第14話 使徒、乾燥?or換装?注意報-1-待った

 城下には氷と死の世界が広がり、生きている者など居ないかのような状態だったのだが、その中でも、あの雹の空爆の中にあって生き延びていたのはカラス執事のアッイガイ。


 さすがは魔人だ、だが、


「じゃあ、さよならだね「ちょっと待ったぁ!」、え……何? あ、父さま、どうなさったんですか?」

 左手の平を前に突き出して魔力を高め、雹で構成した弾丸で決着ケリを着けてしまおうと思ったところに親父のムーラサキから、待ったが入る。


「いや、魔人というのは、こんなにも力の無い存在だったか? いくらお前でも最初の兵士は救えなかったようだが、それ以外に被害が無さ過ぎる。今、城門のところに王子たちを応援として行って頂いているが、魔人が二人も居てこんなもので済むはずが無い。」

 父さまがそう言うが、城下をしっかりと確認して欲しかったので静かに告げる。


「えー、そうですか? あれだけの魔物が城を襲っていたらどうなっていましたかねぇ?」

 やや、棒読みなのは仕方あるまい。城下の一面の小麦畑を埋め尽くす勢いで、魔物は暴走し、かつ陣取っていた。とても、被害が少ないというそしりを甘んじて受ける気はさすがに無かった。


「だが、なぜ、この城の一番堅固な城門に突撃してきた? この国の隣にあるガルバドスンが水の流通という命綱を握ってこの国に圧力を掛けてきていたのはコロナ王も周知の事実だが、こちら側とは逆の国境には広大な砂漠を抱えるタクラムという連合国が有る。タクラム・トー、タクラム・カー、タクラム・シィ、というようにタクラムを国名の前に付ける少々特殊な国々がある。十数個もの国の集合体だ。そのタクラムを統治している三国の中の一国、規模はこの国よりも大きかったタクラム・ガンという国があった。そう、あった・・・のだ。その国は、一人の魔人によって、滅亡したよ………。そこに磔になっている「アッイガイ」によってな、………それも半日も経たずに。」


「詳しいですね。まるで、講釈師見てきたような、ですね。」

「ああ、意外なところから情報がもたらされたから、見ていたよ。魔人の後に入ってきたタクラム・チューの国王の姿もな。」


「その国の第三王子は、当時、もう二十年ほど前になるが、我が国スクーワトルアの魔法学校に留学していた。その襲撃の時に、その国と我が国を結ぶ太古からの契約の証の窓だけが作動していた……。スクーリンと言うらしい。この王城では無く、神の雷を放つ要塞の方にあったそれによって情報はもたらされた。」


「タクラム・ガンという国は、人も土地も温暖でそして、豊穣だった。 だが、タクラムの中で台頭してきた国、タクラム・チューに睨まれ、狙われてもいた。川で魚を捕っていたら、タクラム・チューの魚だと言われ、国境を越えた樹の枝払いをすれば、樹を傷つけたと言い、狩人が迷い込んだから、自分たちが捜索するからと許可も得ずに勝手に国境を越えて来るようなやからにな。 そんなかれらが、魔人との戦いの後に入ってきて、一緒に破壊を繰り返していた。 残ったのは二人だけ……だ。」



 コロナ王は床から立ち上がり、そう告げた、俺に向かって。

「そう、見ていたのだよ。彼は………、既に手の届かない祖国の全てに対して。当時のわたしも若かったよ。立ち入り禁止の区域に堂々と彼と共に立て籠もるわ、あちこちに情報の伝手を送るわと。あとでコッテリ絞られたよ。」


「………あ~、見ていたと言われましたか?「うむ!」そのタクラム・ガン国の第三王子なる『彼』が?」

「うむ!」

 コロナ王の言うタクラム・ガン国の第三王子という『彼』と目の前に居る俺の親父がどうにも結びつかなくて困った、なにしろ前世でのチャランポランな彼を知っているから尚更のことに。


「え~、マジでー?」

「マジだ。俺の祖国は既に無いから継承も出来ないが、復興することは可能だぞ?」

「え~、いらないですよ。」

「む、薄情なヤツだな、さっきお前が宣言していたじゃないか。王になるって?」

「いらないですよ、復興なんて、面倒くさいもの満載じゃないですか~?」

「ハハハハ。ムーラサキ、自分がなりたくないから押しつける気満々だな?」

「え~い、じたばたすんな! もらっとけ!」

「結構です!」

「そうか。「ホッ……。」、ま、もう遅いがな。」

「そうだな。」

「え………、な、何でですか?」

「俺のカミさん、つまりはお前の母親だが……。」


 嫌な予感がひしひしとする。

「……このコロナ王の……「娘?」、違うわ。落ち着け馬鹿モン! 娘だったら年が合わんだろうが、このコロナの嫁さんがカリーナという。俺の姉だ。「え゛っ?」異母姉弟だがな。」


 自分が所属している国の王様を呼び捨てにした段階である意味、関係が分かった。

 この王様とのというより、プの方たちとの関係が………従姉妹いとこか?

 ということはもちろん、ヒリュキもユージュも?


「………マジで~?」

「マジだな。」

「おう、マジマジ。で、俺のカミさん、エト・ランジェ・エドッコォだが正確には、エト・セラ・ランジェ・エドッコォになる長いんで、普段は使わないな。お前とも被るし。第一王位継承者だ。「はぁ………、えぇっ!」、遅いわ! コロナの末の妹だ。 この国で領地を持つ貴族に嫁いだ場合だけ王位継承権が残る。血縁の関係だな。第二位がそこに居るレビン王子だ。」


 そんなことをいきなり聞かされた俺としては、あごを落とす以外の何が出来ただろう。

 マジでというか、なんということでしょう、だ。

 あのしっかりし過ぎるくらいしっかりしていた母さまが王族だったという事もびっくりだったが、王位継承権を残しているとは。


 思わぬ話にぶっ飛んだが、「はぁ……だから、あなたが狙われるのですよ、ユカリ。」という言葉が静かにその場を支配した。


「え……? ユカリって誰?」

 とんでもない方向からの静かな言葉に、少なくとも俺は硬直した。

 誰という以前の問題だった。一番身近なところにその名を持つ人物が居たからだ。


 前世での俺の親父、江戸エトユカリ。だが、その名を口にした人物は魔人だった。カラス執事の魔人が変化へんげしていた。

 キャリアウーマンのスーツを着こなす烏丸カラスマシノブという名を持っていた女性だった。

 鑑定で分かった事はもう一つ。結婚していたよ、人族と……。


 前世での名は、江戸エトシノブ。おいおい、家族が揃っちまったよ。


「……父さま? こちらの派手派手な人? は、どなたですか?」

 俺の態度に、ムーラサキ父さまは諦めた様子で告げる。


「何故か気に入られてしまった魔人のカラスマ……で。」

 本人も納得がいかない様子。


「第二夫人だ、アトリの姉でもある。変装?の手練れで各国の動向を調べている。」

 へぇ、ということは、アトリってオバ…………はっ、さ、寒気が……。


「は………えっ、えぇっ? 魔人じゃないんですか?」

「魔人だよ、それこそ大マジで……。」

「危ないじゃないですか。」

「危なくないわよ、失礼ねぇ。」

「それよりも、何故その姿になれた? いまは無理だって言っていたじゃないか?」

「三人揃ったからよ。」

「三人? って、使徒が三人?」

「そういうこと。誰かさんが、一人を手に入れちゃったからね。」


 そんなことだったとは露知らず、俺は、【氷柱アイス・ピラー】に磔られていたはずの魔人「アッイガイ」、もとい、エト・シノブ・カラスマ・エドッコォに聞いてみた。


「第一の使徒の使命とは、なんなんだ?」

「魔王様からの指令による情報収集。およびチョッカイ? ただ、いつもはチョッカイで人間たちは壊滅するから、あたしら以上が出張でばることはほとんど無いねぇ、ただ、今回は二人だったから魔力量的な不安はあった。一人は二年前に姿を消して以来、消息不明だったしねぇ。」


「あたしら? 三人? でいいのか?、名前は?」

「……空と陸と地中の三人で「カラス執事族のアッイガイのあたし」、「換装ユニット岩団ガンダ〇ディノ」、「エンドリューのコーネツ」。」


「ああ?」

 何だと! エンドリューが何かは知らないが、コーネツという名には覚えがある。

『二年前』という数字にも、だ。


『コーネツ、本当なのか?』

 現在も王城の中に居るはずのコーネツに土を媒介にした秘匿通信を掛ける。例の暗号通信だ。下手に想転移して、傍受されたら説明が難しくてかなわないからな。

 想転移のレベルが上がるまでは我慢我慢。まさか、念話パシスと混線するとは。

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