瞳にも希望を見たような光が灯る。


「そんな理由やったん?」

「ああ、俺はゴネにゴネたかんな! 理由から何までしっかり聞いてるつーの。てか、内容の確認は常識だろう?」

「いや……そん時は『異世界』っちゅう単語に浮かれてもーて……。それに俺には縁の無い事やと思ってたから……」


 これまで一度もモテ無かった龍二は、「強い者がモテる」厳しい世界に、強者として降り立った後の事を考えていなかったようだ。

 ワナワナと震えながら、眩しい者を見るような目つきで九郎を見つめる龍二。


「って……やっぱ覗いてんだろ! テメエっ!」


 後輩に道を示せたことに気を良くした九郎は、僅かに顔を赤らめた龍二に再び眉を吊り上げ拳を掲げる。


「ちゃうって! ちゃう、誤解やっ!」


 龍二は慌てて手を振りながら、必死に横に視線を送る。


「?」


 龍二の視線の先で、フォルテがキョトンとした表情を浮かべていた。


「お……おまっ……」

「ちゃうねん! ちゃうねんけどちゃうねん!」


 九郎が思わず龍二を二度見すると、龍二は良く分からない弁明を捲し立ててくる。

 思春期のヤリタイ盛りに抑圧された性欲は、このようになってしまうのかと、別の憐みの視線を向ける九郎の背中にも、冷たい汗は伝っている。


 禁忌タブーが解除されたからこそ、自分も道を違わずに済んだ――と思わず息が吐き出される程に、フォルテの放つ色気は強烈だった。


 湯船に体を沈め、潤んだ目で九郎を見つめるフォルテから立ち昇る色気は、ある意味女性よりも危なく感じる。

 褐色の肌をほんのり桜色に染めて、ホウっと息を吐きながら湯を楽しむ少女のような少年の色気。

 女性のようで女性で無い。そこには女形おやまに通じる禁断の果実が思い浮かぶ。

 ファルアやガランガルンですら、あまりフォルテを直視しようとしていない。

 アルフォス達は気にした様子が無いので、慣れの問題だと思いたい。


「別に? なあ、フォルテ?」

「ふぁっ……その……これが今朝言ってたご褒美ですか?」


 ただ九郎はもうフォルテとの付き合いも長く、現在性欲も解消されているので何も感じる事は無い。

 何の気は無しに肩を叩いて、喘ぎ声さえ出さないでいてくれれば、普通に接する事が出来る。


「アニキも顔赤なってるやん!」

「っげーよ! ちと湯あたりしただけだっつーの!」

「不死者が……ねえ?」

「つーか、正気に戻れって!」

「えっ!? ふぁっ……って何です?」


 どうやら性欲の問題だけでは無いらしい――龍二の何か言いたげな視線を避け、九郎はフォルテを湯船から引っこ抜く。


「お、オス……」


 龍二の口から押すだか雄だ判断つかない、短い絶望の声が漏れていた。


「な、なかなか立派な物をお持ちですな……」

「フォルテクン……いやフォルテさん?」

「え? なんでお二人ともいきなり敬語なんです?」


 あおりを喰らったファルアとガランガルンも、残酷な現実の前に素直に頭を垂れる。


「ちゃうねん! 今ちょっと寒ーて縮んでるだけやねん!」

「風呂ん中でおっきくしようとすんじゃねえっ!」


 龍二は混乱していた。

 気持ちは分からんでも無いと思いながらも、九郎はそう言う他無かった。


「よき……よき……」


 壁の向こうからミスラの荒い息遣いが聞こえて来ていた。

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