第9話 子供は暴風《かぜ》の子、嵐の子1-真実と偽装

 俺は、第一の使徒とやらが注目する前に偽装を発動した。自分のステータスが相手に知られるという事はアドバンテージが無くなることを意味する。と同時にヒリュキとユージュのステータスも偽装した。あいつらの出自は王族だけど、コヨミとウェーキ並みにハイスペックだったからだ。


 コヨミたちのも俺のも鑑定では表示出来なかったのだが、感じる魔力の強さや量は半端では無かった。


 ひとまず、あの辺境なら大丈夫だな。制御不能なコヨミの魔法-癒やしの雨-が発動してしまえば、相当に高レベルなヤツでも行動不能にはなる。

 水雷を得意とするウェーキもいるし、現在の彼らに対して抵抗出来るものは無いかもな。ま、心配だから、こちらが片付いたら跳んで帰ろう。

 いや、比喩で無く……。何かあったら、俺が凹むからだ。


 考え事をしていると魔人が振り向いた。

「クク、あなたがお相手くださるようですね? 勇ましいものですね。クククク……。」

 カラスの頭が特徴の執事服を纏った百七十から百八十セチくらいの背丈で、締まった体で有りながら筋肉質では無い体は柔軟性を保持している。誰が戦力なのかを的確に見抜いている。だが…。


「くっ?」

 俺が呻いたのが不思議だったのか、繋ぎっぱなしの想転移でヒリュキがとんでもないことを言ってくれた。


『おい、火が258も有るんなら楽勝じゃねーの?』

 偽装したはずのステータスがバレている?

 ギギギと音がしそうな動作でヒリュキを鑑定してみると、驚くべきスキルを持っていた。【真実の瞳】、偽装の天敵。レベルはまだ1だが、レベルが上がるにつれて一つずつ【瞳】が増えていく恐ろしいもの。まぁ、見たくないものも増えるのだろうが。将来の政治家には有り有りのスキルだな。

 って、そう伝えたら本人がげっそりしていた。

『えぇ~、やだなぁ。政治はもういいよ……。』


 ついでにユージュも鑑定しておく。こいつも無駄に良いスキルを持っていた。風が80という破格な値。やはり前世の相性も関係しているらしい。


『あのなヒリュキ、確かに数値だけなら楽勝なんだが、いまの俺に出来るのは最大値での全力ぶっ放ししかないぞ。魔王でも目の前にいるんならやってみる価値はあるけど……。』

 俺も初めて自分のステータスを見たときに驚いた。何でこんなにレベルが高いものなのか? と。

 原因は分かっている。前世からの気象魔法のレベルが関係していると。

 それに、いまは数種の転移が使える。関係しない訳が無い。

 転移魔法は空間魔法に属するし、気象魔法の方はカンストだし(しかし、こっちの世界にも気象魔法士なんて有ったんだな)、属性のほとんどは気象の中にあるし……なのだが。


『なんで? 適当な魔法書読むだけでもいいレベルじゃねーの?』

 頭を抱えた。こいつ、分かっていない。

 まぁ、そこら辺は一辺境領主の息子と一国の第二王子の息子という差なのかもしれないのだが。


『アホ。お前らの部屋が暖かいのは、床暖房に魅せられた親父の都合で俺が毎日毎日石畳を加工し続けたからだ。他の魔法書なんか読んでる暇なんて有る訳無いだろう?』

 前世からの腐れ縁のせいか、想転移パシスタのせいか、敬語が見事に崩れ落ちていた。まぁ、想転移だし、いいか……。


 ほんの一瞬のアイコンタクトとともに交わされた想転移だったが、

『フゥ、おしゃべりとは余裕ですか? あなた方は……全く。』

 と呆れた口調の横槍が入る。


『わたくしはプ・リウス・スクーワトルア。四歳ですわ。』『わたしはプ・リメラです。』

 第一王子の二人の娘。王女の一人、銀髪碧眼の姉のプ・リウスだった。双子の妹の方のプ・リメラも睨んでいた。ギョッとして、恐る恐る鑑定してみると、ともに【ウサギ耳】のレベル2を持っていた。別名地獄じごく耳だが、見た目から言うと、ネコ耳が妥当だろうか? 双子なだけに念話パシスのレベルが既に3ある。厄介な……。


 第一王子レビンは人族だが、妻のアクアは獣人族であり、銀髪にネコ耳、青い瞳と地球で言うシャム猫に酷似した姿をしている。

 このスクーワトルア国では、この地上に突き刺さった形の要塞が出来たときから国の王子の一人は獣人族との婚姻をしてきた。どうやら、アキバーという中世期のニッポン文明の名残らしい。誰だよ? こんな文化を持ち込んだヤツは?

 いや、王女様だけあって可愛いですよ? なめ猫みたいで……。


「あぁ……、忘れてた。【風よ、戒めの鎖を…】」

 火は危なくて使えないが、気象魔法士の力は存分に使える。とくに相手は羽を持つ魔人。

 気流を操れなくて何が気象魔法士……だ。そういえば不肖の弟子はどうした?


「先生……、流石さすがです。」

 言葉遣いが間違っている。

 王族のお前が敬語を使ってどーする!

 思わず頭を抱えてしまった。

 だが、王を含めあちこちで呆けていた。


「「「「「ユージュが喋った!」」」」」

 そっちかよ!


「グッ、み、身動きが取れん。これは……、貴様かぁ!」

 第一使徒とやらも先ほどの投擲から勘案して、風の加護を得ているようだが、この場では、ユージュですらお前より上位の加護を得ているぞ?


「外へ行こうか。お前の現状を知れば配下の者どもも止まるかもしれないしな。」

 そう言いつつ、さらに上位の命令が支配していることも踏まえて、風を操作する。なんといっても白銀に輝くこの王城を血で汚したくは無いからな。


 要請のあったこの王城の石畳の床暖房のための転移工事は俺と親父の二人のみで行っていたのだが、侍女の方から「やんごとなき方々様からです。」と、やたらと注文の多い要望書を出されて、唖然とした。実施すると、王城とはいえ防御力の格段に減ったものが出来上がる。スカスカの壁と床。

 工事したら確実に俺の首が跳ぶ。マジで、物理的に。

 親父に王様に確認して貰ったところ、どこかの三名様に超特大の雷が落ちたらしい。


「何を考えておるのだ、馬鹿者どもが!!」

 この雷は俺の力じゃ無い。


 それに折角、俺が床暖房を施したんだ、諸々もろもろあったんだし二度はやりたくないからな。こんな面倒くさいところは……。


 おっといけね、本音がダダ漏れた。


「「くっ」」

 あら……、聞こえたかな。どこの誰とは言わないが、なめ猫王女様の二人が顔を赤くしている。自覚があったらしい。

「わたしが入れる大きさの穴も造って」とか、「壁に穴を開けてリラックスしたいから」とか、他の王族の方々の三倍は疲れたぞ。三人分だったし……。


 まあ、超特大の雷のお陰で、ほぼ無しになったが。


 火モグラとの接触は、この王城に関しては全くノータッチという事になった。追いかけ回されて、火モグラがパニックに陥るのである。

 もし仮に、エサ場というものが設置してあったとしても彼らは思慮深く表に出るのを気にするだろう、なんと言ってもモグラ叩きの好きな方が現状で三名+αほど居るのだから、本能的に無理だと俺も思う。

 コインスリットだけ開けてある。毒エサだとしても一度癒やしの雨の入った壺に入れてから食べることになったため、各種状態異常が無効になるように。


 下手にちょっかい掛けて彼らが暴走したりすれば、蒸し風呂状態になるのは目に見えている。領内の獣人たちにも一切の接触が認められていない。

 領内の獣人たちに追いかけ回される火モグラではあったが、緊急避難場所を設置し、何かあった場合にはそこに集まるようになっている。


 そこは共同公衆浴場の地下。

 彼らの住む石畳に水の管を通すことで、お湯の供給を楽にし、そのお湯の流れる音で、火モグラたちの居場所を曖昧にしていた。


 今回の王城で苦労した点は、そこに有った。転移する穴は三つ。火モグラ用と水と湯の配管である。これにお三方の望むままに穴を開ければどうなるか、言わなくとも明確だ。

 崩れる、確実に。


 さて、いまは第一使徒の魔人アッイガイの処置だろうか?

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