第32話 ガルバドスン魔法学院

 今、生活魔法を学んでいる? ガルバドスン魔法学院は、鬱蒼うっそうとした森の中に在った。

 広大な土地に四つの塔の下に膨らんだ屋根を持つ円形の闘技場を持ち、五階建ての学舎や講堂を含めた建物を中心に渡り廊下で繋がり、塔の先端は天空に突き立っていた。


 その森を囲むように学舎と同じ高さで結界のための柱を持つ巨大な壁が立ち、その壁とその周りに学内の産物を販売する購買部の出張所を含めた、学院都市が広がっている。

 学院で使用する教材やローブ、杖なども販売している。休日には、学院から買い物に来たりすることも出来るようだが。学院長の認可を受けた者だけだが。


 学院への新入学及び再入学の俺たちの中でも、

「大きいですわね。」「俺たち卒業してから建ったのか? この街って」

 と、驚きを隠せない者もいる。事実、こんなに大きいとは思わなかった。

 ひょっとして、街ごと「工事」するのか? 俺。


 学院都市は、学院内のものばかりの購買施設だけでは無く、ここには確かに人々の生活がしっかりとあったのである。露店、屋台、量り売りなどの商売は十分にその日その日を潤していた。


 この街がわずか数年でこれほどまでに巨大になったのには理由がある。


 数年前の学院に所属していた、ルナと結界挑戦部の方々たちによる結界への攻撃により、その学院の周りの磁場が少々ズレたことがのちの検証によって判明した。

 真上から叩き込んだアレのことだろう。


 それによってダンジョンが産まれた。

 このとき、対になるように魔法学院内部にもダンジョンが産まれた。


 街の方の新しいダンジョンはかなり活発で、そこから出てくる魔物は数回街を襲った。

 冒険者が集まりだし、やがて、冒険者ギルドが擁立された。



 一方、学院内の方のダンジョンは動き出しが緩く、学院内に設けられた中等部より上の生徒による冒険者パーティーでの探索及び討伐で済んでいる。

 入り口の見張りは常に二人。結界によって二重にカバーされていた。

 無論、考査の対象になっており、学業で成績の悪い者でも上位を目指すことが可能になっていた。


 この学院都市に入るためには、学院都市側での冒険者登録が必須で、初等部入学の際の身分証明としても利用されている。本人の血をカードに封印し、それの反応で討伐の是非を判断の材料としていた。これにより、ステータスの偽装は効くのだが、討伐の是非について何故か嘘は通じなくなっていた。まあ、お陰で過去に倒したものも勘定に入れられる訳なのだが。

 もちろん、素材の買い取りも出来るようになっており学資の補助として利用されている。


 ティムした魔獣の登録も可能で専用の登録証入れが用意されている。

 そのため、俺は雪狼のジョンを登録している。


 羨ましがられたのと、勇気を出してお気に入りに挨拶した個体に、名を贈った数人が同じく登録している。

 もちろん、ジョンの群れの数体である。


 もふもふに抗しきれなかったらしい。雪狼の方も、撫でられたり、遊んでくれたりとするので、その魅力に嵌まってしまったようだ。

 ま、ボスからしてそんな具合だからな。



 さて、今の生活魔法の実習のまえに説明されていたのは、自分の属性の把握と発露。


 一つの属性だけでも全くない人にとっては、この力を行使されることは一方的な暴力と同じことと認識することが求められる。学舎内での無闇な発動が禁止されているということ。特にセクハラは男女とも微妙な問題だが発覚した場合、単位を落とし、考査の対象外となる。

 あとは、自分の体の魔力溜まりからそれが発動するということの把握。


 発動体は各自が違う、杖であったり、ペンダントであったり。風の民などは額に装着しているバンダナの中のサークレットだったりする。






「凄ーい」「なにそれ? なにそれ!」「どーなってんだよ、これ?」


 驚きに目を輝かせて、俺にそのやり方を聞く者たち、本来、これは講師であるあなたが得るべき栄誉なのですが? 


「凄いです……、どうやっているんですか?」

 リメラ・S嬢が感嘆とともに問い掛けてくる。あれ、彼女たちの属性って、俺と同じ風だったような。


「リメラさん、風属性だったっけ?」

「うぁ…………、はい、そうです」

 なんだよ、そんなに照れなくてもいいじゃないか? 真っ赤な顔で消え入るような声で返事を返してくる。


 ハズいのは、こちらも一緒だ。


「風なら、呪文でも頼むのでもオーケーだと思う、好かれているから大丈夫だよ。」

 風に好かれている人は結構多いのだ。だって、風は、【甘いもの】が大好きなんだもの。

 女性達も、そうでしょ。


「え、好かれているんですか? じゃあ、お願いします。『風よ、我が心のままに、このトリさんの羽を取ってください。』」

 そう言って、お気に入りの小さい杖を一振りして、補足にコツンと当てた。


 お、やるねぇ。『心のままに』とはニクい形容詞だな。彼女の心に沿った形で実行してくれるからだ。


 彼女の脳裏には、俺のやった成功例が刻み込まれていたかのような見事な術の行使だった。周りからどよめきが聞こえる。


「出来ました!」


 見事に羽の取れたトリさんがいた。羽も綺麗に取れていたけど、うぶ毛が辺りに舞っていて大変でしたが……。


 その後は、………大変でした、ハイ。


「俺、火なんだけど!」「わたし、水………。」「アタイ、……土。」「風だけど……。」

「俺、無属性の磁力」「おれ、雷」「氷です」

 はいはい、火に水、土、風に磁力ね……、磁力? 雷? 氷ねぇ。属性って、一杯あるんだって思ったね。


 講師のジョナンも、その属性の多さに目を白黒していた。

「ジョナン講師、半分ほど受け持ってください。僕だけでは、お昼に間に合わなくなりますよ。挽回のチャンスですけど? どうします?」

 こそっと、受講者の評価の落ちたジョナンに救いの手をさしのべる。これでダメなら、学院長に話すしかないが、ね。


「済まないな、有難く君の補助に入ろう。だが、昼には間に合わせたいな。この肉の美味さは格別だからな。彼らに知って貰うと討伐をしてくれるかも知れないしな。」

 ハハハ、確かに。

「じゃあ、単独の場合と協力したときの場合との比較もさせましょう。」

「ふむ、……そうだな。」


「じゃいいかい、この列からこっちはジョナン講師に聞いて、僕だけじゃお昼ご飯に間に合わなくなっちゃうから、じゃあ、ヒントをあげるね。」


 ええーっと声を上げる者も居るが、お昼に間に合わないということを知らされ、しぶしぶ、ジョナン講師の方に移っていく。

 一人一人に親身になって話している姿にさっきまでの退廃的な雰囲気は無いようで一安心。こんなんで捨て鉢になられていたら、たまらんからな。


 では、こちらも。


「火だったね、思い描くのは小さな小さな火、いいかいこれが俺の魔法で取った羽の先っちょだよ、これの先端をその火でちょっとだけ炙ってごらん。そうだな、もうちょっと小さい火だ。おお、それそれ。先っちょが縮んだろ。その現象を思い描いて、お願いするだけさ。さ、火の人たち、集まって一緒にやってごらんよ?」


 俺に言われて同じ属性の子たちが集まって、それぞれの言葉で、呪文で、お願いで、その魔法を現実のものにしていく。


「出来たー!」「あたしも」「僕も!」

 立て続けに声が上がり、その声に周りの同期の子たちの視線が熱意を帯びる。


 しまった……、昼飯の時間が無くなった瞬間でした。




 俺の周りに集まってくる、初めて、魔法を使うような連中だけでなく、あいつらもいて、結局昼飯に間に合わず。フラレンチ・トゥストで誤魔化しました。


 そのフラレンチ・トゥストを見て、たかってくる連中が居ましたとも、ウチの連中です。まったく、自分たちの昼飯を食べなさい。

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