第186話  文明開化


「なん……だと……」


 取りあえずリオを街の外へも連れ出せるよう金を稼ごう。

 リオの首に首枷が嵌ったままでは旅する事も出来ない。それにはリオを奴隷身分からの解放、すなわちリオを買い取るしか方法が無い。シルヴィア達と合流するためにもてっとり早く稼げる方法を見つけなければ。


 そう決めた九郎は次の日さっそく市場に繰り出していた。

 金を稼ぐにはまず商売。特に異世界のような文明がまだ熟し切っていないこの地に於いて、自分のような未来とも言える進んだ文明から来た者は遥かにアドバンテージを持っている。市場を調べ、売れそうな物を開発すれば容易く金など稼げるだろう。今回は自重して細々稼ぐようなセコイ真似はしない。知識チートで荒稼ぎと、鼻息あらくして市場に向かった九郎の最初の一歩は、ものの見事に蹴躓けつまずいていた。


「何しゃがみ込んでんの? お腹痛い?」


 アルトリアが首を傾げて覗き込んで来る。『不死者』が腹痛になどなる筈も無いのだが、自分は今それほど苦渋に満ちた表情を浮かべていたのだろうか。アルトリアに支えられながら九郎はヨロヨロ立ち上がる。


 そして目を擦って再度周りを凝視する。改めて見ても信じられない。

 朝の涼しい時間だけに催される朝市。テレビなどで見た事の有る砂漠のバザーと言った感じの市場には、どこかで見た記憶のあるものが所狭しと並べられていた。

 どこかで――言うなれば別の世界で。更に言うなれば地球の、重ねて言うと日本で……。


 直ぐ傍の店に並べられているのは紙……。ザラザラした質感と見た目だがそれはれっきとした紙と呼ぶべき代物。植物の繊維が荒いが、和紙のようにして梳かれ固められたまごう事なき紙だった。

 それに穴を開けて一纏めにした江戸時代のノートのような物が売られている。

 その横の店に並ぶのは綺麗なガラス細工。ビンやコップだけでなく、水差しやランプシェードまで揃っているのだから恐れ入る。

 向こうに見える四角いものは将棋盤だろうか。よく見るとその横にはトランプのような物や、チェスのようなもの。驚くべきことにオセロなんてものもある。流石に電子機器の類は見られないが、手で作れる遊具の類は殆んど全てあると言っても過言では無い。


 逆側を見ると並べられているのは生活用具。方位磁石が売られている。洗剤っぽいのもある。砂漠なのだから石油が湧くのだろうか。石油ポンプのような物まで売られているのだから訳が分からない状態だ。材質は何なのだろうか。プラスチックまでは売られていないようだが、九郎もプラスチックの作り方など全く知らない。

 箒、ハタキは言うに及ばず、塵取り、ゴミ箱そのたもろもろ。包丁は有るに決まっているが、まな板はこの世界に来てから初めて見た。


 布製品も豊富だ。砂漠の街だからか木綿や麻の布は見当たらないが、代わりに絹のような光沢を持つ色とりどりの布が並べられている。羊毛や毛皮の服は熱いこの地方では中々売れないのか、店主が欠伸を噛み殺しているのが見える。

 服に仕立ててあるものもある。九郎はこの世界に来て初めて女性の胸当て、ブラジャーを目にして少しテンションが上がる。パンツも知っているH型の紐パンだけでなく、大人の下着とでも言えそうな際どいものも。アルトリアに見つかったら大変そうだ。


 武器の類も驚くべき品数だ。剣や槍だけに及ばず、斧や短剣。弓はクロスボウから複合弓まで揃っているのだから殆んど網羅しているといっていい。


「飯はっ!? 俺の唯一の希望! 飯はどうだっ!?」


 九郎は困惑しているリオに向かって縋るように尋ねる。

 九郎が最も期待していたのは新しい料理で荒稼ぎだ。そこで取れる食材を使い、新たな料理――地球で人気を博した料理を作り、瞬く間に人気店となる夢に望みを掛ける。

 元から学生だった九郎の知る金の稼ぎ方など限られている。

 格好付ける為に覚えた料理の数々が九郎の金稼ぎの最初で最後の頼みの綱だ。

 飲食店のバイトの経験と、モテる男子の必須条件と意気込んで覚えた品数の豊富さで勝負をかけるつもりだった。

 幸いこの世界の料理はそこまで発展していないように思えていた。

 ポテトチップスは飛ぶように売れたし、貴族の令嬢であったベルフラムも甘味にはメロメロだった。


「飯? 飯ならあっちに屋台が出てる筈だけど……。食った事無いから分かんないよ」


 九郎の必死さに後退りながらリオは自信なさげに答えてくる。

 奴隷の身のリオは元から食事を選べる立場では無い。美味い飯を食わせて自らの株も上げようと、九郎は再び意気込み屋台が広がる場所を目指す。


「わ~……なんかいい匂い……」


 早足で歩く九郎の横で、アルトリアが鼻を引くつかせて怖い事を言う。

 嗅ぎ慣れたスパイシーな香り。郷愁の想いに駆られる食欲を刺激する匂いに、九郎は喜びと悲しみをごちゃ混ぜにした表情を浮かべ顔に焦りが広がっていく。

 胃袋を直接つかまれるようなかぐわかしい香り。子供時代、キャンプで嗅いだこの匂いに胸が高鳴ったものだ。


「カレーまであんのかよぉ……」


 匂いの元に突き当たり、九郎はがっくり膝をつき崩れ落ちていた。膝をつくと同時に腹がなってしまう。

 砂漠の街だから辛いものが好まれるのではと予想を付けていたが、カレーそのものが有るのは予想外だった。

 香辛料の類は豊富なのか九郎の知るカレーと同じ匂いが漂っている。本格的なインドのカリーではなく、日本の家庭のカレーのようにとろみがついた茶色い色の食べ物が屋台の鍋で煮えていた。間違いなくカレーな気がする。陶製の皿に盛った粉のようなものに掛けて食べるらしい。白米だったら最高だろう。


(知識チートは先を越されちまってるか……)


 昨夜に啖呵を切った手前、早々と白旗を上げるのは情けない気もするが、地球の知識で荒稼ぎは少々難しそうだと、九郎は項垂れ消沈していた。

 どうやらこの地には『来訪者』がいるか、もしくはいたのだろう。余りにも家々の様子と文明の、それも遊具や雑貨がちぐはぐ過ぎる。

 砂漠の中に立つ街の様子からも、ここはそれ程豊かな街では無い筈なのに、余裕が無いと発展しないであろうものが発展しすぎている。


 思い返せば昨日訪れた奴隷局や司法局も少々おかしい。

 システムや構造に既視感が有り過ぎていた。日本の役所のようなシステムや、派遣会社のような構造。

 えげつなさは同じでは無いが、やっている事はそれ程変わる訳では無い。

 搾取する方法を模索し、実行したに違いない。僅かな隙も無いくらいにがんじがらめの搾り取り方は、九郎に『来訪者』の存在を匂わせていた。


「クロウ、おなか減ったの? 買っていく?」


 食欲を刺激する『来訪者』の匂いに、消沈していた九郎の腹が再び鳴く。

 アルトリアが苦笑しながら屋台を指さし提案してくる。

 朝市が閉じる前にと早朝から出て来たので、まだ朝食は食べていない。これから金を稼がなければならないのにこんな所で金を使って良いものか……。宿に帰って部屋で作ればその分浮く事は間違い無いのだけれど……。


「アルト……3人前頼む……」

「りょーかーいっ!」


 九郎は匂いに負けてアルトリアに頼んでいた。「くっころ」とでも言いだしそうな、屈辱と期待に満ちた表情で九郎は呻くようにその言葉を口にしていた。

 先に訪れたであろう『来訪者』に膝を屈した形だ。


(すまねぇ……これも遺伝子が……刻み込まれた遺伝子が悪いんや……)


 くっと涙を滲ませながらアルトリアの背中を見送る。

 アルトリアは顔を綻ばせて店の主人に声を掛けていた。買い物自体が初めてなのか、その表情は浮かれている。


「お待たせー。このお皿も料金に入ってるんだってー」


 器に盛って出すだけだから、アルトリアは早々とカレーを手にして戻って来る。

 器分も値段に含まれているのは、持ち逃げされる事を想定しているのだろうか。

 アツアツの湯気を立てるカレーの器を3つ。いくら熱さを感じないからと言っても、胸に乗せるのはどうだろうと、九郎は引きつった笑みを浮かべた。


☠ ☠ ☠


「最高だ……最高すぎんだろ……」


 宿に戻ってカレーのような食べ物を口にした九郎は、しばらくしてからもう一度その言葉を口にする。

 カレーのような食べ物は間違い無くカレーであった。

 味も匂いも辛みも、全て日本で慣れ親しんだ懐かしの味だった。

 具は何か分からない肉と芋。野菜の類は入っていない。隠し味は蜂蜜か何かだろう。粉のような物は芋類のデンプンのようだった、少しパサつきがあるがカレーと一緒に口に運べばそれ程気になるものでも無い。


「う、美味えな!? コレっ!」


 リオが熱いだろうに無我夢中でカレーを口に運んでいた。

 最初リオはそのカレーはカクランティウスのものだと思っていたようだ。奴隷の身分の自分が主人と同じ食事をとれるとは思っても見なかった様子だった。しかしカクランティウスは日の出ている間は食事をとる事は出来ないし、九郎もアルトリアもリオを奴隷として扱う気がそもそも無い。

 差し出したものを訝しげに覗き込んでいたリオも、九郎でも勝てなかった匂いの暴力に直ぐに屈していた。

 その表情は自分の料理で見たかったと思いながらも、九郎も満足気にアルトリアと顔を見合わせ笑みを浮かべる。


 出会ってから初めて、リオの恐れと怯え以外の感情を目にする事が出来た。

 目的はあってもアルトリアの性格は面倒見の良いお人好しでもある。リオを眺めるアルトリアも嬉しそうだ。


「クロウ、出来たよ~」


 九郎の頭からアルトリアの声が降ってくる。

 アルトリアは九郎の頭から鍋を降ろす。


「待ってましただっ! やっぱカレーにゃこれが一番……ダロウナァ……」


 少ない水で炊いたゴメ。カレーと言えば白米の九郎にはどうしてもこの組み合わせは外せなかった。

 リオが見ている前で食べるのは憚られたのだが、カレーを目の前にして米に似た味の食材があるのなら、やらないでおくことなど出来る筈が無い。


「どんだけいる~? 大盛り? はーい」


 アルトリアが鍋からゴメをよそってくれる。

 皿に広がる白と茶色のコントラストに九郎は唾を飲み込む。


 恐る恐るスプーンで掬いゆっくり口へと運ぶ。


「くっ……やっぱ旨え……。アルトのゴメはナンデモアウナァ」

「また褒められちゃった。お代わりこれならいくらでもあるから、遠慮しないでね?」


 最高の組み合わせだった。噛みしめると甘味の広がるゴメとカレーの絡みが混然一体となって口の中に広がっていた。動物性由来の味でもある為か、カレーにコクと旨味を加えていて、粉で喰うよりも遥かに美味く感じられる。

 アルトリアはゴメを褒められご満悦で、自分も食事に取り掛かる。彼女もゴメをカレーに加えて、九郎の真似をしてみるようだ。


「あ、ホントだ。これそのまま粉で食べるよりも、ゴメで食べた方が美味しく感じるね。これ売ればいいんじゃない? 元手も全くかからないよ?」


 匙を口に咥えたまま、アルトリアも驚いた表情だ。

 初めて見る料理の黄金の組み合わせを知っていた九郎に驚いているのだろう。

 同時に恐ろしい事を言って来る。

 確かにこれを出せば瞬く間に人気を得る事は出来るだろう。

 日本風カレーと白飯の組み合わせは最強だ。なにせその為にアレンジされたといっても過言では無い料理である。本場のインド人も認める日本のカレー。いまや国民食の代表の一つにまでなっているこの組み合わせが、売れない理由は無いだろう。


「これは俺の故郷の味そのものだぜ……いやぁ、こんな場所で食えるとはなぁ」


 カレーを掻きこみながら九郎が感慨深げに言葉を口にする。

 しかしその心の中は複雑だ。最高の組み合わせと称しているが、ゴメは米とは似て非なる物だ。

 思い浮かぶのは人気店となった後、周りの食べ物屋に嫌がらせを受け――


 ――おうおうっ! 兄ちゃん、この料理に虫が入ってるじゃねえか! こんなもん客に出すとはいい度胸だなぁっ! ――

 ――え?! ウチは虫しか入ってませんよ? ――


 等と言うコントのような未来図だ。笑いが取れればいいだろうが、決して笑ってくれない気がしてしまう。

 九郎の命を吸い取り、アルトリアを喰らって育つ虫の幼虫。それがゴメの正体なのだから……。果たしてそれを食べて平気でいられる人間がどれ程いるのか、九郎の記憶の中では数人くらいしか思い浮かばない。


 九郎がアルトリアの提案に顔を顰め考え込んでいると、耳に小さく唾を飲み込む音が聞こえた。


「そ、そっちの方がもっと美味いの……か……?」


 見るとリオがこちらを見つめて喉を動かしていた。

 生まれて初めて食べた美味い料理。それだけでも驚きなのに、更に上を行くと語られて興味が出たのだろう。


「どうする?」


 アルトリアが困ったような顔で九郎を覗き見てくる。

 アルトリアもこの食材の異常性は分かっている。九郎に対しても食料が尽きるギリギリまで出そうとしなかった事からも、忌み嫌われる外観であることは承知している。


(また引かれちまう事になるか……。でもこの先俺らと旅するんなら避けては通れない部分だかんなぁ……)


 リオを伴い旅を続ける為に九郎とアルトリアは金を稼ぐ算段を考えている。

 知らずに食べたのならまず間違いなく気に入るであろうが、その正体に気付いてしまった時、どういった反応をされるかを思うと胃が痛い。


 ――しかし――


「あんっ! クロウ、いきなりどうしたの? その気になったの? 料理と一緒にボクも味見してくれるの?」

「はいはい、盛らない盛らない……。大分慣れて来たな……俺も……」


 九郎は意を決してリオに真実を話す事を決める。

 いずれ知るのなら最初から知ってもらおう。騙していたのかと詰られるのなら最初から拒んでもらおう。知らないでいるのは大事だが、知ってしまえばショックが大きい。今は下がりようの無いくらいどん底まで落ちた好感度だ。これから上がるだけにしておいた方がまだ良い。こう言うのは少し上がった所で知ってしまうのが一番不味い。

 ある意味吹っ切れた感もあったが、九郎は女性に何も伝えず虫を食べさせる事はしたくは無かった。虫食県民であっても、その辺の分別くらいは持っている


 カクランティウスに黙って食べさせているが、カクランティウスは男だ。対してリオは年下の女の子だ。男と女に出来る悪戯は種類が違う。

 男のカクランティウス相手なら「食いたいって言ったのそっちじゃん」とも「虫の一つや二つ、千や二千でガタガタ言わない!」とでも言えるが、九郎は女性には気遣いが出来る方だと自認している。

 男にも気遣いが出来ない訳では無い。ただ自分と同じくらいは漢気おとこぎを見せて欲しいと思っているだけである。


 とかくいろいろ考え、九郎はアルトリアの袖に手を突っ込むと、彼女のうでで育つゴメを一粒摘み取る。いつも元気なゴメだ。すくすく成長して今日もたわわに蠢いている。

 少し息遣いが荒くなってきたアルトリアを無視して、九郎は指でつまんだゴメをリオに見せる。


「これがコレの正体だ……。俺らはいつもコレを食ってるんだ……。気持ち悪いと思うかも知んねえが、栄養豊富で味も良い……。でも強制して食うもんじゃねえことも分かってる……。それでも食いたいってんならいくらでも食わせてやるんだが……どうだ?」


 目の前に掲げられた白い粒をリオは大きな目をさらに大きく見開いて見つめていた。

 ――やっぱり引かれちまったな――

 九郎が眉を下げようとしたその時、リオの口からは意外な言葉が紡ぎだされていた。


「へぇ……コレ食えたんだ……」


 今度は九郎が目を丸くする。

 女性のリオの口から出てきた言葉とは思えなかった。

 しかし直ぐに納得もいってしまう。頭の中に思い出されるのは飢えを極度に恐れ、食べられる物を貪欲に求めていた少女達の姿だ。

 口に入る物なら何でも食べようとしていた貴族の娘。知らなかっただけで食べられると知れば、怖気付く事無く口に運んだ孤児だった姉妹。

 リオも同じ……飢えた事のある人種なのだと、九郎は改めて思い知る。

 この世界に来て初っ端から飢えに苦しみ、毒までも口にしていた九郎と同じ。端から選択肢が無い人種だった。


「食えそうなら食ってみろよ。味は一応保証するぜ?」

「なんたってボクとクロウで育んでる命だからね! きゃっ、何だかロマンチックな響きだね?」

「ロマンの欠片もねえ気がするが……」


 九郎が自分の皿を差し出しアルトリアといつものやり取りを始める中、リオは臆することなく匙を掬い上げる。

 そして……


「う、美味うめえっ! こっちの方がもっと美味うめえ……。これがこんなに美味かったなんて……知ってりゃ……アタシ……」


 リオは感嘆の言葉と共に悔しがるような表情を浮かべた。

 今迄知らなかっただけで食べられた食材に気付き、見逃して来た事を悔やんでいるかのような表情。


「一応、アルト産のゴメ以外は食わねえほうがいいとう思うぞ? アルトも俺も汚れねえからゴメも清潔だけど、その辺のはやっぱヤバい病気とか持ってるかも知んねえし……」


 リオを眺めて九郎は苦笑と共に警告しておく。アルトリアの腕で育てているゴメは彼女がしっかり管理している。腐敗も毒も思うがままに操れるアルトリアが育てているからこそ、このゴメには毒も病気も付いていない。その辺の道端で腐り落ちている畑で育つゴメは、流石の九郎も食べようとは思わない。


「でも……これが食えるんだったら……アイツも……あの子も……」


 九郎の言葉を聞きながらもリオは過去へと思いを巡らしている様子だった。

 飢えた事の有る人間は、飢えで死んだ人も目にしている。クラヴィスやデンテが語った飢えの恐怖を、リオも身近で感じた事があるのだろう。


「き、気に入ったんならもっと炊くね? ゴメだけは僕らがいれば無限に作れるからっ……」


 アルトリアが慌てて鍋を掴んでいた。考えてみればアルトリアも飢えた経験を持つ一人なのかもしれない。アンデッドになって食べる事の必要性が無くなっていても、彼女も食べる事を止めなかった。

 人であるには食べる事が必要と感じていただけでは無く、飢えを死んだ後まで恐れていたのかも知れない。


「なんだよそりゃ……お前……神様だったのかよ……」


 リオはアルトリアに向かって小声で称賛を送っていた。

 アルトリアには届かなかったその呟きに九郎は薄い笑みで応えておく。

 食料を無限に生み出すアルトリアの存在は、この過酷な砂漠の街に於いては神のごとき存在に思えたのかも……飢えて死ぬ事の無くなった今でも、腹は減る九郎もリオの言葉に小さく同意を返していた。


「吾輩……エライモノヲ口ニシテシマッテイタ……オオ……オオオオ……」


 リオの後ろ、部屋の隅で紫の骨が震えて口元を覆っていた。

 顔色は分からないが、きっと青かったに違いない。

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