第18話 使徒、乾燥?or換装?注意報-5-関係

「セトラ君、ちょっと聞きたいことがあるのだが、いいかね?」

 戦々恐々としていた俺の心をさらに震え上がらせたのは俺の両親などではなく、別の人物で俺は虚を突かれた。


 第一王子のレビン様。いったい何を。

「いや、ユージュが君を先生と呼んだことに対して、少し話を聞いておきたかったのだよ。」

 うぁ、いきなり核心ですか? 


「はいはいはいは~い、あたしも聞いておきたいな。君、あたしを知っているでしょ?」

 シノブ・エドッコォが、勢いよく手を上げる。


「さて、わたしも聞きたいな、ヒリュキとはどういう関係なのかな?」

 コロナ王のとどめ。


 非常に不味まずいことになった。


「………、聞きたいことが山ほど有りそうなご発言ですな。」

 お三方含め、ほぼ全員が頷く。


 ヒリュキとユージュは苦笑いだ。


「僕としても、その説明責任を果たしたいところですが。……だが、断る。」

 その言葉で一蹴した。


「「「その物言い、後悔しないかな?」」」


 色めき立つお三方だが、俺にはまだ今回のこの件がすんなりと終わったとは思っていない。

 なぜなら、最初に王族のテラスに飛び込んできた近衛兵、アッイガイの投擲で死亡しているが俺は弾くこともカバーすることもしなかった。


 しなかった理由は簡単なこと、鑑定のスキルが自動で立ち上がったため。


「いきり立つ前に、体力と魔力の回復は済んでますか?」

 俺は、彼らの意表を突く。


 不思議な表情を浮かべたお三方はもちろん、ヒリュキやユージュまで確認をとる。

 虚空を見詰め、動きを止める方々。そして、再起動。


「あ、ああ、全快した。君はフラレンチ・トゥストに何を入れていたのだ?」

 レビン王子が俺の言葉に何か閃いたらしい。


「種明かしの前に、ヒリュキの報告は聞いていますか?」

 コロナ王に確認する。


 ヒリュキが頷いているから、彼の瞳で判別が容易だったようだ。

「ああ、報告は受けた。隔離もしているし、見張りもつけてある。だが、君はどこまで把握していたのかね?」


「最初に入ってきた近衛兵を見て、僕のスキルである鑑定が自動的に立ち上がったからです。……………、この国の人間では無かった。そんな人間が入ってくるという事は、他にも存在するはずです。攪乱かくらん、陽動という策をとるときには、ね。」

 感じていた不安を説明する。


 しかも近衛などという王族に最も近いところにいる武力に異物が存在する、そのことの方が無性に怖かったのだ。


 そして、それを導く者が居るという事、このスクーワトルアという国の中枢に。


「そうですね、宰相のタク・トゥルさん? ガルバドスンに嫁いだ娘さんのお子さんはお元気ですか?」

 俺が宰相に声を掛けた瞬間に彼の顔から表情が抜け落ちた。


「「床暖房」という新技術を利用して、城塞をそれこそ骨抜きにしようとしていたようですが大きな雷のお陰で阻止されちゃいましたから、焦ったのでしょうか? よく勉強されていましたね? 花丸をあげましょう」

 茶化すような物言いに周囲から俺に視線が集まる。ここで深刻なところを演出しても意味が無いと思ったからなのだが。


 俺の鑑定というスキルが成長したため、サブ画面が分離されていたのは記憶に新しいと思うが、気象魔法や転移魔法の使用により放出できる魔法力の増大により『偽装』そして、『偽装看破』を鑑定に連結していた。


 そのお陰で余計なことに気付いた。俺の鑑定も育ちすぎだ。


 以下のこと全てが鑑定による秘匿項目が導き出したことである。この報告レポートを目にしたとき、ヒリュキからのリンクが俺の鑑定に繋げられていることに気付いた。


 なぜなら、俺には絶対に気付けない事柄が混じっていたからだ。


 この国の宰相タク・トゥルの末娘である、エテルナ・ラン・トゥルはガルバドスン魔法学院に在学中に出会ったガルバドスンの一貴族であるシャレー・ド・レシャードに両思いになったものの貴族同士の婚姻という事でドタバタの騒動の末に、陞爵しょうしゃくして男爵の妻として嫁いだ。


 実際、盛大な式を挙げ、ガルバドスンでも貴族として生活していたタク・トゥルの末娘エテルナ・ラン・トゥル改め、エテルナ・ド・レシャードは愛娘が一歳と七ヶ月の時にガルバドスンの国境の向こうからガルバドスン魔法学院に留学していた、タクラム・チューの貴族シュッキン・ポゥに見初められたのである。


 この出来事は、ガルバドスン魔法学院の実績と名誉に傷を付け、スクーワトルア国からの最大の苦情を全世界に露呈することになった。


 皇族の在学、しかし、国外でありながら国内以上のその横暴な態度は他国の人間にも発揮され、その挙げ句に学院初の退学を受け、しかも行きがけの駄賃として一国の男爵の妻がさらわれてしまったことはスクーワトルア国の盛大なる顰蹙ひんしゅくを受けた。


 この一件から、学院は他国の不干渉を引き出すために、学院都市を学院の周りに築き、学院都市の外壁に一種の強力な結界を増設している。


 学院に通う生徒は、基本的に学院都市以外には出られない。

 外界との接点は無い。長期休暇は、学院長の目の前を通って転移の門が開かれる。


 事件の前まで、国と貴族の格としての差はガルバドスンとタクラム・チューは雲泥の差ではあるが、その差分を魔法学の研究に邁進し、大学を創業し、国内外から留学生を受け入れていた。


 そこに留学していたタクラム・チューの皇族シュッキン・ポゥは、既婚者である男爵夫人エテルナ・ド・レシャードを強引に親子共々、自分の立場を最大限に活用して留学途中に連れ去ったのだ。シャレー・ド・レシャードは、その時の怪我で、病に倒れたという情報が最後で、彼も消息が聞かれなくなった。


 そして、タク・トゥルと末娘との連絡手段がついえた。


 既に半年の月日が流れようとしていた。

 無論、タク・トゥルも無策では無かったが、子飼いの者の連絡が絶たれる事態が続くにつれ、タク・トゥルであっても焦りを禁じ得なかった。


 そのタク・トゥルの孫のパトリシア・ド・レシャードはヒリュキの許嫁いいなずけ候補だった。


 それが撤回され、タク・トゥルの末娘からの便りも途絶えたところにタクラム・チューからの使者がタク・トゥルにあったのだ。


 元々、タク・トゥルはタクラム・トーの人間である。


 タクラム・チューの求めることなど熟知していたのだが、今回は末娘の対応などもあり有効な対抗措置が取れないでいた。


 さっき、俺がヒリュキを呼び付けた際にパトリシアのこととその対応について耳打ちされたのだが、居所がようとして知れないことに苛立ちを募らせていた。

 だが、ヒリュキのこの『真実の瞳』の異能による解析は一本の太い線を描いていた。


『助けたい』、そして、『真実が知りたい』、そのために必要なものは、ただ一人の人間だという事だった。


『頼む………。俺の前に道をつけてくれ。』


『何故、そこまでパトリシア嬢のことを……。』

 僅か二歳でそこまでの感情を持つというのか。本当に不思議だった。


『俺にも分からん。ただ、助けたい。』

『………、分かった。風よ、我が友の声を届けよ、かの者の切なる願いを纏いて、この地に舞い戻らん。』

 俺の側に風が、幾つかの旋風つむじかぜと成って舞いながら刻を待つ。


 ヒリュキが自らの魔力と共に想い溢れる声を乗せる。

「パット、逢いたいよ。」

 ヒリュキのその言葉に、タク・トゥルはハッと顔を上げる。彼の顔に生気が戻っている。


「ヒリュキ様……」

 だが、その声はヒリュキの声を乗せた旋風の散る轟音に半ば吹き消された。

 そして………………………………。

















「…………、わ……風が……、え………、この声………。ヒリュ………キ……くん?」


 その声が聞こえたとき、ヒリュキとタク・トゥルはただ、静かに涙を流しながら、呟いていた。


「「絶対に助けるよ、必ずだ。」」


 そして、俺は二重に装転移を施したディノに雷を纏わせた。装転移によって真空へと変化していた場所にあった残滓は一瞬で気化し、そのエネルギーは出口を求めて圧力を高める。その暴力的な圧力は、風の空洞として俺たちの上空へと周囲の風を巻き込みながら、回転しつつ吹き上がっていく。それは怖ろしいほどの積乱雲を作り上げた。

 昼間の明るい太陽が隠されてしまうほどの大きさの雲だった。


「うぁぁぁぁぁ、なんだこれは……。なんなんだいったい?」

 親父のムーラサキが呻く。その渦の中心にいながら、見ているしか出来ないコロナ王や、レビン王子たちも同じ心境だっただろう。




 そして、その積乱雲は、消えた。


 唐突に……。



 明るい太陽に照らされて、親父や、コロナ王、レビン王子たちの唖然としていた顔は、失礼だが、ひどく笑えた。






 では、行ってくるとするか。ヒリュキと、タク・トゥルと、共にね。


颯転移テラスタ!」

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