第198話  奪う者施す者


「まず最初に言っておくわ。私達の全てを信用しては駄目よ」

「はあ……」


 静かに語り出すかと思われたラムスは、九郎に最初にそう言って来た。

 これから腹を割って話してくれるのかと思っていた九郎は肩透かしを食らって間抜け面を晒す。


「それはこれから話すシオリお嬢様の『神の力ギフト』に関係しているからなの」


 そんな九郎に薄く目を細めながらラムスは真剣に九郎を見つめる。

 シオリの『神の力ギフト』。その言葉が出た事で九郎も姿勢を正し、真剣な瞳をラムスに向ける。


「彼女の……シオリお嬢様の『神の力ギフト』の名は『サンダツシャ』。そう言っていたわ……」


 ラムスは少し遠くを見るような目で噛みしめるように語り出した。


☠ ☠ ☠


 ラムスがシオリと出会ったのはもう40年も前のことらしい。

 当時地方領主の牧童の仕事に就いていたラムスは、草原の中に倒れていたシオリを発見したのが二人の出会いだった。


 九郎の予想通り、シオリはバブル期と呼ばれる時代の人間だったようだ。その当時のシオリは27歳。

 計算すると今は67歳と言う事になる。思っていた以上に高齢だった事に、ラムスの話を聞きながらも九郎は内心苦笑いを浮かべる。


 そしてラムスと出会った当初のシオリは、これも九郎が可能性を考えていた通り、今の姿とは似ても似つかぬ姿だったとの事だ。

 黒髪黒目はこの地方ではそこまで珍しい特徴では無く、また顔も良く言っても平凡、悪く言えば地味と言った風貌だったようだ。

 

 出会った当初のシオリは多少暗いといった性格だったが、今ほど悪辣な訳では無かったらしい。

 森林族のラムスからすれば27歳のシオリは幼子と同然。右も左も分からないシオリを憐れに思い面倒を見始めたラムスだったが、それから程なくして徐々に彼女の姿が代わり始めたのだと言う。


「彼女は色々な人から色々モノを奪っていたの……。そのことに気が付いたのは結構時間が掛かったわ……」


 ラムスが最初に九郎に言った言葉の理由。それはシオリから『簒奪』された者は何を奪われたのか・・・・・・・・分からない・・・・・からだった。

 だからラムスも当初自分の髪の艶が無くなっていたりしても全く気付く事が出来なかったのだと言う。


 だが自分の事は気が付かなくても、共に暮らしているシオリの姿が代わって行く事には気が付く。

 最初は目が少し大きくなったような……肌が少し綺麗になったような……と言った些細な変化でしか無かったが、流石に髪の色が全く違っていればおかしいと思う。


 そして牧童の仲間だった少女の自慢の金髪がくすんだ黄土色に変わっていれば、どうしたってシオリを怪しいと思ってしまう。


「私がシオリが何かしていると気が付いた時……シオリは当時のご領主様の『地位』を奪っていたわ……」


 その言葉を口にしたラムスは一瞬目を伏せて言葉を切る。


「良い領主様だったわ……。森林族の私が不自由なく暮らしていられたのだから……」


 再び顔を上げて懐かしい思い出を語るラムスは、悔しさを滲ませ唇を噛みしめていた。

 神から与えられた力、『サンダツシャ』を使い領主となったシオリだったが、為政者でもなんでもなかった一般人がいきなり政治が出来る筈も無い。それでも最初はシオリの世界の玩具やファッション。料理などの文化を売り出し領地を傾かせるほどの失態はしていなかった。


「クロウ? あなたこの街が昔……草原の丘に建っていたって言ったら信じる?」

「いや、一応聞いてたっすケド……」


 ラムスが寂しそうな表情で問いかけ、九郎がそれに答える。

 この街が草原の街だと言っていたのはカクランティウスだ。彼が氷の中に封じられる前、50年前はこの地は緑あふれる草原の街だと言っていた。


 それが目指してみれば緑は欠片も無く、シオリの屋敷の敷地以外は砂しかない砂漠に変わっていた。


「彼女が変えてしまったの……。緑あふれる草原を……木漏れ日の差す森を……命の流れる川を……」


 何故そんな事をする必要があったのか。そこに疑問を持った九郎が訝しんだ表情を浮かべると、ラムスは小さな溜息をついてそれに答えた。


「彼女はね……よく知りもしないのに……土を触った事など無いとまで言っていたのに……農業改革と称して様々な事をしようとしたの……」


 話しを聞くに、シオリがしようと考えていたのは所謂『輪作』と呼ばれる類の事らしかった。

 九郎の記憶の中にもある、異世界に迷い込んだ主人公が農業に手をいれる際にまず最初に思いつくであろう少し進んだ農法。

 しかしそれはこの世界に於いては悪手だったようだ。


 シオリのいた世界、地球では上手くいっていたのかも知れないが、ここは別の世界。『魔力』という訳のわからない概念がある異世界だ。世界が違えば理が違う。特に農地が荒れ始めた時、シオリが撒いた肥料がこれまたこの世界の理と相反していたらしい。魔力の循環で成り立っていたアクゼリートで、肥料……所謂『負』の魔力をばら撒く事は農業にとって全くの逆効果だった。

 発酵させた肥料であれば『生』の魔力が働きその限りでは無かったのかも知れないが、シオリの農業に関する知識が殆んど無かった事も農地の荒廃に拍車をかけた。

 畑に動物の死体をばら撒き、害虫が湧けば消毒と称して塩を蒔くような杜撰な手法を次々と取ったと言う。

 シオリの出す案は尽く素人の思い付きであり、土と共に生きる農業とは相いれるものでは無かった。


 しかし農地が荒れたのはたったの一年の間だけ。

 間違ったやり方、そぐわない農法を続けていても、バッグダルシア領では豊作がずっと続いていた。

 だからこそ農民たちはシオリを『賢者』だと誉めそやし、多くの人々からよき領主と呼ばれていた。


 その陰で他領の領地が荒れ果て、砂漠と変わってきている事には誰も気が付かなかった。


「おかしいと気付いた時にはもう既に遅かった……」


 バッグダルシアを除き周りの土地は尽く荒れ果て砂漠に変りつつあった。

 シオリが他領から何か……今分かっている限りの事を言うのであれば『魔力』や『収穫』、『気候』など様々なモノを奪っていたのだ。


 この世界の『魔力』は循環している。生命が手を繋ぎ繁栄を続けている所に、シオリは無理やり手を突っ込んで奪って行った形になった。

 そして奪った先、バッグダルシアでは命を殺す農法を続け、奪った『繁栄』を消費し続ける。

 生み出すことの無い、消費し続けるだけの土地で無理やりに『繁栄』を装っていればどうなるのかは自明の理だ。

 周りの土地から全てを奪い、やがて奪うものが無くなり――砂漠の中の街がただ一つ残った。


「でも……こうなる前までは本当に繁栄しているように見えていたのよ……」


 奪ったもので補てんされた見せかけの繁栄だったが、シオリは有頂天になっていたと言う。

 自分の能力を過信し、欲しいものが全て無償で手に入ると。


 元は暗く大人しい性格だったようだが、次第に傲慢で我儘な性格に変って行った。

 富も湯水のように使った。奪えばどこからでも手に入るのだから、節約や倹約の心など育ちようが無い。

 

「シオリはやがて美貌を……これは最初から奪っていたのだと思うのだけれど……、他にも……威厳を、知識を……人間性を奪う事までしはじめたわ……」


 シオリがいくら強大な力を持っていても、そこから滲み出る小市民の匂いは変わらなかった。

 しかしシオリは人より承認欲求が強かった。奪った美貌を誉めそやされるだけでは満足できず、自分より威厳のある者から威厳を奪い、老若男女構わず魅力を奪い、少しでも優れていると思う者から優れているものを奪って行った。


 そして出来上がったのは愚者ばかりの集まり。

 優れている部分を尽くシオリに奪われたバッグダルシア領の貴族、騎士、その他様々な役割を担っていた役人たちは皆痴呆といえそうな愚者となった。


「ここからは憶測も入って来るわ……。だけどあなたが尋ねた問いに少しの希望をもたらすと思うの……」


 暫くの間、馬鹿ばかりの領地で称賛を浴び続けていたシオリだったが、馬鹿だけで領地経営が回る訳が無い。もうその時には他領から奪える者は尽く奪っており、略奪品だけで暮らしていける時期をとっくに過ぎていた。

 仕方なくシオリは奪ったモノを数人に返した様子があったと言う。

 それまで枯れた古木のようにしな垂れていた当時の大臣。シオリに知性を奪われ、見たままの痴呆老人と化していたバッグダルシアの古参の数人が元に戻っていたのだとラムスは言う。


「じゃあ……フォルテも元に戻るかも知れねえのかっ!?」


 暴れるフォルテを無理やり抱え込んで、ラムスの話を黙って聞いていたリオが口を挟んだ。

 一時は死すら選ぼうとしたその目に強い光が戻っている。


「そうね……可能性はあるわ……。私は元から頭が良かった訳では無いから……記憶は奪われていないと思う……」


 リオの縋るような強い視線にラムスは視線を落とし自信無さ気に答えた。

 何を奪われているのか分からないから、どうしたってあやふやな返答しか出来ないとでも言いたそうだ。


「でも……本当に返していたのかどうか……。確信出来るほど時間が無かった……」


 大臣達には愚者となっている間の記憶が残っていたようだ。

 そこで気が付くのはシオリの異能。そして自分達が何をされていたのかと言う事だ。

 気が付いてみれば周りは痴呆ばかり。そして自分もその中にいたこと・・・・・・を自覚した時、大臣達が感じたのは恐怖と嫌悪だった。

『賢者』と呼ばれていた新しい領主が、実は全てを奪っていく『簒奪者』だと気付いてしまった。


「それからね……。この屋敷の全ての者がこの首輪を付ける事を強要され、シオリが街の人々の7割を奴隷に変えたのは……」


 愚者から元に戻った大臣達はなんとかしてシオリを排除しようとしたようだった。

 しかしシオリは『来訪者』。雄一と同じくシオリも考えられない量の『魔力』を内包していた。それが奪ったものか、元からあったものかは分からないが、シオリも『魔法』を使う事が出来ていた。

 シオリを排除しようとしたであろう大臣達はそう時間を待たずに細切れの死体となって転がる事になった。


「『あなたたちもこうなりたくなかったらこれを付けて服従を誓いなさい』……大臣達の死体の前で彼女は言ったわ……」


 シオリは人から何かを奪う事を躊躇わなかったが、一つだけ……人の命を奪う事はしてこなかった。

 奪われたものが何を奪われたのか分からないのであれば、それは最初から無かったことになる。

 だからこそバッグダルシア領内でシオリを恨む者などいなかった。

 

 しかし初めて、手駒と思っていた大臣達に殺意を向けられ、シオリは人の殺意に怯えた。それまで褒められ、持ち上げられるだけだった異世界生活に於いて、神の如くあがめられていた自分に敵意を持つ者達がいる事を知ってしまった。

 だからこそシオリは奴隷と言う、どうあがいても主に逆らえない存在に他者を貶める事で身の安全を測ろうとした。


「だからって人を家畜扱い……」


 シオリが他者を信じられなくなって奴隷しか傍に置かなくなった理由は分かった。

 ただ何年も共に過ごしてきた人々、仲間達をいきなり奴隷にしてしまうのはいくら何でもやり過ぎだと思う。それどころか、人を人と思わない、家畜としてあまつさえ食べさせようと考えるのは同じ日本人として信じられない。


 ラムスはそんな九郎に首を傾げて自嘲の笑みを浮かべた。


「あなたは知らなかったのかしら? 奴隷とはもともと人の形をした家畜よ? 肉を取るのには不向きだから余所では食用にされていないだけ……」

「だったらなんで!? つーか姿は!? 人間性を奪われちまってもこう・・はならねえだろ!?」


 奴隷局員の言葉の節々から一般人が奴隷をどう見ているのかは何となく分かっていた。

 しかし本当に家畜……人間性を奪う所業には納得が出来ない。元から食人の風習でもあったら別だが、そうではないだろう。なにより忌避感を誤魔化す為に、人を人で無くしてしまうその上辺だけの取り繕いが、更に悲惨な結果を招いてしまっている。


「彼女はあれでも自分自身に慈悲があると思っているのよ?」


 ラムスの表情は人を食べると言う事に対して、決して良いものとは思っている風では無かった。

 だがどこか「仕方ない」とでも言いたげな哀愁が漂っていた。


「この屋敷の敷地内だけでバッグダルシアの食料の殆んどを賄っている……。彼女は街に食料を施していると言っても過言では無いわ。でもこの土地の魔力はもう殆んど残っていない。そんな場所で畜産……豚や牛を育てる事は出来ない。草木を……『生』の魔力を食べる動物を育てる事は出来ないのよ……」

「人は違うってのかよ!? こいつらだって食べなきゃすぐ死んじまうだろうっ!?」


 言い訳のように放たれたラムスの言葉に九郎は思わず叫ぶ。

 牛が大量の草を食べるからとの理由で育てられないのは理解できる。しかし豚は雑食だ。肉でも何でも食べる。それこそここで行われているように豚を豚に食べさせると言う所業を行えば、同じように育てられるのではないか。それも良いとは思えないが、少なくとも家畜とした人に人の死体を食べさせて育て、それを肉としてその他の人が食べると言う地獄じみた所業をしなくても良い筈だ。

 ある意味その罪を自ら犯した事のある九郎だからこそ、目の前に広がる人間牧場には強い嫌悪感を覚えていた。


「その理由は……シオリお嬢様が『来訪者』だからだ。お前もそうであるようにな」

「あ?」


 ラムスに掴みかからんばかりの勢いの九郎に、横からチェリオが口を挟んだ。

 剣呑な目つきで九郎はチェリオを睨む。

 シオリが『来訪者』だから人を家畜としている――そう聞こえた。

 チェリオの言葉は、『来訪者』である九郎でもこのような所業をしただろうと言っているみたいで、怒りの感情が湧いてくる。


 しかしチェリオは九郎の視線を柳に風で受け流し、肩を竦めた。


「お前は『勇者の加護』って言葉を聞いて事はねえか? ……って知らなそうな顔だな……。まあいい、説明してやる。『勇者の加護』ってのはな、言いかえるのならば『来訪者の加護』だ。お前等は神様からこっちの世界に招かれて来てるんだろう? だからこの世界の人々より膨大な『魔力』を持っている。『勇者の加護』も言うなればそれの延長だ。神様から使命を受けてこの世界に来たお前らの身近な人間は……死に辛く・・・・なるんだよ」


 九郎にしてみれば初めて聞いた言葉だ。今迄何人もの人の『死』を見て来た。この世界に来てから九郎は数えきれないほどの死体を見て来た。しかし、だからこそ、その中に身内と呼べる者達の死が無かった事に言われて気が付く。


 死は『不死者』を除き全てに平等である筈だ。力の無い者、弱い者から襲い掛かってくる。

 それなのに――九郎は仲間――身内と呼べるほど身近な者達の死を経験していなかった。


 シルヴィア達であればそれも納得が出来る。シルヴィアもファルアもガランガルンも、一時パーティを組んだ冒険者仲間の面々は皆抜きん出た実力者達だった。魔物の蔓延る大森林で、単独で行動できるほどの猛者達だった。一番死ぬ目に遭っていたのは九郎で、その他の面々は皆独自に死をやり過ごす術を持っていた。


 しかしその前、ベルフラム達は明らかに実力が乏しかったではないか。

 山一つ覆う程の魔法が使えたベルフラムはともかく、クラヴィスとデンテは獣人と言う強い種族ではあったが10歳にも満たない子供だ。レミウス城に向かう道中でも、雄一の召喚した『動く死体ゾンビ』と攻防を続けていた山中でも……生き残れる確率はずっと少なかった。

 もちろん九郎が体を張って守っていた事も理由ではあるだろうが、彼女たちが常に九郎の傍にいた訳では無い。幼女が大量の『動く死体ゾンビ』相手に殆んどかすり傷さえ作る事無く、潜り抜けられる筈が無かった。


 レイアにしても、九郎が手も足も出なかった事でレイアは相当な実力を持っていると思っていたが、そうでは無い。その後シルヴィアやファルア達との戦闘力と比べて、レイアは明らかに実力が劣っていた。その彼女が九郎と並んで前衛に出て、これまた重傷を負うことが無かったのも、ただの幸運と言う理由だけでは無かったのかと、九郎は自分の掌を見つめる。


「思い当たる節があるようだな? それが『勇者の加護』ってやつだ。こいつら……Eランク……『エサ』達にもシオリお嬢様の『加護』は分け与えられてんだよ。そう、分け与えられてんだよ・・・・・・・・・・。牛や豚は育たねえでも、人なら育っちまうんだよ! でねえと育つ訳がねえじゃねえか。こんな奴らが……」


 チェリオの顔にはラムスよりも酷い嫌悪の感情が浮かんでいた。


「コレがシオリお嬢様のお慈悲って訳だ。分かったか?」


 チェリオは自分の首元を指さし、溜息を吐いた。その顔には先程見せていた映画俳優のような余裕は全く感じられず、自分の人生を呪うかのような苦渋に満ちた表情が浮かんでいた。


合成獣キメラ』――チェリオが言った言葉は、人でなければ家畜になりえないとの答えだった。

 自領のみを富まして来たと言う言葉からも、シオリは『奪った』物を別に『分け与える』事が出来る事を示している。

 どんどん目減りしていく『豊かさ』の中、一番それを消費せずに育つのが、人間だった。だから人に家畜を掛け合わせて育てる事を思いついた。


「人の……人のする所業じゃねえ……」


 九郎の口からどす黒い怒りの言葉が漏れ出る。

 慈悲と言いつつも、それはシオリが目の前の罪から逃れる為に重ねた罪にしか見えなかった。

 尊厳や人間性まで奪った彼等を、シオリは人と見なさなかった。だから都合よく家畜に変えて消費しようと思いついたようにしか、九郎には思えなかった。


☠ ☠ ☠


「こんなところね……。私達が知っている事となると」


 チェリオの肩にそっと手を置き、ラムスが言葉を締めくくる。

 シオリの『神の力ギフト』の正体が分かった事で、フォルテが元に戻る可能性は見えてきた。


(しかし……)


 話の終わりを告げられ、九郎は腕を組んで口を結ぶ。

 可能性は出て来たがそれは容易いものでは無かった。

 40年間猜疑心にまみれ奴隷しか傍に置かなかったシオリを相手に、どうすればフォルテを元に戻させるかの方法が思い浮かばない。


「そんでラムスさんとチェリオさんは俺にどういった協力を求めてえんだ? ていうか目的は?」

「決まってんだろう? 俺らも取り返してえんだよ。奪われた何か・・をな……」


 九郎の問いにチェリオが呆れたように答えていた。

 聞いて九郎も苦笑するしかない。

 当然の答えであり、分かり切った事だった。


「で、方法ってのはどうするつもりなんスか?」


 思い浮かばない知恵を借りようと、九郎は期待の目をチェリオに向ける。


「それはだな……」


 チェリオは九郎の期待の籠った眼差しに自信無さ気に眉を下げ、大きく息を吐き出した。

 チェリオの答えは単純だった。

 殺して奪い返せるのならそれが一番手っ取り早いと思うのだが、それならばチェリオが既にやっているように思えた。チェリオは奴隷の首枷を付けられているが、Sランクの奴隷。言うなればシオリの夜の相手でもある。睦事の最中であればチャンスはいくらでもあるだろう。

 その方法を取らなかったと言う事は、シオリを殺しても奪われたものは戻らない可能性が高い。


 だからこそチェリオの答えは単純であり、そして困難な方法だった。


「脅すしかねえだろう……」

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