第17話 使徒、乾燥?or換装?注意報-4-セーラ

「あ、あの~父さま? 今、第二夫人と言われていた方はどこへ行かれたのでしょうか?

 なんだか怖ろしい代名詞が聞こえたのですが?」

 魔王様って何だ? しかもそんなに気軽に会えるものなのか?


「あ~、そのうち戻ってくるから、そのときに聞いてみたら良いんじゃないかな?」


 丸投げですか?

 丸投げですね。


 あなたのいつもの手でしたね、それ。

 まったく、本当に懐かしいですよ。


「ムーラサキ……orz」

 初めて見たときは偉大? だったはずの国王様が膝をついて脱力していた。


「お前はいつもそれだ。全く成長しとらん。ランジェの苦労が目に浮かぶわ。」

 コロナ王とは長い付き合いらしいからどちらもズバズバ斬り込んでいく。


「お言葉ですが、今ランジェをアタフタさせられるのはセトラしか居ませんよ。」

「と、父さま。それは絶対に父さまには負けます。」

「その言葉、今朝のランジェを見ていた俺としては、断固としてお返ししよう。」


「お前たち………、ランジェ、いやセーラに何を仕出かしたぁ!」

 激高する余り、母さまの愛称がポロリ。今度、それで母さまを呼んでみよう。

「「別に、何も……(=₃=)~♪」」

「うぉのれ、ムーラサキの子はやはりムーラサキだったか!」

「それだけは勘弁してください、コロナ王……orz」

 予想外のダメージを喰らった。


 精神をゴリゴリと削るような、不穏当な言葉に硬直し掛けたが作業もあと少しで終わるため、気を散らしている場合ではなかった。


 それにしても、ディノの本来の大きさというのはこちらの世界の成人女性より僅かに大きいかと思うくらいの比較しか出来ない。

 そう大体、一六五セチ、五五キルぐらいのややスタイルの良い肩までのショートボブ、問題の双丘は申告通りヒルサイズで、あちこちに火種をかないようなレベルに抑えられていた。


 あの三〇セチ角の本体はどこに消えたのだろう?

 生命の神秘か………、あ! 腰か! ん、ん、ゴホン! ヤバっ、 怪訝けげんな目でディノとコーネツに見られていた。


 さて、それではディノも無事に抽出し終えたし、ヤバイ代物はほとんど収納した。そろそろ、次の段階の消滅マジックと行きますかな。


 と、その前にさすがに腹が減った。


 こちらに来る前に、セーラことランジェ母さまに渡されていたお弁当を用意する。

 工事が終わったら食べる予定だったものだ、それを俺は層庫から昼飯が山盛りになっている一皿を引き出した。一瓶のポットとともに。


 何せ、床暖房工事は途中で止まるわ、厄介な連中の相手はするわで、すっかり昼飯を忘れていた。

 やっと、ドロドロの離乳食からランクアップしたのだから、美味しいものって食べたいよね? 退治途中のディノの巨体の中程に層庫から石造りのテーブルと椅子を取り出す。

 沈み込まないように六畳ほどの石畳も用意する。


「あぁ、なんですの。その美味しそうなパン? ですの? わたくしにも分けてくださいませんの!」


 プの方々も戻ってきたという事は、ヒリュキも戻ってきたという事。声のした方に目を向けてみれば、初めて見るらしい俺の弁当にテラスからの視線が釘付けになっていた。


「ム、ムーラサキ、あ、あのパンは、いいい一体何に包まれているのだ?」

 コロナ王ですら震える指先で俺の弁当を指差しながら、父さまに詰め寄っている。

 というか、俺の弁当よりも美味いものを食っていそうなものだが。


「コロナ、落ち着いてください。アレは、セトラに指導されて涙目でランジェが作っていたパンで、確かフラレンチ・トゥストとかいう物です。」


「フラレンチ・トゥストだと………、ランジェが作ったというのか? あんな不器用な妹に、あんな綺麗な色合い、そして良い香りのする食事が作れるなんて。」


「コロナ王…………、仮にもご自分の妹に掛ける言葉ではないような気がしますよ」


「あら、美味しそう。ユカリも涙目って言ってしまったらかわいそうよ、ランジェが。」

 シノブ・エドッコォが戻ってきていた。

 物騒な代名詞の方との会談は終わったのだろうか?


「アレを一生懸命に作って、味見する前にそれを出来る端から層庫に入れられて見ろ……、誰だって涙目になるわ!」

 ムーラサキの言葉を聞いたシノブは「ああ、それなら納得ね。」と頷いていた。


「パンは有るだけ使いましたから、また一きん角食かくしょくを作ってからですかね。だって、離乳食には最高のものですよ、これ。作り方も母さまでも大丈夫なくらいには簡単なものですし………。」


角食かくしょくって、今言ったか?」

 そう父さまに言われて、俺はドキッとした。まずい、前世でのエゾッコ言葉が出てしまった。

「なんで、タクラム・ガンの名店の食パンの名前を知っている………。」

 こけた。

「し、知りませんよ。偶然じゃないんですか?」


「あ、あのお、お、叔父おじ様? わ、わたしにも一口頂けませんか?」


 いきなり、耳元で発せられた言葉に硬直してしまい、無意識のうちにエドッコォ領原産の、ブドウの木の細工物で有るフォークに刺したパン一つを、反射的に差し出していた。

 そう、俺を叔父おじ様呼ばわりしたネコ耳プの妹姫のプ・リメラ姫に、だ。


「はむ、む……………、柔らかくて甘くて美味しい。」

 差し出されたパンに意を決したかのように思い切って囓りついたリメラ姫は、知らなかった美味しさに既に忘我の境地で有る。


 俺は俺で叔父様という呼びかけに凍っていたのだが。


「な、何故………、従姉妹いとこに叔父様と呼ばれるのだ?」

 呆然とした俺の声を聞き取った兎耳のスキルを持つネコ耳の姉姫様は、間違いを正した。


「だって、お祖父様のご兄妹のご子息ですもの。わたくしのお父様の従弟という事になりますわ。ですから叔父様なのですわ。わたくしもひとつ頂きますわ。はむっは………む、本当に柔らかくて甘くて美味しいですわ。」


「何故ここに居る?」

「え……、シノブ様に転移して頂きましたわ。」

 元魔人のではなく、現魔人でもある女性に対して様付けとか、どうなっている。


「だって、叔父様のお母様ですもの、当然のことですわ。」

 だぁぁぁぁ、叔父様言うの止やめてー!


 シノブ・エドッコォ様がテラスで物欲しそうにしていた皆様を次々と転移させたため、ディノの体の上で昼食会が開かれてしまった。


 もちろん、父さまと第二夫人様もやってきた。

 そして、第一夫人のランジェがいつの間にか昼食会に参加していた。


「あぁぁぁ、これよ。この味だわっ。この味だったのぉぉぉぉ!」

 人が見たら腰が砕けそうな物言いで妙齢の女性が叫んでいた。

 お預けを喰らっていた第一夫人のセラ・ランジェ・エドッコォ。

 涙を流しながらフラレンチ・トゥストを頬張っている。


 コロナ王が俺を見る目が痛い。


 皆様の足元は、人に知られずに『床暖房』の工事で必要のなくなった石を堆積させ、六畳どころか差し渡し三〇メルほどの直径の石垣を積んでいってある。

 相転移のレベルが上がったため、層庫からの直接の相転移が可能になっていた。


 ゲームと違って、レベルアップの時のファンファーレが無いものだから、鑑定するか、知らずにやってしまって本人ですら驚くことになるのである。


 ディノを覆っていた氷の壁は装転移で固め、二重の壁を形成していた。

 これは、後の消失に使う仕掛けだ。既に石垣は、ディノの皮一枚を除いて地面にまで到達しており、この石垣を残すプランも考え済みだ。


 その石垣上部の石畳に設置されたテーブルは六卓を数え、それぞれにホカホカのフラレンチ・トゥストが山盛りになり、立食形式でパクついている。

 ポットの紅茶は既に飲み尽くされたため、シノブ・エドッコォが転移し、ワインの樽と共にアトリを連れてきて、給仕させていた。

 突然の転移と、王族に対する給仕と聞き真っ青になっていたアトリだったが、目の前に積まれているフラレンチ・トゥストの魅力には勝てず、ワインを注いで回った後は、お姫様たちと歓談を始めてしまった。


「ふわっ、はむはむはむはむはむ…………。」

「ふふっ、美味しいですわ。」

「これを叔父様が考えたなんて……。」

「叔父様って、誰です?」

「セトラ様ですわ、ぽっ。」

「姉様には負けませんわ。」

 なにやら不安を煽る言葉が飛び交っているような気がするのは俺だけか?


 コロナ王を筆頭に第一から第三王子とその奥方と、の子供たち。

 それに、エドッコォ家の家族と、第一の使徒の魔人の皆様………、興が乗って話が盛り上がっていた。いいのか、それで。


「あ、おじさんとおばさんだ。こんにちは、おひさ「ヒリュキ、ちょっとこっち来いや!」? うん、わかった。」

 しまった………、一国の王子を呼び捨てのうえ、呼び付けてしまった。

 つい、昔の癖が……。


 周りが引き攣つっている中、ヒリュキは「呼んだかい?」と俺の元に近寄ってくる。


「す、すいません。お呼びたてしてしまって「気にしてないよ。ボクと君の仲じゃないか?」………。」

 そういう言い方って……、誤解が深まるばかりじゃないか……。

 気付いて言っているんだもんな。


『ヒリュキもユージュも俺の家族にあんな挨拶は止めてくれ。前世前の記憶ことが蘇ってきたら、ややこしいことになりそうだからな。』

 内緒話の音量で想転移する俺にヒリュキが答える。


「いや、それは少し遅かったかも……、呼び付けた時点で不審に思っているぞ。なにしろ、いままでそんなに深い交流はしていない、というか今日はじめて逢ったよね、ぼくたちって。」


「うああああ、そういえばそうだったかも、だった!」

 文章になってねーよ、俺。

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