第223話  アルムのいと


「それはまことかっ!?」


 重厚な扉の奥、豪華では無く質実剛健と言える部屋の中、ルキフグテスの大声が響き渡っていた。

 場所はアルム公国首都ペテルの王城。ペテルセン城の執務室。

 暗闇を見通す目を持つ『魔族』の城の為、灯りは無く薄暗い中、思わず立ち上がった兄を見てミスラは静かに頷く。


「はい。西の隣国、ルクセンで王権失脚くーでたーが起こったようですわ。かの国を押さえていた情報が水泡に帰しました」


 ルキフグテスを正面に捕え、ミスラは淡々と事実を述べた。

 自国で生産した植物由来の紙に書き記された事柄を、只読み上げるだけで、室内の空気は一変していた。


「それは……確かなのだろうな?」

「私の力を以ってすれば……」


 無駄な足掻きと知りながらも、言わなければ落ち着かなかったのだろう。

 ルキフグテスの言葉に、ミスラは答えて顔を伏せる。長いまつげが貝のように閉じ、薄い青髪がはらりと頬を撫でた。


「……それでどうなりそうなのだ?」

「あと数日で『勇者』がこの国に入るようですわ」


 ぼかした言い方であっても、ミスラの答えが絶対だと知っているからだろう。

 ミスラの言葉にルキフグテスが青褪める。それだけミスラの掴む情報が正確な事を意味していた。


 情報を操る事でカクランティウスの不在時、国を維持してきたアルム公国は、それだけ情報を得る事に長けていた。それもこれもミスラが情報部を統括しているからに他ならない。


 表だってアルムを維持してきたのは長兄のルキフグテスだったが、その裏で暗躍していたのは王女のミスラだった。


「『神の力ギフト』ではなんと?」

「表向きは新政府の使者との話です。ですが、裏では陛下のお戻りの情報を確かめろとの指令が出ておりますわね……。今度のルクセンの新政府は中々有能な間諜をお持ちのようですこと……」


 その理由はミスラが持つ力が関係していた。

 ミスラの母である扇 三葉。『来訪者』であった彼女が持っていた『神の力ギフト』がミスラに発現していなければ、今のアルムは無かっただろう。

 全ての書物を覗ける力――ミスラが『エツランシャ』の能力を得た事で、アルムはカクランティウスと言う絶対の武力を欠いたままでも生き延びる事が出来ていた。

 『エツランシャ』の力があれば、各国の情報を得るのは容易い。表に出ている物だけでなく、裏で取引された後ろ暗いやりとりも全て見通してしまえる。

 漫画という異世界の文化を使って周辺国の魔族との軋轢を緩めるのと同時に、アルムは各国の為政者達の表に出せない情報を握り、脅迫や懐柔をしかけて戦争を回避していた。


「だが……」

「ええ、ルクセンが『勇者』を使者に出すと言う事は、暗殺指令ももうすぐ出されるでしょう。最低でもわたくしとルキ兄様はその対象になるかと……」


 ルキフグテスの言葉を先んじて、ミスラは淡々と続ける。

 城内では重鎮しか知らない事実ではあるが、周辺国家を脅迫しながら生き延びてきたアルム公国。暗殺者というものは常日頃から盛んに送られてきている存在だった。


 表に出せない情報を握られている為政者にとって、自分達の急所を握るアルムの王族達は目の上のたんこぶだ。表立って責められない内容だけに、裏から抹消しようと思うのも予想の範囲内である。


 だが『エツランシャ』の力を持つミスラの前では、暗殺者など数人だけの兵士と変わらない。指令書や報告書を辿れば潜んでいても丸裸にしてしまえる。そうやって送り込まれてきた暗殺者を、逆に利用し翻弄して来た歴史があるだけに、『暗殺』との言葉には誰も驚きはしなかった。


 しかし普段なら誰も驚かなかったその言葉も、『勇者』とセットであれば話が変わってくる。

『エツランシャ』の能力を以ってしても、抗いきれない弱点。それが『勇者』と言う名の『来訪者』。強大な力を持ち、一人で万の軍勢とやり合えると噂される、抜きん出た個の武力だった。

『魔族』と言う人族よりも優れた能力を持つ種族であっても敵わない、数多の猛者とも相対できる一人の強者の存在に、今のアルムはなすすべがなかった。


 『勇者』すなわち『来訪者』の存在は、アルムが総力を上げて調べあげる第一位の重要項目だった。

 抜きん出た神に力を有する『勇者』の存在には、アルムは常に目を光らせていた。何せ一人の『勇者』の存在で、国を揺るがす大事件が起きているのだ。血眼になるのも無理は無い。

 また、『エツランシャ』の力があれば、『勇者』を見つけることはそれ程難しくは無い。

 強すぎる個の力は、隠していても噂になる。人の噂に登れば為政者達は動き、確かめようとする。


 ――近しい者には繁栄を。敵対するものには没落を――


 伝説にまで謳われる『来訪者』の存在は、各国が喉から手が出るほど欲しい人材だ。

 為政者や権力者達の指令書には常にどこかで『勇者』や『来訪者』の文字が躍っていた。

 もちろんアルムもその例に漏れない。ミツハと言う、『来訪者』を迎えられたからこそ、今のアルムがあると言っても過言では無い。『勇者』の名を聞けば、密かに間諜を送り込み接触を図る事も多々あった。


 しかし、『エツランシャ』の能力は記されている文字しか覗けないという性質上、どうしても後手に回ってしまう。噂に登り、記述に記される頃には誰かの息がかかっていた。攻めてくる者に対しては無類の強さを誇るミスラの『神の力ギフト』も、『勇者』の獲得には適していなかった。


「堂々と暗殺者を差し向けられても、今のアルムでは手の打ちようが無い……」


 ルキフグテスが苦み走った顔で呟く。


 いくら魔族が他の種族よりも強くても、アルムはまだ小さい国であり、戦争を仕掛ける国力は無い。

 度重なる戦火を越えて、多くの仲間の屍の上に出来た『虐げられていた者達の国』。

 そしてそれを辛うじて繋ぎ止めていたのは、『魔王』カクランティウスを筆頭とした数人の猛者達だった。武力を担当している者が一人欠けるだけでも、国力の低下は免れない。

 またまだ小さい国であるアルム公国で王族が倒れてしまえば、途端に瓦解する事は目に見えていた。


 送られてくる『暗殺者ゆうしゃ』が、使者という名を借りていれば、表立って拒否する事も出来ない。

 小国であるアルムはそれだけ気を使って周辺国家と渡り合ってきた。

 ただでさえ疎まれている『魔族』の国。国家の使者の拒絶は、それだけで相手に大義名分を与える事になってしまう。新政府が出来たばかりでは、痛む腹が明るみになったとしても対抗勢力が存在していない。

 退路は断たれたも同然だった。


「父上……陛下を呼び戻すのは……得策では無いだろうな……」

「ええ……。お父様は全盛期の力でも『勇者』と相討ち……。今の状態では……」


 これまでアルム公国を支えて来た、カクランティウスと言う『絶対に倒れない魔王』。『勇者』と互角の戦いを繰り広げられる、アルム公国の武力の象徴。

 だがその頼みのカクランティウスが瀕死であることは、ここにいる重鎮全てが目にしてしまっている。

 国を支えてきた武力が、今回は期待できないとルキフグテスは顔を歪める。

 それでなくてもカクランティウスは父親である。例えこの場にいたとしても、瀕死の父に戦ってくれとは言い出せなかっただろう。


「母上達も共に行かれたのが残念ですね……」


 日頃ルキフグテスの補佐をしている次男のベガーティスが呻く。

 現在のアルムの武力のトップは王と王妃達の3人だ。


 ルキフグテスの母でもある第一王妃のリスティアーナ。周辺国家から『金羊の魔女』と恐れられている、この国の第二位の実力者だ。

 彼女の種族『鬼族オーグル』は、本来であれば魔族の中では一番魔力が少なく、その代わり力が他より秀でている種族なのだが、どう言う訳か、彼女は力は人並みの力しか持たずに生まれて来たと言う。

 魔力も乏しく、落ちこぼれの弱者であり、貴族の子女でなければ生き残るのも難しかっただろう。力の代わりに彼女が持っていたのは、少量の氷を任意の場所に発生させる力のみだった。


 だが、カクランティウスがミスラの母、ミツハを迎えた後、リスティアーナは覚醒した。

 ミツハにより、落雷の原理が知らされたからだ。

 リスティアーナは小さな氷しか生みだせなかったが、その氷の強度は高く、また何十年も残り続けた。加えて、発生させた氷を任意に操る事も出来たのだ。

 今やこの国の上空は、彼女の生みだした氷の粒が無数に散りばめられている。屋内であれば彼女は恐れるに足りないが、屋外であればほぼ敵なし。紫電の雨を降らせる彼女は広域殲滅の兵器とも言えた。


 またベガーティスの母、第二王妃のヘカーテも強者と呼ぶのに申し分ない。

 彼女は魔力に優れた『蛇頭種メディム』と呼ばれる魔族でありながら、魔法が一切使えない。だがその代わり、魔力の全てを膂力に変える力を持っていた。その一撃は重く、この城で彼女の一撃を受けて生きていられる物は、カクランティウスしかいないと噂されるほどである。攻撃的な性格も相まって、アルムが国として立つ前から、カクランティウスと戦場を駆け抜けていた女傑であった。


 自国のトップの武力が不在なまま、一騎当千以上の個人と相対するのは……と不安を募らせたベガーティスに、ミスラは慰めにならない否定の言葉を口にする。


「お母様方がおられても、余り変わりはありませんわ。何故ならお母様方は『不死』ではありませんもの。お父様があれ程の深手を負わされる『勇者』の一撃に耐えられるとは思えません」

「そう……だな……。なら私が覚悟を決めておくか」


 ミスラの言葉にルキフグテスが、苦しげに呻いて顔を上げた。

 簡単に言っているが、それは死と同義の言葉だった。『吸血鬼ヴァンピール』と言う『不死系魔族』の父でさえ瀕死に追い込まれた力に、ルキフグテスと言う『不死系魔族』でない者が相対すれば、命など無くなったも同然だろう。

 王族としてそれなり以上の実力を持つルキフグテスだが、魔族の血は母親から強く受け継ぐ。

 そしてルキフグテスは母親のように特殊な力は持ってはおらず、人並み外れた膂力を持つだけの『鬼族オーグル』だ。ルキフグテスも自分の力が足りない事を自覚しているからこそ、血のにじむような努力を続け、この国の内政を取り仕切る知恵者として周囲に自分を認めさせていたのだが……。

 しかし戦闘に関しては、魔王と互角の戦いが出来る『勇者』と戦うにはあまりに頼り無い。


「兄上……私も共に……」

「それはならぬ。ベガ……。王族の血は絶やしてはならぬ。ミスラがいるとは言え、嫡男が全て途絶えてしまえば人心が揺らいでしまう。まあ、私はもう結婚もしているし、子供も生まれている。お前も結婚して子供がいれば付きあってもらっても良かったのだがな?」


 ベガーティスの言葉に、ルキフグテスは兄らしい微笑みを浮かべて、肩を竦めた。

 武力と言う点では長男のルキフグテスよりも、二男のベガーティスの方が優れていると言えるだろう。

 『蛇頭族メディム』は魔族の中でも力の強い種族であり、彼の風の魔法もかなりのものだ。

 だがルキフグテスの言った通り、ベガーティスはまだ結婚していなかった。母の血を絶やすことはするなと、悔しそうにしている弟の肩を叩く兄。


「若様……。爺やもお供しますぞ」

「ならぬ! 何故私が覚悟を決めたと思っているのだ? 私がこの中で一番弱いからだろう! 今のアルムにそなたらを失う余裕などない!」

「ですがっ!」


 王族の覚悟を見せつける一場面に、他の重鎮たちが涙を流している。

 ことここにいたっては「誰が犠牲になるのか」が問われており、無傷で逃れる術は無いと誰もが考えていた。

 国を上げて勇者に戦いを挑むと言う選択肢も無い訳では無い。だがそれを誰も口にしないのは、アルムがまだ小さい国だからだろう。多くの民衆の命と引き換えにしても、勇者を退けられる保証は無い。ならば最小限の犠牲でと考えるのが、今のアルムだった。


 ただ一人を除いて――。


「お兄様方もらしくありませんこと……。どんな苦難も権謀術数を巡らせ生き延びてきたのがアルムではありませんか。巡らす糸は数多く、持てる手は余すことなく使い切る。そうやって我が国はお父様の不在を乗り越えて来たではありませんか。まだ犠牲者を数えるのは早いと思いますわよ? お兄様もそれを見越して彼に仕事を振ったのでは?」


 ミスラは可愛らしく小首を傾げ、一枚の紙を掲げてみせる。

 一斉に注目の集まる中、ミスラの目が薄く細まる。無垢で無邪気な微笑みは、一瞬で小悪魔めいた笑みへと変わっていた。


 掲げた紙には、一人の青年の似顔絵と、それに連なる特徴が書き記されていた。

 迷子――捜しています。

 見つけたらミラデルフィア素材屋『銀の小枝』店員、シャルルまで。報酬金貨20枚。

 特徴――ひょろ長い黒髪の人族の男。年齢20歳くらい。

 二つ名――『命知らずデアデビル』『コルルゥ』『孔雀』『鴨』『裸族ネイキッド』『変質者』

 ――そして『不死者ノスフェラトウ』。



☠ ☠ ☠



「報告を……」

「……はっ!」


 暗い森の夜道を一人で歩いていたミスラが、闇に向かって声をかける。

 その小さな声に呼応して、物音一つしなかった暗闇の中から、赤茶色の髪の青年が突然姿を現していた。


「監視の者によると、クロウ殿は間違い無く『不死者』である……と……。マンドラゴラの悲鳴に何の痛痒も感じさせず、カブを抜くように収穫していたとの事です」

「そう……。やっぱり……」


 兄ルキフグテスが九郎を『不死者』と睨んでいたのと同じく、ミスラも九郎を監視していた。


『来訪者』の存在がこの国のアキレス腱であることは、重鎮達の誰もが承知している。

 例え余り噂に登らなかったにしても、ハーブス大陸最大の国家アプサルで、『来訪者』である青の英雄を倒したとの記録。その後国が指名手配して行方を追っている事からも、クロウと言う名は調べるに値していた。

 また多くの土地を行き来できる凄腕の冒険者が探していて、更に信じられない量の二つ名が付いていた事からも、ある程度目星は付けていたのだ。


「人族でありながら『不死者』……。クロウ様は『来訪者』だと思います? クルッツェ」

「アンデッドでは無いのは確かです。ただ陛下と同様『吸血鬼ヴァンピール』の可能性も……」


 アンデッドでないけど『不死者』というのも変な言葉ね……と思いながらミスラは首を傾げた。

 生きている『不死者』は限られている。特異な生態を持つ見た目が『不死者』の可能性は捨てきれないと、ミスラの従者クルッツェと呼ばれた男は考えているようだ。しかし、


「ですがマンドラゴラの悲鳴はお父様ですら被害を受けると聞いております。あの悲鳴には体内の魔力を傷付ける効果があると……。わたくしだって……ほら……」


吸血鬼ヴァンピール』と言う魔力が形を成した種族と言えど、直接魔力を攻撃してくるマンドラゴラの悲鳴にはダメージをうけてしまう。ミスラは己の経験も合わせて、その言葉を否定する。

 少し顔が熱を持つのは、その仕出かした醜態を思い出したからだ。

 クルッツェは微妙な顔で「ああ……」と呟き口の端を歪める。この男はカクランティウスの代からペテルセン家に仕えている従者だけに、ミスラの幼少時代の失態も知っているのだ。


「陛下なら知っておられたでしょうに……なぜ伏せられたのでしょう?」

「そういうところはお甘いのでしょうね……。お母様の事を気に病んでいたのかしら?」


 カクランティウスが、何を考え九郎の素性を隠していたのか。父の思いを感じ取り、ミスラは目を伏せる。

 『来訪者』と言う存在は、それだけで人を惹きつける。それは彼らが『神のギフト』持つだけでなく、彼らが有している『加護』の力もあるからだ。

 近しいものになればそれだけ繁栄できるとなれば、誰であっても惹かれるだろう。

 だからこそカクランティウスは、恩人がそう言った欲に翻弄されることを嫌ったのだろう。

 それは王としては甘い考えとも思えたが、『来訪者』ゆえに国家に囚われた母を持つミスラからしてみれば、分からなくもない考えだった。


「もう一度情報を洗ってみる必要がありそうですわね……」


 しかし今は非常事態。父の矜持に付きあっている余裕は無い。


「聞いて見てはよろしいのでは?」


 その時、クルッツェが呆れたように肩を竦めて空を指した。

 大きな紫色の満月に、時折影が過っていた。数日前から従者に取り立てた二人の『有翼族ハルピュイア』が、ミスラが城から出たのを見つけて警護に出て来たのだろう。


(甲斐甲斐しいこと……。もう奴隷ではありませんのに……)


 その仕事ぶりに少し驚きを感じつつ、ミスラも空を見詰める。

 アルフォスとベーテ。カクランティウスと共にこの国へと入った二人の『魔族』の素性は既に洗ってある。滅びた大陸中部に一つ残った街、バッグダルシアで官僚のような仕事に就いていた『来訪者』の元奴隷達。


「姫様の悪い癖です。書物の中だけが情報ではありませんよ?」

「そ、そんな事は分かっておりますわ! もうっ! あまり意地悪すると……」


 人の秘密の裏側まで覗けるミスラにとっていは、文字にされていない情報を読み取るのは苦手だった。ミスラは痛いところを突かれて思わず声を荒げる。

 その声に夜空に浮かぶ二つの影が、にわかに大きくなっていた。ミスラが一人で声を荒げていると、心配に思ったのかも知れない。


「人は嘘を吐くものよ? 誰も心の中までは見通せない……」

「姫様の頭の中だけは覗きたくありませんねぇ……。っと、それでは私はこれで」


 クルッツェのセリフにミスラは眼を細め、彼は逃げるように姿を消す。

 音も無く霧のように掻き消えたクルッツェに代わり、二体の影が傍に降り立つ。


「姫様! お一人で大声を出されてどうなされたのですか?」

「敵でしょうか? 暗殺者がこの国には多く潜んでいると聞いております! お気をつけください!」


 長い棒状の武器を持った二人の青年が、口々に無事を確かめて来ていた。


(一人でも無いし、ただの暗殺者であればわたくしも戦えますのに……)


 喉の先まで出かかった言葉を、ミスラは思惑を含んで飲み込む。

 この二人を引き抜いたのは、能力の適正もあるがもっと別の思惑もある。本当はもう2人の方が欲しかったのだが、それは都合上言い出せない。

 折角手に入れた適正値の高そうな二人の従者を見比べ、それはさておきとミスラは可愛らしく口元を隠し、


「あなた達がいる事が分かっておりましたので、心配しておりませんわ。それより――」


 九郎の素性を二人に尋ねる。

 本来であればじっくり文字を追ってその整合性を突き詰めていく方が性に合ってはいるが、もうあまり時間は残されてはいない。父親の矜持も曲げるのだから、苦手だからとも言っていられない。


 二人の従者は驚くほど滑らかに答えてくれた。

 人の口は嘘を吐くから――と言葉を濁したミスラであっても、嘘では無いと思える表情で。


 ただ――内容はとても信じられる物では無かった……。

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