第16話 使徒、乾燥?or換装?注意報-3-丘二つ

 もやが爆発的に広がると同時に、城下の魔物たちが、ミイラ化していく。が、それらは全てもやの中。

 城の開いている隙間からも中に流れ込む始末。そのもやが意外に冷たいことに気付いた兵たちが競って隙間を閉めていく。ディノの巨体も覆い尽くさせて・・・しまった。

 これで、消滅マジックにしてしまえる。

 後は、盛大な炎を見せ、爆発させることで決着がつけられる。

 ある意味、壮大な有耶うや無耶むやだ。


 全ての水分を使って、もやに変えているのだ。

 九匹居た走竜たちのうち、前方と中間の六匹は既に生きてはいないが、後方に居た三匹はその生命力で生きながらえていた。


 周りの仲間たちは既に凍りついており、彼らはギリギリで命を拾ったものの回復は簡単にはいかず、苦鳴を漏らしている。

『グォオオオオオオ、ディノさまぁあああ』


 ディノが存在する限り、彼らには希望が残る。


 だが、そうはいかん、ディノは殺す。


 そう、思ったところに、

『ディノよ、主様に何か話すことがあったのでは無いか?』

 コーネツの思念がディノの核にも届く。

 ビクッと震えたそれは、その鼓動を言葉に変えて、何事かをコーネツに伝えていた。


 俺はその話が届くのを待ちながら、どんどん双転移ダビスタしていった。


 頭から転移していったのだが、スプラッタになるのかと思いきや脳みそは無く、目玉も飾り物、牙や鱗も作り物だった。これではブレスは吐けんな。材質は鑑定した通りのモノだったのだが、これはおそらく組み方を間違えたのだと思う。積み上げ方と言ってもいい。


 ディノの本体は心臓の場所に位置し、戸惑ったかのように小刻みに震えていた。


『ディノよ、種族の長としてでは無く、第一の使徒の仲間として進言しよう。主様にお答えするでござる。』

 その物言いに若干の戸惑いがあったのだが、その戸惑いすら極小のものだとディノの言葉に吹き飛ばされてしまった。


 なんと言っても、ディノが攻城型走竜部隊を特攻させたときの言葉は『「ふん、貴様に言われるまでもないわ! 『アッイガイ』、貴様そんなとこに居ると巻き添え食らわすぞ! ガッハッハッハッ、行けい! 第一の使徒『ディノ』様の攻城部隊全速前進だ!」』だったが………。


『あ、あるじさ……ま、お、お願いが……あの、ありま…す。わ、わたくしの本体……の近……くの青く染まった塊……との結合をゆ、許していただけ……ないでしょう……か?』

 という、余りにもか細くビクビクしている声に、つい『この声、だれだ?』と突っ込んでしまった。


『主様? ディノには名前にドリューと付いていることで、お分かりでござったのでは? それがし係累けいるいにてござる。』


 コーネツの困惑した言葉に、

『確かに、気になっていたよ。だけど、ここまで変わるとは……………って、前例がいたね、アッイガイもそうだっけ………。 まぁ、いいよ。許可しよう。』

 第一使徒って言うのは、本当に魔人なのか?

 アッイガイみたいに人妻だっていうなよ……。魔人で人妻で、前世でのお袋って話なんていうのは、マジ有り得ねー。


『ディ、ディノ様?』

 生き残っていた走竜たちの目が点になり、愕然としている。どうやら彼らも知らなかったらしい。南無南無~。


『ディノよ、これに懲りたら飯のたびにドカ食いするのは止めたほうが良いでござるよ?』

 コーネツの哀れみの眼差しは、ディノの隣で見ていた俺でさえ、心が痛かった。


『す、すいませ~ん。』


 なんてことをやっている合間にも層庫の中に元『ディノニクス』の肉が降り積もる。データをタブレットで見てみると、タクラム産の竜頭りゅうずというのが多い。


 しかも本人(?)はどう鑑定してもメスに属しているのに、タクラム産の竜頭りゅうずのほとんどがオス種のモノだった。メスがオスを食うというのはある意味激しいものなのだが……。それでも、これはチと違うと思う。


 それに何らかの暗示を掛けたうえで呪物化されていた。どうやら、どこかで『ディノ』の体質を知ったタクラム連合国の誰かに、計画的に魔人化されていたようだな。

 でなければこんなに悪意を込めた竜の頭だけ食ったりしないだろ? 割合的に。


『お前、竜頭りゅうずばっかり食っていたようだから、意思というか心というか、半分以上乗っ取られていたみたいだな。』

 鑑定の結果を教えてやると、『ディノ』も『コーネツ』も不思議そうな顔をしていた。


『いや、主様、某どもも体調に気をつけているため、同じものばかり食することはしないでござるよ?』

 気が付かないというところにタクラム連合国の誰かの悪意が入っていた。


『じゃ、気付かないほどのサイズにカットされていたか、偽装されていたか、だな。』

 俺の鑑定は、元の個体までデータとして引き出せるようになっていた。また、鑑定のレベルが上がったか?


『問題は、誰がその計画をタクラムに持って行ったかという事だが。…………ふむ。ちなみに換装ユニット岩団ガンダ〇なんて格好いい名前は誰が初めに言い出したんだ?』

 前世的に言っても、厨二的に言っても、かなり格好良いモノだった、俺的には。


『え……………、誰だ………っけ。最初に言っていたのって、確か『彼』もそのあだ名は格好いいななんて言っていたような……『そいつだ!』…って、あれ何の話でしたっけ?』


 『ディノ』の回想の中に出てきた『彼』は俺と同じ感想を持った。

 しかも、『ディノ』に対する害意と何らかの識別か鑑定能力を有しているという事を鑑みるに、その『彼』は転生者である可能性が高い。


『そいつとは、どこで会った?』


『タクラム・ガンの初代皇帝『ティンギーズ・バーン・シャ・藤トー・ノブ』、今から二〇〇年前のヒト族。八五歳で死んだけど、わたくしには優しかったですわ……』

 ディノの言葉鼓動が優しい波長を刻む。なるほど、恋仲だったか?


『ふむ、ディノ。お前のそのときのサイズは?』

『…………、エッチですわ。』

『ふむ、Hという事はHILLくらいは有ったのか。』

『…………、そりゃ丘くらいは有りましたとも! 二つありましたわ。』

『丘二つか、ふぅむ、それは大きいな。』

『……………、主様もディノも噛み合っているようで噛み合っていない会話でござるな。』

『『え? …………? あ、そっちか!』』

『二人とも、気付くのが遅いでござるよ。』


 全く勘違いにも程がある。


 俺はディノの体の大きさや高さを聞いていたのだが、ディノ本人は自身の体の大きさだと受け取った。


 つまりはスリーサイズのこと。


 Hと言うから丘くらいの高さがあったのだと俺は勘違いし、本人はそんないやらしいことと勘違いした。

 丘二つとは、双丘のこと、つまりは女性のバストを意味する。



「何やっとんだ、あいつら?」

「うふふ、ああいう勘違いな言葉の会話に発展するところなんて、やっぱりあなたの子って感じよね?」

 聞こえているぞ。バカ親ども。


「でも何で、こんなところに居たの? 間違ってこの城と一緒に潰してしまうところだったじゃないの。」

「こんなところとはご挨拶じゃのう……。」

 何気にコロナ王が凹んでいた。

「ムーラサキに勧められたのじゃ、オヌシたちのお陰でまだ工事は半分ほど残ってはいるが。『床暖房』という新技術じゃ。この玉座の間も今までとは比べものにならんほどに暖かくなっておる。火モグラたちも大活躍なのじゃ」

 コロナ王が我が事のように話を積み上げる。


「『床暖房』? どっかで聞いたような言葉ねぇ。でも、こんなに部屋が暖かくなるなんて。良いわね。ちょっと相談してこようかな?」

「ま、まぁ、恩を売っといても損はしないわな。」

 誰に相談に行こうというのかは知らないが、適正価格での販売を希望しますよ。


「じゃ、ちょっと魔王様のところに行って話してくるわ!」

 そう言うと、シノブの姿のまま消えてしまった。


「……………、何ですと?」 

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