第117話  男のロマンと女のプライド


「コルル坊……。ここはおぬしの宿かのぅ?」


 階下から顔を出した九郎を見て、シルヴィアが呆けた声を出す。

 一瞬連れ込み宿にでも寝かされていたのかと疑ったが、乱暴された様子も無い事でシルヴィアは落ち着きを取り戻してはいた。

 ただ見たことも無い建築様式の部屋の様子と、窓から見える眼下の景色にどう言った物かと考え込んでしまう。


「そっスよ? シルヴィアさん昨日酔っぱらって大変だったんスから……。あ、先に風呂入った方が良いかも知れないっスね?」


 九郎が壁際に開けられていた穴から顔を出して登って来る。

 ギシギシと音を立てている事から縄梯子か何かで繋がっているのだろう。

 片手に木製のコップを持ちながら器用に登って来た九郎は苦笑を浮かべながら、シルヴィアの目の前にコップを置くと、巨大な水瓶に腕を突っ込みながらそう言いやる。


「すまぬ……。迷惑をかけてしもうたの……。所で風呂とは何じゃ……? 何処かで聞いた事のあるような……。なんじゃったかのぅ……」

「昨日自分で説明してたっしょ。お湯が一杯使える設備? っすよ」


 お湯と言ってもこの国で湯で体を拭く事はあまり一般的では無い。

 常時熱いこの国で、しかも水浴びをしたければ川に入れば済むのだから態々湯を沸かして体を拭こうと思う者はいないと言える。

 話だけ聞いても余りピンと来なかったシルヴィアは、九郎の言葉に眉を顰める。


「その瓶には湯が入っとるんか? 湯気も立っとらんようじゃったが……」


 訝しみながら渡されたコップに視線を向ける。

 二日酔いなど初めての経験だが、頭の痛さと胸のムカつきに苦しむ体は乞うように水を欲している。


(えらく気の利く男じゃの……)


 喉の渇きに耐えられなくなり、コップに口を付けたシルヴィアは一瞬目を見開いて一気に水を飲み干す。


「冷たい?!?」


 コップの中の水は驚く事に冷たかった。

 僅かな柑橘の汁が絞られた水は乾いた喉にしみ込むように流れて行った。

 だが味よりもまず驚いたのはその水の冷たさだ。

 河の水で冷やすと言っても限度がある。

 なのにコップの中の水はそれを遥かに上回る冷たさなのだ。

 息継ぎをすると同時に驚きを口にしたシルヴィアは、その口をあんぐりと開ける。


「ななななななんじゃぁ?」


 水に夢中になっている僅かな間に、目の前が曇っていた。

 見ると先程まで何の湯気も立てていなかった巨大な水瓶から、もうもうと湯気が立ち昇っている。


「んじゃ、適当にタオルはその辺の使って良いっすよ。あ、ちゃんと洗濯した奴っすから」


 目を瞠ったシルヴィアに暢気なセリフを返して来た九郎は、そう言うとそそくさと下へと戻って行く。


「ど、どうすれば良いんじゃぁ?」


 後に残されたシルヴィアはただただ戸惑うばかりだ。

『風呂』と聞いても言葉だけで、その本質を理解している訳では無い。

 体を洗う物だという事は何となく分かるのだが、目の前で湯気を立てている水瓶をどう使えば良いのかさっぱり分からない。

 次々と押し寄せてきていた驚きの連続は、シルヴィアの思考を混乱の渦に巻き込んでいた。


「み、水浴びじゃよな……? 分かっとるぞ? 儂は168年も生きとるからの……。知らん物なんぞ……」


 恐る恐るベッドから歩み寄ろうとする鼻に、仄かな吐しゃ物の匂いが香る。


(そう言えば、何度か吐いとったんじゃ……。のお゛お゛お゛お゛ぉぉぉ……。臭かったから抱きよらんかったんじゃろうか? 情けないのぅ……)


 乙女としてあるまじき醜態の数々は、いまだ攻め手を緩めてくれた訳では無かったようだ。

 散々ファルア達に匂いがどうのと言っていたのに自分が臭くては立場が無い。

 九郎はシルヴィアにそれとなく匂いを落とすように気遣ったのだろうか。

 気遣われた事すら屈辱を感じてシルヴィアは羞恥に顔を赤くする。


 一度気になってしまえば、その匂いは直ぐにでも落としてしまいたい気になり、ビクつきながら水瓶へと歩み寄るシルヴィア。

 大きな水瓶の中からは濛々と湯気があがっている。

 何時の間に水を湯へと変えたのか。

 魔力の残滓も残っていない事への疑問もぐるぐると頭を廻る。

 だが驚きの連続の中で、シルヴィアの思考はすっかり考える事を諦めている。


「桶が見当たらんのう……」


 シャツを脱ぎ、おずおずと近くを見渡すが水浴びに必要な桶が見当たらない。

 代わりに水瓶の横に適当に切られた切り株の様な物が階段の様に置かれているだけだ。


 薄い胸をタオルで隠しながらも目を皿のようにして部屋を見渡したシルヴィアは、部屋のどこにも桶らしきものが見当たらない事を確認する。


(コレ……は流石に無いのぅ……)


 手元に残った小さな木製のコップを見ながらため息を吐き出す。

 九郎の態度からもこの場にある物を使って、この『風呂』と言う設備で湯あみ・・・? を勧められた事は分かる。

 だが、何を使えば、どう使えば良いのかがさっぱり分からない。

 シルヴィアは考え込む様に瞳を閉じる。

 168年培った知識は数々の経験に状況を照らし合わせ、確かな答えを導き出す。


「おお~い! コルル坊~! こりゃぁどうやって使えば良いんじゃぁぁぁぁぁ?」


 シルヴィアは階下に向かって大声で叫んだ。


☠ ☠ ☠


「んふ~」

「お? 湯加減どうでした?」

「うむ。極楽じゃったわい。成程のぉ~。こりゃあ銀貨2枚ならお得と言えるかのぉ~。はぁぁぁ……長生きはするもんじゃぁぁ……」

「また婆臭いセリフを……」

「何ぞ言いよったか?」

「ぜ、ぜぜん!!」


 ホコホコと湯気を立ち昇らせながら梯子を降りてきたシルヴィアを見て、九郎が苦笑しながら声を掛ける。

 髪の水けを拭きとりながら、夢見心地と言ったシルヴィアの様子に幾分誇らしげにしながらも、見た目には全くそぐわないセリフにさらに苦笑を重ねる。

 一瞬ギラリと九郎に視線を向けたシルヴィアも、直ぐに『風呂』の余韻に浸るように呆けた様子で相貌を崩す。

 熱帯であるミラデルフィアで湯を使う事など馬鹿らしいとすら思っていたシルヴィアだが、存外心地良いものだと認識を改めていた。

 特に二日酔いで朦朧としていた気分が、大分楽になったのが大きい。

 温かい湯に浸かり噴き出る汗は、熱帯特有の嫌な汗では無く、体の中を浄化して行く様なそんな爽やかな心地を与えてくれた。

 脂肪が付きにくい森林族の華奢な体は、熱帯地方と言えども朝晩の冷え込みには少しばかり辛く、辟易していた所もあってシルヴィアは、この『風呂』というものをいたく気に入ってしまっていた。


「ふぉぉぉおお!?」


 まだ温まりきっていない森の風が肌を滑る感触に、目を細めたシルヴィアはその目で階下の部屋を見渡すと歓声をあげる。

 目覚めた部屋から一階層降りたと言うのに、目の前に広がっていた光景はそれでも絶景と言える物だった。

 木漏れ日の柔らかな日差しが降り注ぐ中、目の前に広がったのは植物のベランダ。

 うっそうと茂るスペード型の葉が朝露を弾いてキラキラと輝いている。

 そしてその葉の隙間から見える景色は、まだまだ高く広々とした森を眼下に映していた。


「コルル坊はなんちゅう所に住んどるんじゃぁあ」

「凄いっしょ? 作るの苦労したんスよ」


 シルヴィアが顔を輝かせて開かれた窓から顔を出す。

 風で舞った髪を抑えながら歓声を上げているシルヴィアに九郎も誇らしげに答える。


 九郎の家。

 当初寝かされていたのは何処か知らない宿の一室では無いかと思っていたが、そこは九郎が築いた家だった。

 それはそのまま大樹であった。

 弦系植物に絞められ立ち枯れた大樹の中に九郎の部屋は作られていた。

 朽ち果てて尚形を留めていた太く背の高い大樹の内側は、年月を経て腐り虫に食われてがらんどうになっていた。

 張りぼてのまま弦の添え木として存在していた巨大な大樹の内側に、九郎は自らの家を作り出していた。

 それは高所に木板を張り巡らせただけの簡素な床と、所々に開けられた光取りの窓だけが存在する決して立派とは言えない作りではあったが、驚くには充分な環境であった。

 地上20ハイン程の高さ、元の木が棚となる場所に一階が作られ、さらに3ハイン程上にシルヴィアが目覚めた2階が作られているようだ。

 1階に置かれている調度品はこれまた簡素な切り株の椅子とテーブルのみではあったが、木だけで作られた温もりを感じさせる暖かな調和をもたらしていた。

 森林族の家も木々の上に作られていたが、木のうろを利用する事はあっても大樹一本丸まる使用した家は見た事が無かったシルヴィアは、しきりに感嘆し、驚きの声をあげる。


「コルル坊はなんじゃ? 儂ら森林族に憧れとるんか? 街から結構離れちょらんか?」


 興奮しつつも疑問に思った事を次々口に出すシルヴィアに、九郎は肩を竦めて言葉を返す。


「俺、こっち来た時無一文だったんで……。いや、最初はその辺で野宿してたんスよ。したら虫だの獣だのが一杯寄って来ちゃって……。まあ、それは別によかったんスけど、朝起きると咥えられて何処かに連れてかれたりとかして毎朝街の方角が分かんなくなっちまって……」

「うん?」

「んで、だんだん煩わしくなちゃって、穴掘ってそこで寝泊まりしてたんすよ。結構時間かかって作った快適な奴を。部屋もいっぱい作ってマジ良かったんすよ? で、『あーこれで雨降っても濡れずに済むなー』なんて考えてたんスけど……これがいざ雨が降ると大変で……。もう目覚めたら部屋全部が水没しちゃってて、どんどん水が流れ込んでくるわ、いっしょに鰐とか入って来るわで超大変で……」

「う、うん?」

「で、行き着いたのが木の上なら流されねえんじゃって訳で……。この木を見つけたんは偶然だったんスけど……。最初は街に近くて高い木の上にツリーハウス? って奴を作ったんス。壁とかもちゃんと作って、ロッジみたいなのを……。でも、ほら、4か月程前にめっちゃ雨降った時、そん時に雷が直撃して寝てる間に家が燃え尽きちまってて……。もービックリっすよ? 上で寝てた筈が起きたらマッパで地面に寝てたんスから……。あん時丁度別の木の木陰に布とか干してなきゃ、また『変質者』とか言われて街に入るの苦労したかと思うと……。そん時ゃ大事な毛織物も燃えちわ無かったんで、まあ運が良かった方っス!」

「う、ううん?」


 さも苦労した事を懐かしむ様子で語っているが、笑い話では済まない状況が混じっていた気がしてシルヴィアが首を捻る。

 どれを聞いても命を失ってしまうのではと思ってしまう危機的状況だが、話す九郎にそんな一命を取り留めたと言う安堵も悲壮感も感じられない。

 只単に家を失って困ったと事無げに言いやる表情はあっけらかんとしていて、命の危機にあったなどとは微塵も思っていないようだ。


「それで最後に行きついたのが今の家っつー事っす! いやー町から離れてるって言っても30分も歩きゃ、門まで行けますし、全然大した事無いっすよ? あんまり開けた場所だとまーた雷に焼け出されちまうし……」


 街に住む選択肢は無いのだろうかと、ふとシルヴィアの頭に疑問が擡げたが、これ程の家を持ってしまったのなら、今更安宿に泊まると言う選択肢は無いように思えた。

 度々氾濫するナガラジャ川の中州に何故フーガの街が作られているかと言うと、樹海に潜む魔物の脅威の方が大きいからだ。

 これ程高所に作られた家なら、殆んどの魔物から身を守る事が出来るし、それに何より快適だと思える。


 数々の苦労話の中に潜り込んでいた死を連想させる状況も、大げさに言っているだけだと処理する事にしてシルヴィアは再び外に視線を向けた。

 その時、外からガランガランと打ち物が鳴る音が響き、続いて知った声が響く。


「おーい! クロウー!! 頼まれたもん買って来たぞー!!」


 昨晩嫌と言う程聞いた二人の冒険者の声に、シルヴィアの顔が熱を持つ。


(うぐ……。そう言えばあ奴らも昨晩2件目までは付いて来とった気がするの……。その後の記憶が曖昧じゃ…。どこで奴らと別れたんじゃろうか? 儂がコルル坊と一緒におったら不味いんじゃ無いのかえ? あんな事口走っとった娘が一緒に居ったら……その……)


 抱いてくれとせがんでいた自分が、早朝に男の家にいる事は何も無くとも面映ゆい。

 例え何も起こっていなくても、男女の関係を疑われるのは自然な事だと思える。

 逆に何も起こっていないのが、そこはかとなくプライドを刺激している事も含めてシルヴィアはオロオロと視線を泳がす。

 改めて自分の格好を鑑みると、それこそ下着と変わらぬ格好だと思い至り――南国のこの国では肌を晒す女性などそれ程珍しい者でも無いのだが――物陰を探して狼狽える。

 だが部屋の隅も存在しないこの部屋に、物陰など何処にも見当たらない。

 ならば寝室へと身を翻そうとするが、寝室にいる所を見られてしまえばそれこそ言い訳も儘ならない。


「あざーっす! ファルアさん! ガランさん! 上がって来てくださーい!」


 そうこう考えている内に九郎が大声で叫び、部屋の中へと二人を招く。

 地上との上り下りは突き出た枝からなのか、縄梯子を登る音がし、その後に小さな壺と果物を抱えた二人の男が姿を現す。


魚醤ガルムとライムと……あと、椀と皿だけで良かったのか? 肉とか魚とかは芋とか」

「あ、その辺は備蓄があるんで大丈夫っス。幾らでした?」

「いらねえよ! 昨日しこたま飲ませてもらったしな」


 挨拶も無しに部屋の中へと入って来たファルアとガランガルンに、シルヴィアは思わず背中を向ける。

 どう顔を合わせて良いのか分からない。

 今迄こういう状況が無かっただけに、168年貯め込んだ知識も役に立ってくれそうにない。

 ただ、尻軽と思われるのも癪だし、関係を疑われるのも恥ずかしくて背中を向けて黙る事で抵抗を示す。

 願わくば、自分と気付かれずにやり過ごしてしまいたいと祈るシルヴィアだったのだが……。


「お? シルヴィ~。結局クロウとヤったのか~? いや~良かった良かった。昨日のアレじゃあ中々抱いてくれる男もいねえだろうな~って思ってたんだわ。俺も流石に生娘の面倒臭さを思い出したぜ……。ま、晴れてお前も女になった訳だしよ? 次は俺で比べてみるか?」

「なんでぇ。結局オババを抱いたんか? 骨を抱いてるみたいで味気なかっただろ? 今度むっちりした女がいる娼館つれてってやるぜ? 鶏がら抱いてんのとは具合が違うぜ?」

「え? ファルアさん、ガランさん何言って……あ痛っ!!!」


 シルヴィアの祈りは天には届かなかったようだ。

 笑いを噛み殺した様なファルアとガランガルンの言葉が、シルヴィアの背中に突き刺さる。


「だ、誰が鶏がらじゃ!! ガラン坊!! おぬし言って良い事と悪い事の区別もつかんのかっ!!」


 顔を真っ赤にしながらシルヴィアが怒りを表す。

 その赤面には乙女のプライド分の羞恥の色も混じっているが、それを誤魔化す為に眉を吊り上げる。


「おいおい、せっかく女にしてもらったんだからもうちょっと落ち着きを持っても良いんじゃねえか? それとも……まさかお前……まだ生娘なのか……」


 信じられないと言った表情でわなわな震えだすファルアの顔に、隠した乙女のプライドが刺激される。


「まさかねぇ……いや、クロウにも選ぶ権利も有るわなぁ。あんだけ騒いだ処女じゃめんどくさくて萎えちまうのも仕方ねえよ……」

「え? ガランさん? あいだっ!!」


 ガランガルンが九郎を慰める素振りが殊更シルヴィアのプライドを傷付ける。

 手を出していない九郎はただただ狼狽えるだけだ。


「ふ、ふふんっ! それは残念じゃったの~う↑ 儂はもう既に生娘じゃ無くなっとうぞ! 昨晩はそりゃあ激しく求めあっとったわい! 儂も腰が痛うて痛うて……。儂のがそんなに良かったんじゃろうかのぅ。中々寝かせてもらえんかったわ!」


 シルヴィアは怒り打ち震えながら、自らのプライドを守らんと九郎に目くばせすると、顔を真っ赤にしながら赤裸々に言い放つ。――真っ赤な嘘を。


 何としてでも目の前の二人の男を閉口させてやりたいと、僅かな性知識を総動員してそれらしく言いやる。

 巻き込む形の九郎には僅かに罪悪感を覚えるが、抱く価値も無いと断ぜられるのは女のプライドが許さない。

 それでなくても知り合いに生娘である事を馬鹿にされたと、暴露してしまっているのだからもう破れかぶれである。


 一瞬の静寂が部屋を支配する。

 流石に赤裸々過ぎたとシルヴィアの頭に後悔が浮かんだその時、部屋の中を爆笑が渦巻く。


「グワ~ハッハッハ! 本当か? 本当にか? オババ本当に抱かれたんか?」


 ガランガルンがシルヴィアと九郎を交互に見ながら爆笑する。


「だから何度も言わせるでないっ! コルル坊としっぽりしたと、ゆ、ゆうとるじゃろ!?」

「グハッ! グヘッ! は、腹が痛ぇ……。そーかそか……。シルヴィは抱かれたんだよな? ここにいるクロウに?」


 何度も男女の交わりと口にする恥ずかしさに赤面しながらシルヴィアが言い返すと、息を絶え絶えにしたファルアが九郎の肩に手を置きながら視線を向ける。


「だから何度もそう言っとるじゃろうが!!」

「ブフッ! そうか…知らなかったぜぇブハッ! クロウ、お、おめえぶぶぶ分裂すんのか?」

「い、いや出来ねえわけじゃ……」

「ゴファッ! クロウ……シルヴィ庇うのはもう諦めろっ!! 俺の腹筋を庇ってくれ!! は、腹がく、苦しい……」

「な、何じゃ……」


 クロウが渋面しながら言葉を濁すと、さらに息を詰まらせたファルアが痙攣し出す。

 流石にシルヴィアも様子が可笑しいと、狼狽え始めるがその思考は次の言葉で真っ白に塗りつぶされる。


「い、いや……。昨日俺らと朝まで飲んでたクロウが、どうやってシルヴィを抱いたのかを聞きたくてよ。クロウ……。その秘術俺にも教えてくれねえか?」

「そうそう、俺も一手伝授して頂きたく候……ゴヘッガハッ!!」


 シルヴィアは顔だけでなく体全てが赤く染まって行く。

 担がれたと理解した時はもう既に遅く、腹を抱えて笑う二人の男をプルプルと震えながら見る事しか出来ない。


「な、な、な、な、な……」


 罵詈雑言を吐き出したいのに、喉を通るのは悔しさを孕んだ短い怒りの声だけだ。

 怒りと羞恥に打ち震え目に涙を滲ませるシルヴィアに、同じく目尻に涙を溜めたガランガルンが近づいて来る。


「オババ……腰が痛いってな……。そりゃあ―――歳だ――――」

「ガラン…ガルン……。俺もう駄目だ……。息が出来ねえ……ブフォァッ!!」


 肩に手を置き真面目くさった表情で言っ放ったガランガルンの言葉に、ファルアが耐えられないと膝を付く。


「〇◆※ИЗрξЖ∝!!!!」


 シルヴィアは声にならない声を上げて目を瞑った。

 結果、三人の男は椅子だった切り株を顔面に受けて吹っ飛ぶこととなった。

 三人・・は声も出せずに崩れ落ちた。


 ――シルヴィアはその後九郎に土下座をした。

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