第26話 結界士と、結界破壊魔法の対抗戦 3-気まずい

「「「小っちゃ、可愛い!! そして、モフモフ!!」」」

「白い狼さんって格好いいね、どっちがウケ?」

「モフモフ、モフモフ、モフモフ…………」

 毛皮に突っ込んでモフモフとか言うのは、すいませんが、止めてください。

 ジョンが悩みまくっています。雪狼のボスのイメージがダダ下がりです。

 ジョンと名付けた時点で、俺にとっては愛玩犬ですが……、何か?



 それにしてもガルバドスン魔法学院は、四歳から始まる初等教育を経て、望むなら最高学府へと進むことが出来る。そのための飛び級制度の成果とは言え、本来なら初等科を今年卒業となる御年おんとし九歳になる方々の言葉は、既に成人している人に交じって働いているだけあって、はっきり言って衝撃でした。


 どっちがウケでどっちが攻めとか、脳みそ腐ってねーか? あんたら。



 もっと衝撃だったのは、何でこいつらが……? ということ。


 同じ年齢でなくて、ほっとするやら、残念やら……。

 でも、ここで出会うということは、ヒリュキたちと同じなんだろうか?


 そこまで思い至って、ハッとした。

 ルナは、ルナはどこだ……。


 俺が慌てて探したときには、同期のみんなに揉みくちゃにされてました。ダメだ、遅かった………。

 元々、ルナの元に集まった連中だもの。

 そういうことになるのは解ってはいたんだけど………、はぁ、逃げるか。



「て……」

 その瞬間を狙っていたかのように、両腕を捕まえてくる人物が二人ありました。二人とも表情が消えていて、すごく怖かったです。

「「何処に行く気かな? セトラ君。気付かないとは言わせないわよ」」


「えっ、何ですか。おねーさんたち誰なんです?」

 しらばっくれるに決まっているでしょーが。気まずいなんてものじゃない。


 何で、こいつらなんだー!




「ふぅん、知らないって言うんだね? じゃ、自己紹介しようよ。お互いの立場や近況・・も知りたいし、さ。ね、それくらい良いでしょう? 私はイクヨ。イクヨ・クロッタ。ク・ビッシの一級魔法士。火と光が得意かなぁ。じゃ、次はレイだね。」


 し、知らないうちに自己紹介が始まった。


 鑑定を使うまでもなく、俺は彼女イクヨを知っている。そう知っているのだ。

 前世での初等エレメンタリー教育エディタからの同級生腐れ縁高等ハイエンド教育エディタからは別の道へ進んだのだが、後々彼女をテレビでよく見かけることになった。俺のライバルみたいなバリバリの新進気鋭の気象予報よほう士として活躍していた。


 そして、例の真円の虹の時は現地に居た。

 興奮して喋っていたものなぁ、あの時。

 事実を知っている俺は居たたまれなかったけど、その後に見つかって飲みに行ったっけ。

 気象関係の話で盛り上がった気がする。


「私のこと知らないって言うと、怖いわよ? 私はレイ・コイトー。イクヨと同じク・ビッシの出身。うん、一級魔法士で火と風が得意で空間が少しかなぁ。」


「お、俺は、エト・セトラ・エドッコォ。スクーワトルア国エドッコォ領の領主の息子。風が得意かな?」


「「「「「は? エドッコォ? ぷぷーっ! なにソレ? 笑える!」」」」」

 異口同音で吹き出しやがって。俺だって、聞いたときは吹き出したわっ。


「貴族を笑うとか、良い度胸だ。これでも、喰らえ!!」


 少々ドスの効いた声で言い放つと、俺は懐に手を入れた。


「や、やばっ。」「あんた、貴族だったの?」「ありえねー。」「てか、さっき、国王とか言ってなかったっけ?」「え……マジ?」「さっきって、公子とか魔王とか宰相とか王子とか居なかったっけ?」

「か、風って言っていたよ。風の盾を展開しろよ」「風なんて集まっていないわよ」


 みんなの焦った顔を見れた俺は、やや満足して懐から手を出した。

 イクヨとレイ、それにジュウンの目の前に………………、ガラスの器に鎮座していた黄色の衝撃の前に地獄の静けさが満ちる。他にも居る女性魔法士は食い入るように、男性魔法士も目を輝かせている。


「喰らえとは言ったが、食うか?」

「「「「「「「「「「「「「「「「食う!」」」」」」」」」」」」」


 プリンの食べ放題が始まりました。


「ひ、ひさしぶりに食べたよ」「うわ、美味ウマっ!」「はぐはぐはぐ……」





「え~と………、あれ? あんたら知り合いだったっけ?」

 俺たちの会話を見ていたルナが、不思議そうに話しかけてくる。


「………、ま、ね。向こうの中等科ミディアの同期……。初等科エレメンタリーの頃のも居るか……、そういう奴ら。本当に何でこいつらなんだろ?」


 しかも、ほぼ全員が記憶取り戻しやがった。でも、俺の魔法は知らない。説明するのも億劫おっくうだし、黙っておくかな?


「これで、フラレンチ・トゥストだの、風呂だのって言ったらそんな関わり合いでは済まないよ。あたしたちでさえ、セトラの工事待ちだし、あんたの国(?)はしっかり作り込むんだろう?」


 そう言ってくるルナの言葉に俺は頭を抱えた。その通りだと思う自分が居たからだ。

 だけど、記憶を取り戻すことが良いこと尽くめとは思えないから、悩むようなことがあれば対処したいとは、思う。


 彼らの言葉の中に出てくる魔法の呪文とイメージは素直に俺の中に蓄積されつつあるから。





 さて、カクシの森で待ち伏せていた暗殺者やら、襲撃者やら奴隷商人やらの全員は、貴族を含めて、タクラム・チュー皇国と、魔王国と、パレットリア新国と、スクーワトルア国の要請により、ひとまず、結界設備の充実しているタクラム・チュー皇国に留め置かれることになった。

 そこで、領土侵犯の罪を問うことにしている。


 だいたい、大捕物に出て来るお偉いさんは、普通一人だろう? 複数の国の絡みとは言え、王かそれに準ずるものが出てくるなんて、誰が考える?


 俺一人でも、彼らなんて簡単に処理できたけど、タク・トゥルに言わせると、最初が肝心なんだと。馬鹿な貴族たちはどの国にも居て、「私を捕らえられるものならやってみるがいい」などと言うものだから、この際だから、全員で捕らえてしまおうという事になった。

「「「「私たちの前でちゃちな弁明が通ると思うかね?」」」」

 今回の関係国の王やそれに準じる人物の登場に皆、口を閉じざるを得なかった。


「やれやれ、茶菓子は満足して貰えたかな? ルナ、本題に入ろう。説明してやってくれ。」

 気持ち的に疲れたから、集まって貰った説明はルナにやって貰おう。


「じゃ、お休み。ルナ、後はよろしく。」

 今日はゆっくり休んで、明日実習だな………、お休みなさい。久々にエドッコォ領に戻って風呂に入ってから寝ようと「転移」した。


 ずしっ。
















「あぁ、眠っ。あれ? な、何で。お前ら、ここに居る?」

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