第19話 俺様、推参!
「「う………?」」
一瞬の転移ではあったが、距離は半端なく視界の転換に驚きつつ呻く二人の同行者。
「「ここは………?」」
頭を振りつつ、いま現在、自分たちの視界に写っている事柄を理解しようとする。
俺が選んだ同行者である、ヒリュキとタク・トゥル。
それと、予想外といえば予想外の同行者が………、魔人様ご一行。
「タクラム砂漠? 「「ですね」」」
言わずと知れた第一の使徒三名。
「なにしに来た?」
想定外の事態の進行に呆れた、俺の言葉が漏れる。
「ご挨拶ねぇ。あたしたちは別口よ、ここには報告に来ただけなんだから。」
シノブ・エドッコォ様はややふんぞり返って言い訳を口にする。
「別口? 報告? 誰にだ?」
嫌な予感がビンビンとする。
「ふふ、魔王様よ ♡」
「なんだと! うぉ、ヤバっ!」
もうちょっとで積乱雲のコントロールを乱すところだった。繊細なんだから、脅かすな。
スクーワトルア国で作った積乱雲共々、このタクラム砂漠に転移し、今は頭上で保持しているが砂漠の熱気で積乱雲自体は巨大化を続けていた。
「貴方たちだけで、話を通すつもりだった? それとも眼には眼、歯には歯で押し通すつもり?」
さすがだな、そこまで計算のうちか。
俺の転移魔法なら勝ち目はあったのだが、だが、それではあいつらと同じ野蛮人に成り下がるのは確かだ。
ヤルなら、逃げ場の無いところで、徹底的にぐうの音も出ないようにきっちりとケジメを着けるべきなのだ。前世での俺が中等科ミディアでの授業中に、いじめっ子にやり返したときのように、そいつが逃げ込んだトイレまで、ブチギレて追い駆けたよ、ハハハ。
「分かったよ。魔王様の話とやらを聞いてみようか? やっぱり、そういうところは
俺が感慨深げに話す言葉に、微妙な顔をしていたシノブ・エドッコォ様だったが……。
俺の言った言葉の内容に気付くとハッと辺りを見回した。
「………まさか。……君はセトラ………か?」
「いまさらですが……、はい。……ぐぇっ………」
母さんの小ちっちゃ物好きの体質を甘く見ていたな。結構な力で抱きつかれてしまった。
「懐かしぃぃぃぃぃ、小ちっちゃ可愛い!」
それはそれは、ひとしきり
「アレ? あんたがセトラで…………………、ぐあぁぁぁっ………………」
やはり、思い出したのか、なんか独り言を言っているのを見ていたら、血を吐いて頭を抱えたまま、沈没なさいました。
なにやら、顔が朱いです………ぐほぉ!
覗きこむんじゃなかった……アッパーが……がくっ。
「親父に迫ったらしいですからねぇ…………、第二夫人様、ぐぇっ…………」
朱い顔のままの母さんに、静かにクビを絞められました。
一瞬、白い空間が見えました。お花畑も……。
ヒリュキとタク・トゥルは、石像のように静かでした。
いや、ヒリュキが「南無南無」って唱えてましたよ。俺はまだ死んでねぇ!
どうにか、復活した俺とシノブさんの前に、天空より降って湧いたのが……、俺様? ……って誰?
「俺様、推参!」
どこの俺様だ? この小ちっちゃ可愛い魔王様………、はぁぁぁぁ、あんたか!
「……ねぇ、母さん。こちらの方は………?」
「寒いのと、雨がお嫌いな魔王様……よ?」
テンションの上がらない母さんに、「テンション、低いなー。いつものテンションは何処に行った?」などと、余裕ぶちかましている魔王の
あなたのその余裕も時間の問題ですよ? ねえ、ヒリュキ君。
「君はシャイナーか? 久し振りだなぁ……」
ほら、懐かしそうに、本当に懐かしそうにヒリュキが語りかける。その言葉に、小首を傾げたままのシャイナー魔王が振り返る。
「ほほぅ、人間界の王族にも、わたしの名は伝わっていたのか? ……………………うあっ? ………まさか、お前はヒリュキか? ということはコイツはセトラか!」
天敵を見つけた獣のように、睨みつけてくる。
「くくくっ、お久しぶりですな、シャイナー。君が魔王とは、今回の一件は
しかし、小ちっちゃ可愛いはずの二歳になったばかりの俺、ヒリュキ、シャイナーが一堂に会するとは………、誰かが、企画しない限り、あり得ない話であった。
そして、俺ら三人にはそのとんでもない企画をしそうな人物に心当たりが有りすぎた…………………、ルナなら絶対に今回噛んでいるだろう。一枚も二枚も上の、記憶が有るとか無いとか、そんなことには一切関係なく。ただ、面白いからという理由で、過去に何度もそういう被害に遭っているからな、俺たちは。
「その呼び名、まさか………………」
そして、ルナという呼称に反応したのはもう一人。タク・トゥルであった。
末娘とはいえ、その性格の奇矯ききょうさやガルバドスン魔法学院で起こした事件の数々は、まだタク・トゥルの記憶に新しい。
月の持つ魔力に例えられた彼女のそれは、「ルナ・・ティック・マジック」と呼ばれガルバドスン魔法学院の伝説になった。それをタク・トゥルは思い出した。
「どうかされましたか、タク・トゥルさん?」
「い、いや。ひょっとしたら、そう思っただけだよ。………セトラ君」
「ああ、なるほど。末娘さんのお名前はエテ『ルナ』さんでしたっけ? ……だそうだよ、『サン』サイド・シャイナー君?」
「あ………ああ、そうなんだ? タク・トゥルさん、その方のお年はおいくつになりますか?」
魔王と目される方からのその丁寧な言葉にやや愕然としながら、それでもその存在にある程度の敬意を含めた口調で答えを返す。
「確か、今年で十六になるはずです。」
「ヒリュキは、パトリシア嬢に、そして、君はエテルナ夫人にどうしても会わなければならなくなったようだね。」
「ああ、どうやら、そのようだな。」
魔王シャイナーが静かに頷く。
「もともと、そのつもりさ」
王子ヒリュキも、また決意を新たにする。
「おいたをした子供にはそれなりの
シノブの柳眉が逆立っていた。
「ひょっとして、これから行くところだったのかい? ん?上空の渦が綺麗な風の渦になっているな。君、今も
「ええ、シャイン君も……お久しぶり。」
今までの関係と、今思い出した中での関係とのギャップがあるものの、今はすることが有る。
『ああ、もしもし、魔王だ。タクラム・チュー皇国で良いかな? 例の件が確保できた。そちらに向かうがよろしいか? ああ、華美な歓迎はいい。直ぐに用事は済むからな。いつもの部屋に向かうぞ? 皇族の挨拶? ああ、分かっている、存分にするが良い。』
どこからか取り出した小さな鏡でタクラム・チューに連絡を取る魔王様。
「例の件ってなんだ?」
「ああ、君の捕獲のことだよ。請け負っていたのは以前のわたしだが、今は君に敵対するつもりは無いな。君は
「ああ、分かっている。その方がやりやすいしな。」
「さぁ、行こうか? シノブさん、水の渦を。コーネツ、土の渦を。ディノ、火の渦を。セトラ、君は風の渦を。わたしは光の渦を待機させよう。ヒリュキは、いつでも『瞳』で見ていてくれ。」
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