第31話 初等部の生活魔法

 二度目の彼らは、初等部の講義を俺と一緒に拝聴している。彼らは前回、ここを飛び級していったところだ。意外にも、誰も重要視していなかったらしい。


「…………、このように生活魔法というものは一般に冒険者の野外活動でも、役に立つ要素が多い。微細な魔力の出し方が可能となるのである。では、手元に昼ご飯になる予定の百足鶏レッグス補足サブレィがある、これの下処理として、羽をむしる、蹴爪けづめを取る、大きな骨を取るまで出来れば立派なステーキの完成だ。ああ、そうそうこの補足サブレィの羽は綺麗に取れれば、それだけで買い取りの対象となるから取り方を工夫したまえ。提供者のご厚意により、これは君たちの獲物となっている。では、始めよう。」

 講義をしている講師の前にも補足サブレィが置いてあり、彼は自分の属性である火と水の両方をうまく合わせて、羽の軸に沿って根元に流し込んでいる。


 その微細な作業を真似する者もいるのだが、そこまでの繊細さが無いために折角の羽が煤けたり、切れたりと様々な残念なことになっている。


「ダメだぁ。全然うまくいかないよ。」「無理、出来ないわ。わたし水も火も持っていないもの」「詠唱もしないでやるの、これ?」


 それぞれの魔法が発動をミスするたびに、空中にまき散らされた魔力が結界へと吸われていく。


 おいおい、こんなんで結界の強化に使ってもマジで微々たるものだぞ。



 さて、この羽の処置のミスを今年初等部に入った連中がする分には、しょうがないで済ませられるのだがルナたちが苦労しているのを見て、俺は頭を抱えた。マジか?


「よっ……と。取れませんわ。どうしてですの?」

「んぅ、あぁ! はぁぁぁぁ、ん!」

 片方は取れないことに不思議がり、片方は何やら色っぽい声を出しているのに気付いているのかいないのか。まだ、初等部だしな。しょうがない………、コイツらは別だ。


 だけどさ、「ああ、焦げた。」とか「ああ、茹だっちゃった」とか「ええ~い、引っ張っちゃえ」とか、ヤースォ、イクヨ、レイ、お前らは、いつまで初等部やっとるか!



 こんなんで、よく結界破壊魔法とか構築できたな………、お前ら。あっちの方がよほど繊細で、たかだか強力な魔法をぶつけた程度では簡単には壊れないものだが?

「おのれ!」と、シュッキン・ポゥ、お前もか………。


「セトラ・イー君、よそ見をしていて大丈夫かね? 手元が全く進んでいないようだが?」

 この講義の講師ジョナンが、俺の手元をのぞいてくる。自分はもう終わったようでヒマなのだろう。いじってやろうという魂胆こんたん(腹の底)が透けて見え隠れする。


 一応、初等部では学内において、平民とか貴族だかの差別をしないようにファースト・ネームに出身地をイニシャルにしたもので顕している。飛び級などで、学内の位置が変更されるとともに本来の姓名に変更されていく。講師もそれが適応される。従って、この講師はのことは知らないという設定らしい。


 問題は、差別をしないためという

「講師であるあなたが、たか・・だか・・羽を・・高額・・買い・・取り・・に回・・した・・いから・・・とかいう理由で細部を見せてくれないから、みんなが大変なことになっているのに僕にかまけていて良いんですか?」


 こんなんで講義されても、意味はほとんど無いな。そう思っていると、目の前の講師の雰囲気が変わった。


 おや?


「フフ、そういう君はまるで出来ていないのに、わたしを愚弄ぐろう(馬鹿に)する気かね?」

 なんか暗い波動を出している。学院長の話から推測しても、こういうのがあっちに吸われているんだと思うんだけどなぁ、ハァァァ面倒めんどいことになったな。


「誤解してませんか? あなたは指導する立場にいる。僕らはそれを見たいと言っているんです。そのあなたが実利を求めてしまうと、僕らは見ることが出来なくなってしまうんです、あなたの才覚を。素晴らしい才覚ですよ? 水と火の合わせ技で無詠唱で行うとか、今ここにいる者たちでそれが可能なのは、せいぜい二、三名でしょう。」


 この初等部に一番必要な講師は、分けへだてなくそして、惜しげも無く自分の才覚を披露して指導してくれる人だ。高額買い取りとかとは別の方向だよ。


「そんな講釈は自分が出来てから主張するべきでは無いのかね。君のはいまだに羽が付いたままだ………」


 俺の前でつばを飛ばして激高げっこうしだした彼の前で、俺は目の前の補足サブレィつついた。


 自分たちのことで、いっぱいいっぱいだった同期の連中も俺と講師の絡みが気になり、こちらに注目していた。いいから、お前らは自分のことをやってろ。プの方の姉の方が近寄り駆けたから、目線で止めた。目を付けられるのは俺だけでいいだろう?


 慣れているしな、今の俺の力が有って昔のあの時と同じ状況なんて、あり得ねー。

 そう思っていたら昔を想い出したらしく、目を背けている連中がいたわ……、身につまされてんじゃねーよ。


 手元の補足サブレィは、羽が膨らむように空中へと広がりだしたので小さな風の渦を使って纏め、残っている蹴爪と骨は指先から出した真空かまいたちやいばで取り除いた。若干残っていた血を同じように風で吸い上げ、凍らせる。蹴爪と骨と羽はそのまま手元の布で包み、別々に層庫へ。これで一件落着。と、ここまでがほぼ一瞬で完了した。文句はあるまい?


 講師のジョナンもそうだが、周りの同期の連中とか、目の前で手品マジックを見ていたようなそんな顔をしていた。


「ま、まさか・・・コイツが………学院長の言っていた冒険者?」

 その言葉が気になり、問い掛けようとして出来なかった。

 羽を焦がしたり、うまく取れなかったりしていた同期の初等部の連中が走り寄ってきたのである。


「凄ーい」「なにそれ? なにそれ!」「どーなってんだよ、これ?」


 驚きに目を輝かせて、俺にそのやり方を聞く者たち、本来、これは講師であるあなたが得るべき栄誉なのですが?

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