第10話 子供は暴風《かぜ》の子、嵐の子2-執着心

「クカカカッ、いいぞ、お前たち、そのまま溶かしてしまえ!」

 カラス執事の甲高かんだかい声が響く。うるさいヤツだ。


 王城にある王族方の応接の間のテラスに出た俺は、そのテラスによじ登ってくる縦横二~三mくらいの巨大なスライムに目を奪われた。

 某ゲームに出てくるようなはぐれス〇イムのような灰色の体と形、だが、体の下で上がる何とも言えないくさにおいが強烈な酸で石畳を溶かしつつあることを教えていた。


 既にテラス全面に存在し、圧倒的な量の魔物のゆっくりと浸食する行為は生きながら食われることを連想させる。それを見ていた王様や王子様たちや、なめ猫姫たちもこの後の行く末を想像し、絶望に染まり蒼ざめていた。


 ただ、ヒリュキやユージュは別のことを一番に危惧していた。


「…………………………」

「ククカカカカ、言葉も無いようだな、圧倒的な力にひれ伏すがいい!」

 一方、無言で立ち尽くした風情の俺を見て、風で拘束したままのカラス執事アッイガイが哄笑している。

 ……だが。


「知らぬがほとけとはよく言ったものだ。やり方を間違えたな……」

 ヒリュキが魔物で一杯のそのテラスを見て、ぼそっと呟く。

「仏? 仏とは一体何なのですか?」

 耳のいいプの方かたの一人、リメラ様が疑問を持つ。

 そういえば、神は居るが仏が居るとまでは聞いていない。


「あ~ぁ、やってしまいましたね。最悪です……。嵐が来ます……。」

 ユージュがヒリュキに賛同しながら、今後の展開を想像しガタガタと震えていた。

 失礼なヤツらだな、人のことを化け物みたいに言うなよ。

「こんなに良い天気なのに、嵐ですか? ふざけないでくださる?」

 もう一人のプの方、プ・リウス様が首を捻る。


 今世でも血液型というのがあるのかはまだ知らないが、前世での血液型はAB型。天才型とも、偏屈へんくつ型とも言うアレである。

 しかも、こちらの世界には無いかも知れないが前世では星座占いというものがあり、乙女座と天秤座のほぼ中間点での生まれにより両方の資質を持つことになった。夢想家でありつつ、超現実的というそれは偏屈な性格をさらにねじっていた、それこそ天然パーマのごとく。

 まぁ、気象という現実に魔法を掛けようという気象魔法士をやっている時点で、俺も相当なカブキ者だとも思うが。


 ゆえに俺は自分がこだわったモノに対しての、愛着心というか執着心というかのレベルが半端なく高くなったと自負している。とくに、手こずったが良い出来に仕上がったモノなどには特に格別な思いを持つことが多い。


 そして、ヒリュキとユージュの二人は前世において、常に俺の近くに居たのだ。

 この偏屈な俺の性格をしっかり把握していた。彼らは、俺の性格に振り回された被害者でもあるからな。

 その上での言葉だ。

 ここまで言えば、それが何を意味するかなんて一目瞭然わかりきっているだろう?


「フフフフフフフフ……。」

 ここまでのお馬鹿さんが居たのだと、たたえてあげたいよ。ねえ、お馬鹿さん?


「お、おま、お前……何を?」

 哄笑しまくっていたカラスが俺の発する空気で金縛りに遭っていた。


 ゴオォォという風の音が響く。「風よ」とポツリと言い、相転移をある場所へと繋げた。と、同時に想転移パシスタをユ-ジュに繋げる。


『ユージュ、風で壁を造るイメージを、ヒリュキ達を頼む。』

『はい、先生。お任せを。』

 瞬間、俺たちの居るテラスが白く冷たい空気に覆われていた。

 否、俺は層転移クラスタを発動し、ユージュは壁?を創って保持していたから別だが。


「うわぁぁ…」「きゃぁああ…」

 誰もが叫ぶ。その得体の知れない現象を初体験して。 

 そう、俺とユージュを除いて………。

 やがて、その有り得ない現象は唐突に終わる。相転移イコスタを止めたから。


「?…………---」

 スライムは既に凍っていた。比喩でなく。物理的に。あっけないほどに。

 そして、スライムを凍らせた空気は比重に従い、階下へと流れていく。

 雰囲気的にはドライアイスが流れるようなものというか、そのものだが…。


 風を発動し、相転移イコスタを繋いだ先は、宇宙。

 この世界を形作る中に宇宙という場所は存在しないのかも知れないが、風はどこまでも自由だからな。取り出したのは絶対零度。何もかもが凍りつく温度。

 それが落ちてきた。白く冷たい空気となって。


 さて、そのドライアイスが階下に流れ落ちると、戦っていた兵や魔物たちも息苦しさに一時戦いをやめ、不安げに辺りを見回す。

 そして、魔物と戦っていた城の兵たちは自分たちの護るべき王城に巨大なスライムが取り付いているのを見てしまう。


「あぁ………、王様……」

「ヴオオオオオォォォォ!!」

 兵たちは絶望に駆られ、魔物たちは意気軒昂になった瞬間、スライムが粉々に砕けた。


「…………、はぁ?」

 兵や魔物そこに居る全てのもの達の思いがそこに集約されていた。


「な、なにぃ? 何をしやがった? 俺の切り札が!」

 白く冷たい空気の無くなったテラス。そこに居たのは、余裕もへったくれもなくなったカラスが、ただ喚いていた。


 スライムを凍らせたのは風と転移を用いたダウンバースト。


 スライムを穿うがったのは、床暖房製作の際に再使用する必要の無かったり抜かれた何十もの石材だった。

 俺のスキルにある指弾しだん(石や鉄の弾などを指で弾いて飛ばし武器とする技術、チョーク飛ばしともいう?)によるものだ。


『ヒリュキ、ユージュ、後ろは無事か?』

 想転移で後ろに居るであろう者たちに繋ぐ。

『はい、先生。風が思い通りに動いてくれました。みんな無事です。』

『そうか、ちゃんとお礼を言っておけよ。ここならみんな分かってくれるからな。』

 この世界は、きちんと精霊が存在する。俺たちのステータスの数値は彼らからの祝福だからな。


『ですが、先生……、ダウンバーストですか……?』

 呆れてやがる。

『ユージュ………、俺は壁って言ったはずだが? うず創ってんじゃねぇ!』

『グッ……、と、咄嗟とっさだったので、イメージが渦になっちゃいました……。』


「父様、王様に兵たちを城内に戻すよう、進言を。これから雨が降ります。凍りつきますよ? 大事な人材なのですから。」

 親父様にそう告げた。途端に息を吹き返したのか、第一の使徒アッイガイがざける。


「雨、雨だと。不可思議なことを言う。だが、ここなら、声は通る。『ディノ』、勿体もったいないが貴様の出番だ、でかいのぶちかましてみせろ!」


「ふん、貴様に言われるまでもないわ! 『アッイガイ』、貴様そんなとこに居ると巻き添え食らわすぞ! ガッハッハッハッ、行けい! 第一の使徒『ディノ』様の攻城部隊全速前進だ!」

 アッイガイだけで無く、複数の大きい気配が鑑定のサブ画面にあるマップの中に存在していたのだが、城の前面で展開されている戦場の最後方で動きがあった。何かが速力を上げて近づいてくる。しかし、第一の使徒って二人? まだ居そうな言い方だな、おい。


 ドガドガドガっと地響き立てながら翼の無い竜が走ってくる。

「走竜だわ……。」

 プの方のどちらかが呟いたのが聞こえた。


 その走竜が背中に巨大な丸太のようなものをくくり付けて走ってきていた。

 兵たちを陣に引かせるための銅鑼が鳴る前に巨大な竜の出現が伝わり、兵たちは城門の中に避難してくる。巨大な門は閉め切るのに時間が掛かる。

 退避している兵たちは傷つきながらも戻ってくるのだ、簡単には閉められない。


 しょうがないな。始めるとしよう。


『ユージュ、兵たちが全員戻ったら、門扉もんぴの前に渦を二つ造れ。』

『はい。頑丈なの創りますね。』

 適当のにしろよ。


『ヒリュキ、戻った兵たちの監視・・を、『眼』で見ろよ。プの方たちも一緒にね。』

『りょ~うかい。』

 マップに表示された、戻ってきた兵の中に何か異質な反応がある……、数は少ないから、隔離して貰おう。どうやら目配せでヒリュキは俺が何を言いたいのか、見抜いたようだ。


『プの方たちってわたくしたちですの?』

 あら、聞いてた?

『あんたら以外、居ないね? よろしくお願い致します。プ・リウス様?、プ・リメラ様?』

『わたしはプ・リメラ。…リメラと呼んでセトラ様、プの方たちはやめて欲しい。姉様だけにして?』

 ネコ耳がぺしょっとしてる。う~む、ヤバイ。なでなでしたくなる。


『な……、なんてこと言うんですの~?』

 冷たい妹の言葉に愕然とする姉。あ、尻尾が膨らんでいる。

『わ、わたくしも、リ、リウス…と。よ、呼んで欲しくってよ?』

 デレた………。しかも語尾が疑問系ってアリ? んー、あり……かも?


「クスクス、そんなに見つめ合うだなんて、あなたたちずいぶん仲良くなったのね。」

 セリカ様の爆弾発言に第一王子のレビン様はハッとして睨みつけてくる。

「もしや、我が娘たちに惚れたとでもいうのか?」

 声と顔が怖い。端整な顔立ちに鬼が潜んでいるような笑顔に背筋が震える。


「いえ、そのようなことはありません。」

 勘弁してくれ……。そんなことになったら、俺はコヨミが怖いぞ。

 ……アレ? なぜなんだろう? なぜ、コヨミが出てくる?


 ……さ、さぁ、始めようか(汗)。天気予報は快晴。ところにより雨?が降るでしょう。

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