第285話  崩れる均衡


 雄一の双眸に映るのはあり得ない光景、ありえない状況。

 渾身の魔力を込めた一撃が、この世界の住人達に防がれるとは全く思ってもいなかった。

 自分を煽って来た空色の髪の女が憎らしい。渾身の魔法を防いだ胸の大きな女に苛立ちを覚える。そして自分を憐れむような視線を向けてくる、こっち側の筈の男・・・・・・・・が許せない。


「挽肉にしてやれやぁああ!」


 もはや全てを呪うかのような叫び声を上げて雄一は絶叫していた。

 どんどんと数を増やして来る九郎の仲間に、まるで自分のお株を奪われてしまったかに感じていた。自発的に集まって来る仲間と言う存在に、自分の人生そのものが否定されているかに感じていた。


「誰でも良いぃからぁよぅ……どいつでも良いからぐっちゃぐっちゃのドロドロにぃいぃ……」


 どれだけの配下を揃えようとも、全てが自分の意のままに動き続ける人形達。

 望むことだけを囁き、夢想した通りに動き続ける『支配下』。誉めそやし、持ち上げ、傅いてくるだけの存在しか周囲に置かなかった男は、嫉妬の炎に身を焦がす。

 好意など夢物語。信頼などただの欺瞞。友情や愛情など絵空事のまやかしでもなければ、どうして自分は得られなかったのか。


「ひき潰せ! 黙らせろ! 皆殺しにしろぉおお!」


 雄一は唾を撒き散らして声を荒げる。

 見っともなく喚き散らしていようとも、自分はこの場の支配者。鑑みる事などありえない。


「ではおせんべいと行きましょうかねぇ?」


 雄一の暗い憎悪に最初に反応したのは、今や皮だけとなった五十六だった。

 元から親和性が高かったのか、それとも絶望からの支配ではなかった為か。

 雄一の頭の中で想い描いた妄想を、即座に受け取り腕を振るう。

 狙うのは雄一が拘り続けていた少女、ベルフラム。

 |髭のカクランティウスが気付くよりも早く、虚空に瓦礫の腕を生みだし叩きつける。


「ベルっ!! デンテっ!!!」


 九郎の絶叫が大きく響く。

 もうもうと煙が立ち込める。

 一瞬の沈黙は雄一に一等の甘美な時間を齎す。


(逆転したって思っただろう~? ひひっ……そんなリア充ばっかの思い通りにさせるかよぉ)


 あの一瞬に広がった勝利を決定づけたかのような雰囲気。それを即座にぶち壊す快感。

 雄一は呆然と佇む九郎を眺め、涎を垂らす。

 九郎の内臓などではあの攻撃は受けきれまい。魔法攻撃には対応出来るのかも知れないが、質量を伴う攻撃に九郎は手を焼いていた。

 一瞬の注意が助けに駆けつけてきた仲間に向いたことで、移動する事すら出来なかった筈だ。


 静寂が謁見の間に広がり、その後続くのは九郎の悲しみの絶叫か、自分への憎悪の瞳か。ワクワクしながら、ペシャンコになった少女の死体を拝もうとした雄一の目が見開かれる。


 雄一は知らなかった。

 この命の奪い合いの戦場の中において、命だけを見続ける者がいると言うことを。

 消え行く命にその身を投げ出す事を厭わない、『不死者』が2人もいる事を――。


「くふっ……」


 苦しそうな女の声が土煙に紛れて響いていた。


「わりぃ……アルト……助かった……」


 九郎の声が蚊の鳴くような音で続く。


 煙の晴れた中から現れたのは、雄一が夢想した光景とは少し違っていた。

 上半身を失った女の下半身――抉られた傷口から黒い血を吐きだし続ける、これはこれで凄惨な死肉が、横たわりながらも、五十六の腕を蹴り上げる形で止まっていた。


 女の顔は衝撃で弾け飛んだのだろう。その顔面は砕け散っており、瓦礫の腕を受け止めようと伸ばされた手は、グシャグシャの萎びた雑草のように折れ曲がっていた。

 その顔の横には九郎のモノであろう引きちぎられた内臓が、これまた無残に潰された形で横たわっている。


 だが伸ばされたその手は、ねじ込まれた内臓は、ベルフラムを庇うように身を投げ出したデンテの頭上に、僅か数センチの隙間を生んでいた。


「ばっかじゃねえのぉ? しゃしゃってから死ぬことになんだよぉ!」


 雄一は信じられない物を目にして、声を荒げる。

 この時ばかりは雄一は、九郎よりも飛び込んできた女の方が憎らしかった。

 まるで線路に落ちた子供を庇う為に電車に飛び込む母親のような女の行動が信じられない。誰かの為に命を投げ出す。そんな行動を雄一は信じたくない。

 それこそ、操られてでも・・・・・・いない限り・・・・・ありえない・・・・・


「たった一秒そいつらの命が伸びただけじゃねえかっ! おつ~。無駄な抵抗おつ~! センセ、もう一回だ!」


 だから雄一は女の死を嘲笑う。

 五十六が離れた場所に物質を生みだせることが確認出来た今、九郎の行動は更に限定される。

 助けに来た仲間が次々倒される光景を目にして、九郎はどのような表情をするのか。

 夢想し妄想し無くなってしまった一物が滾る思いに雄一は身を震わせる。


「人使いが荒いですねぇ! でも私、子供をブツのは大好きで――?」


 五十六は雄一の妄想を受けて、指揮者のように腕を振るう素振りのをしようとして――動きを止めていた。

 離れた場所に生みだした、瓦礫で出来た手に罅が走っていた。


「駄目だよ……。女の子を……子供を殺そうとするなんてさ……」


 悲しそうな声が、砕けた顔の女の口から紡ぎだされる。

 虚空に浮いた瓦礫の腕に小さな穴が鳥肌のようにぽつぽつ開く。


「命は……ボク等にとっては眩しくて……焦がれるものだって分かってるよ……」


 赤い糸の様な物が女の体から湧き出す。その口から静かな怒りの声が響く。

 虚空に浮いた瓦礫の腕からは、肌色の何かが同じように湧きだし始める。

 女の体が見る見るうちに修復されていく。

 瓦礫の腕に開いた穴が黒を広げるように増えていき――。


 ざぁ…………


「でも……ボクの目の前で……女の子を……子供を殺すことだけは許さない!」


 胸の大きな女が五十六に怒りの視線を向けていた。

 先程浮かべていた柔和な笑みは吹き飛び、どこから取り出したのか、大きな鍬を構えて怒りを露わにした女の声が木霊すると、瓦礫の腕が何万匹ものミミズに変わる。


「ガキなんてのは、叩いて言う事をきかせれば良いのですよ!」

「限度って物を考えなよ!!」


 五十六が再び虚空に瓦礫を生みだす。

 女はそれに対して鍬を振り落す。

 その途端瓦礫から大量のミミズが湧く。


 信じられない光景、信じたくはない光景。

 雄一の望んだ光景はまたもや裏切られる形となっていた。


「なんなんだよ、お前はよぉ! しつけえのはアイツ一人で充分だろうがっ!!」


 雄一が再び苛立ちの叫び声を上げた。

 何故上手く物事が進まないのか。心の中に湧き上がる焦燥が雄一の身を焦がしていた。


☠ ☠ ☠


「だっ!? くそっ! やっぱ、苦手や! 夢見がちな、奴の相手は!」


 雄一の背後から襲い掛かった龍二は、アインスの剣を弾きながら弱音を吐く。

 龍二にとってはとんだ計算違いと言える。


 いきなり連れ出された戦闘の場に、龍二は素早く『詳解プロフィール』を発動させ、相手の実力を調べていた。戦闘自体は何度も経験しているし、九郎に負けた今でも、「この世界では強者である」と言う自信は失っていない。

 アインスの能力値は驚くほど高かったが、龍二に比べれば格下だった。

 小鳥遊 雄一と言う名の目の前の相手は、『来訪者』ではあったが、この場の中でほぼ唯一敵側の人間・・であり、思考を読む事が出来る筈の相手とも思っていた。

 しかし龍二の誤算は、雄一の思考が常に成功を元にした妄想であったこと。加えてアインスの行動と同調していることで、どちらの攻撃かが判別つかないことだった。


 アインスも何も考えていない訳では無い。

 僅かながらに何かを見ている思惑が読める。

 しかしそれが現実とは則していない。アインスが見ているのは嗤う雄一の姿であり、彼女の抱く恐怖そのもの。それが龍二を混乱させる。

俯瞰ビューワ―』があるので動きを捕える事は出来るが、雄一と思惑が混ざった状態であり、どう動こうとしているのかが読み辛くて仕方が無い。

 乱戦の様子を見せ始めているこの状況下で、『来訪者』クラスを2人相手はかなりキツイ。


「逃げた方が、良かったかもっ!」


 アインスの繰り出される攻撃を寸でで避ける龍二の口から、再び弱音が零れ出る。


「姫さんの思いなんか無視して、雑魚相手にしといたほうが、良かったわ! 何で俺が、こんな事で、命を張らなあかんねん!」


 敵側の中での実力者と思われる者、誰か一人を担当して欲しい。

 ミスラが伝えてきた思考に従った自分に対して、龍二は愚痴を吐き捨てる。

 危なくなれば即座に逃げを選んでしまうのは、生前から変わらない。

 いや酷くなっている自覚がある。

 なまじ相手の実力が可視化出来る為に、龍二は危ない橋を渡る事などしてこなかった。


 龍二は一足飛びで後方に下がり、逃げ道を探り始める。

 その時、龍二の横に大きな影が通り過ぎる。


「吾輩を忘れてもらっては困る! 幼子の影に隠れる等、大人として情けない! なあ、そう思わぬか?」


 ガインと大きな音を響かせ、アインスの剣を柄で受けたカクランティウスが大声を張り上げていた。

 その仕草はアインスの攻撃など眼中に無いと言わんばかり。

 まるで龍二を庇うかのように飛び出してきたカクランティウスに、龍二の心に葛藤が生まれる。


(見せつけんなや! かっこええのは顔だけにしとけつーの!)


 それは九郎にも感じた男としての生き様に対する憧れの気持ち。

 誰かを庇い立つ姿は、ひねた龍二の心に眩しく映る。

 弱者として虐められていた時に夢想した、自分を助けてくれる誰かの存在。

 ミスラの前では決して言葉に出来ない感情が、龍二が未だに九郎らと行動を共にしている理由だった。


「おっさん、しゃしゃて死んでも知らんでぇ!」

「ふん! 娘が見ている前で情けない姿など見せられるものか!」


 だから意図しない言葉が口から出てしまう。

 龍二の眉は顰められていながら、口は僅かに引き上がっていた。


☠ ☠ ☠


 戦場はもう混乱の極致を飛び越え、混沌としたものとなっていた。

 数の分では未だに雄一側が大きく有利。

 五十六が呼びだした『悪霊エディンム』はまだ多くが残っている。

 対して九郎側は7人。戦力にすら数えられない子供を除くと5人である。


 しかし、その戦況は刻一刻と雄一の不利に傾きはじめる。


「――『白の理』グレアモルの眷属にして、断罪を担う罪無き咎人。

 両手に持ちたるは縄を断ち切る赤錆びた斧。その身に纏いしは群衆の怨嗟。頭上に頂くは終月の18、2の鐘の音。位階は4。古より定められた時の理。理に叛きし者に恩赦の斧を! 『フルカ・ラブリュス・マグナ』!!」


 ミスラの儀式魔法が戦場全てを巻き込んで炸裂する。

 光のギロチンが謁見の間に降り注ぎ、『悪霊エディンム』を次々と滅ぼして行く。


「姫さん、アネサンいんのに無茶しすぎやっ! つーか親父さんまで喰ろてるやん!」

「あんっ……ミスラちゃん過激っ! ふふふふふふっ! あはははははははっ!」


 龍二が顔を顰めて喚き立てるが、腕を落とされたアルトリアは嬌声を上げながら気にもしていない。それどころかいつもよりも更に妖艶で淫靡な雰囲気を漂わせ、五十六の繰り出す腕を土くれに変えている。

 アルトリアが振り回しているのは、ミミズで出来た鍬。

 明らかに硬質そうな五十六の体は、鍬が打ち込まれる度にミミズが湧き出す腐葉土に成り果てる。

 湧き出したミミズは『悪霊エディンム』達に襲い掛かり、土くれで出来た体を食み始める。

 

「問題無いっ! が、後ろからいきなり刺されていると驚く! あと親心も少しは理解せよ!」

「あらっ……良い言い回し」


 白の魔法は人族には効果が薄くても、アンデッドと魔族に対しては想像以上に威力を発揮する。

 それを自分を巻き込んで・・・・・・・・発動させたミスラはもとより、カクランティウスも今や骨の姿である。

 しかし白いシャツを赤く染めたミスラも、髑髏でがなるカクランティウスも、動きに陰りは見られない。


 カクランティウスは雄一を相手に一歩も引かない奮戦を続けている。

 お付の妻の槍を躱し、雄一に攻め手を与えない。雄一が肉盾にしようと幼女を動かしていても、それすら読み切ったようにフェイントを織り交ぜ、戦斧ハルバードを自在に振り回す。


 ミスラの戦い方はもう滅茶苦茶と言っても良いぐらいだ。

 自分が傷付く事も厭わず、それどころか仲間が傷付くのも許容し、効果的な場所に効果的な攻撃をただひたすらに打ち込んで行く。


「ったく、けったくそ悪いやっちゃなぁっ!」


 その間を縫って龍二が剣を走らせる。

 戦場を俯瞰して見る事の出来る龍二ですら、頭が痛くなりそうな乱戦模様。

 しかし彼は能力的に空間把握に長けていた。


 赤い泥が数を減らす。

 十数倍の数の差が、徐々に埋められていく。


☠ ☠ ☠


 一度大きく傾き出した戦況は、まるで嵐の夜にひっくり返った船の如く、沈んで行く。


巨神兵ジャガノート』――神の兵士『竜牙兵ドラゴントゥース』を遥かに凌ぐ力と魔力を内包した『来訪者』のなれの果て。

 生まれたばかりの『災害級』の巨人は、一日も経たずに崩れ去る運命にあった。


「あははっ……」

「邪魔しないでもらいたいですねぇ……ほらっ、落ち着きなさいって。モンスターペアレントって言うんですか? センセ、嫌いだなぁ……てほらっ!」


 理不尽を絵にかいたような暴力性。アルトリアの性格からは考えられない破壊力。

 余裕を見せていた五十六の声にも、焦りが混じり始めていた。

 アンデッドに成り立ての五十六と違い、アルトリアは300年の月日を経て来たアンデッド。その戦い方は、何処を失えば動けなくなるのか。何処を失っても何が出来るかを熟知している。


「ちょっ! 待ちなさいって! まず話し合うのがっ!」

「あはっ! ボク硬いの大好きだけどぉ~……冷たいのは嫌いなんだぁ……。だって命って……温かいんだよぉ……知ってる?」


 彼女の戦い方は目を覆いたくなるもの。血肉が飛び散り、魅惑的な体が襤褸雑巾のように引き裂かれる。

 女性が傷つく様など見たくはない。好意を寄せる女性なら尚更だ。

 そんな九郎の思いを笑い飛ばすかのように、アルトリアは嬌声を上げながら鍬を振るう。

 アルトリアは怒りを持続させない。全てを受け入れようとしていた彼女は、九郎よりも悪行に対して寛容的だ。自ら犯されてでも叶えようとしていた願いの為か、九郎のように女性を辱めた相手の命をゴミと見るような事も無い。


 しかし五十六はアルトリアの逆鱗に触れてしまっていた。

 いつも平和的でマイペースなアルトリアが、唯一感情を露わにするのはエロに関してと、もう一つ。子供と女性の命に対して、アルトリアはどんな相手であっても立ちはだかる。


 彼女の殺意がそれを選ばせたのか、情欲に濡れた瞳を細めて、アルトリアが一歩踏み出す。それだけで周囲の『悪霊(エディンム)』が乾いて崩れる。

 アルトリアが踏みつけた足跡からは、新たな『悪霊(エディンム)』は生まれて来ない。


「まってっ……別に私が誰を殺そうとあなたには関係ないじゃないですか! 人の迷惑を考えて無いんですか!?」


 見上げるほど巨大だった五十六の体は、削り取られてボロボロに朽ち果て、腐葉土の匂いがする土砂と変わり果てていた。

 五十六の口からは自覚の希薄な弁明が零れ出る。人を人と見ていなかったから、そう言う言葉が出て来るのだろう。

 人格すら見ない目では、人の繋がりなど見えてこない。

 誰かが大切にしている命がある事など、全く思い至れない。

 テレビの向こうで人が死んでいようとも何も思わない。そういった希薄な感情が彼の場合、手の届く範囲まで及んでいた。


 弁解しながらも五十六は攻撃の手を緩めない。

 卑怯と言う感情すら彼は持ちえていない。言葉は薄っぺらく、何の意味も持っていない。


 虚空に生まれたドリル刃がアルトリアをズタズタに引き裂く。

 シャンデリアのように現れた巨大な釘が彼女の体に次々と突き刺さる。

 五十六はアルトリアの接近を止めようと、ただ必死に抵抗しているに過ぎない。


「あんっ……串刺し……ってえっちい響きだよね」


 アルトリアが嬌声を上げて身じろぎする。

 彼女の体を床に縫い止めていた巨大な釘が僅かに傾く。

 そしてそのまま彼女の体がヌルリと釘から抜け落ちる。

 体を自在に腐らせるアルトリアを縫い止める事など出来はしない。腐って溶けた肉は、泥と同じ。

 歩を止めないアルトリアは、五十六を見上げて優しく言いやる。


「大丈夫……新しい命として生まれておいで――」


 先程まで情欲に仄めいていた瞳は、優しい物に変わっていた。

 それはアルトリアの性格故の最後の慈悲。村人全員を殺した殺人鬼を父を持ち、己も何人もの人の命を奪って来た負い目があるのか、アルトリアは悪人の魂であろうとも救済しようとしていた。

『吸収(ドレイン)』を解放していたが、アルトリアは直接魂を吸い取ってはいなかった。踏みしめた大地の生命力は奪っていたが、それは新たな憑代を与えない為。

 力を解放しすぎると仲間の命も吸い取る危険があった事も理由にあるが、怨嗟の声を迸らせる悪霊達にも、次なる命は平等に与えられるべき。そう言う思考が働いていた。


「アニマ・メア・ラケルナ・インセクタ……」


アニマ・の子供達メア・ライベリ』を唱えようとアルトリアは、両手を掲げ詠唱を始める。負の魂を浄化し新たな命へと巡らす、黒い光が満ちはじめ――、


「ホク・アウテム~~~!!?」


 途中でアルトリアの詠唱が止まる。


「あ……ごめん……」


 一瞬固まったアルトリアは、目を見開き顔を赤らめた後、深い溜息と共に謝罪の言葉を口にしていた。


 桂 五十六の3度目の命は、呆気なく終わりを告げていた。

 安らかな死とは反対の、決して廻らぬ輪廻の外へと押し出される形となって。

 ――全てを吸い取られた負の命は、黄色い靄となって四散し消える。


 クタリとヘタれた五十六の皮袋から、黄色く濁り『魔死霊(ワイト)』化した『食肉蛭(エクリプスリーチ)』が、ワラワラと湧き出していた。

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